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血の掟

■血の掟

●野盗襲来!
 立花紫(ia0666)はのんびりと屋内でお茶を楽しむ。
「もう今年も終わりですねぇ」
 ほぅと息を吐き窓の外に目をやると、千早(ia1080)が城の弱い所を補強しているのが見える。
 細かいところに良く目が届くものだと感心する。
 ふと、一ノ瀬綾波(ia2819)操る竜が空を駆けるのが目に入った。
 同時に鳴らされている呼子笛、あれは敵襲の合図だったと思い出すと、仕方が無いと相棒の毛ずくろいを止める事にした。
 【鵬翼】小隊の一ノ瀬綾波が竜から飛び降り皆に敵の陣容を知らせると、城内は俄かに焦りだす。
 まだ各小隊共に出陣準備が整っていないのだ。
 ゼーレ・シュヴァルツ(ia8380)と流離(ia1058)と露羽(ia5413)の三人はすぐに守備隊百を引きつれ迎撃に向かう。これで時間を稼ごうという腹だ。
 こうして楼港攻防戦、対野盗戦線の戦端は開かれたのだった。

 先陣を切ったのは辟田脩次朗(ia2472)である。
 愛竜止来矢に跨り、一息に敵陣後方にまで飛び込むのは蛮勇に近い行為だが、適度に引き下がる冷静さも併せ持つ彼は、一斧くれてやった後、ひらりと離脱していく。
 たまたま早めに来ていた若獅(ia5248)は、ここは俺の出番だなと勇躍敵に踊りかかる。
 所作はまるで少年のようだが、僅かに膨らんだ胸が女性を、ほんの微かに、主張している。
「アヤカシも厄介だが、野盗共も負けてねぇぜ‥‥」
 彼女の感想に頷きながらショートソードを振るうは大友緒李依(ia8882)だ。
「本当に怖いのはアヤカシよりも人ってか」
 違いない、と戦場のただ中にありながら笑う若獅。
 玖堂真影(ia0490)は小隊【句倶理】と共に戦場に乗り込んだ。
 やはり人数を揃え陣を組むと強い。数で勝るはずの野盗達であるが、息の合った句倶理の陣を崩しきる事が出来ない。
 こういった事は戦場の他の場所でも起きており、チョココ(ia7499)率いる小隊【虹薔薇】も数以上の働きをこなしている。
 序盤戦とはいえ、前線では激しく刀が打ち交わされる。そんな中を、甲竜尊琉に乗った栗山そよか(ia3127)が飛び抜ける。
「どうか戦闘をお止め下さい」
 まずは降伏勧告、といった戦の常な行動も野盗には通じず、笑い声と共に矢を射掛けられる。
 地上でそれを見ていたルーシア・ホジスン(ia0796)は、その行為に腹を立てたのか野盗達に声をかける。
「ヘイ、撲殺プリーズ?」
 何を言ってるのか良くわからなかったが、とにかく凄いムカっと来た野盗が襲い掛かる。
 数合打ち合った後、野盗は力なくその場に倒れ臥してしまった。
「野盗と戦い蹴散らしたの巻」
 何ともマイペースな子である。
 此花あやめ(ia5552)は高所に陣取り、矢を放ち続けて敵の侵攻を食いとめていた。
「キミたちはお呼びじゃないんだよっ!」
 しかし単身では踏み込まれた時対応出来ない。そう踏んだ野盗達は傷つき倒れた仲間を盾に接近してくる。
 そこに、氷那(ia5383)がすっと割って入る。
「助太刀させて頂くわね」
 火遁の術で怯ませその間にあやめの前に守るように立ちふさがる。
「あ、ありがとう」
「いえいえ」
 ちいっと舌打ちした野盗の一人が、隠神(ia5645)の十字手裏剣により斬り裂かれる。
「人相手に力を振るうは複雑だが‥‥出来ることはやらねばなるまい」
 氷那とあやめは顔を見合す。
「なるほど、彼も貴女の事見てたみたいね。前は私達に任せて」
 そう言いながら野盗に向かっていく氷那。
 敢えて口にする必要も無しと、そのまま連携を組むべく動き出す隠神。
「う、うん。ボクも頑張るよ!」
 個人で参戦した者達も、戦場の中で極自然に連携を取るようになっていく。
 舞坂楓(ia5773)は妹の舞坂茜(ia5731)と二人で戦闘を続けている。
 茜は治癒術を施し、その茜を守るように戦う楓。
 しかし、二人ではどうしても四方から攻め入られる戦場では守りきれぬ部分が出てしまう。
 茜もまた武器を手に敵を防がねばと構えた所に、レフィ・サージェス(ia2142)が斬りこんできた。
「申し訳ありませんが‥‥倒させて頂きます」
 野盗の一人に斬りつけると、同時に彼方から飛んで来た矢が同じ野盗に突き刺さる。
 思わぬ援護に驚く楓と茜。
「あなた達‥‥」
 矢を放ったルファナ・ローゼル(ia7550)がたったっと駆け寄ってくる。
「え、えっと、【冥土】小隊、援護させていただき、ますっ」
 楓と茜の二人は、にこっと笑ってこれを受け入れるのだった。
 柊・忍(ia1197)は数に勝る敵を相手に、暴れられるだけ暴れ回っていた。
 志体を持つ人間に攻撃が集中していれば、そうでない守備隊への損害は減らせようという考えだ。
 同じことを考えているのか、真珠朗(ia3553)も殊更に目立つよう戦いを続けている。
 離れた場所で戦っていた二人だが、ふと視線が合うと、忙しなく動き回りながらも口の端を上げてみせる。
 まるで、あたしはまだまだ余裕ですよ、ふん俺だってそうさ、なんて意地の張り合いでもしているかのようである。
 戦線は各所で一進一退を繰り返す。
 序盤は野盗達の予想外の進軍速度により、若干防御側が不利に展開している。
 後方から戦場を俯瞰している【鵬翼】小隊所属、伊予凪白鷺(ia3652)は、同隊長の紅鶸(ia0006)に問う。
「敵も存外にやりますな。さてさて‥‥如何様な方が率いておられるのか‥‥」
「誰だろうと構いませんよ。後少しで主力小隊も動き出しますし、それまで何としてでも持ち堪えなければなりません」


●小隊出撃!
 この戦において最大規模の小隊【悪来党】が動き出すと、戦場が俄かに活気付いてきた。
 小隊長悪来ユガ(ia1076)を筆頭に、各々が分担された役割をこなし、確実に戦場の主導権を取り返していく。
 また【野槌】【精武】【莢】といった有力小隊が動き出した事もあり、押されていた戦場を、少しつづ、少しつづ押し返してく。
 小鳥遊郭之丞(ia5560)は意気揚々と声を張り上げる。
「此れより精武の旗上げ戦を始める。我らに天つ神の加護やあらん!」
 正面から野盗達に当たる【精武】小隊。これを援護すべく鳳・月夜(ia0919)もまた敵陣に乗り込んでいく。
「【野槌】も援護するよ! ‥‥ってルオウ(ia2445)達はどうしたの!?」
 同【野槌】小隊の六条雪巳(ia0179)はすぐ隣で嘆息している。
「年の瀬に荒事とは‥‥少しは時期を読んでもらいたいものですねぇ」
「あーもうそれはいいからルオウ達は!?」
「頭目探して、とっくに突撃していっちゃいましたよ」
 っだー、と文句を言いつつ、残った人間で【精武】の援護に入る。
 正面を支えるのは流石に一小隊では厳しいのだ。
 【野槌】小隊の紫夾院麗羽(ia0290)は、やたら前へと出ようとする小鳥遊郭之丞のカバーを無言で続ける。
 いや、むしろ彼女の方がより激しく斬り込んでいるかもしれない。
 そんな前衛を支える小隊後衛組も充分機能しており、見ていて不安は無い。
 無論戦の最中であるし、そこに安全や安心などという言葉はありえないのだが。
 【悪来党】参謀、綴文乃(ia4115)はこうして開拓者の小隊が出張って来た事により圧倒的な優位に立った、とは考えていない。
 百の兵で支えていた守備隊はここらで一度下げなくては厳しいだろうからだ。
 情報収集を担当している仙石アヤメ(ia6516)が綴文乃の元へと戻る。
「頭目の所在は不明。中央は【精武】や【野槌】の連中も加わって何とか踏ん張れそうね。後は守備隊引き上げの援護だけど‥‥」
 どうやら【莢】小隊の幾人かと有志達で何とかなりそうだと告げると、綴文乃は少し驚いた顔になり、すぐ後ににこっと笑みを見せる。
 怪我人達に対する配慮をしていた人間が味方に居たと思えるのは、大層気分のよろしいものであるのだから。
 大友義元(ia6233)は既に怪我人を多数抱えている守備隊の引き上げを手伝っていた。
「はいはいはいっと‥‥見た感じ怪我はおもかぁないっすね」
 治療の手が足りないのはもちろんだが、搬送する人間が居ないのが一番の問題である。
 などとぼやいていたら、【莢】小隊の瑞姫(ia0121) が応援に駆けつけてきてくれた。
 篭城予定で後方に居た面々を引き連れてきたらしい。
「街に戻るまでの辛抱ですよ〜、皆さん頑張って下さい〜」
 街には水波(ia1360)が救護所を設置しているという。流石に気の効く人間は居るようだと義元は感心する。
 守備隊と共に戦っていた開拓者、ゼーレ・シュヴァルツと流離と露羽は、ここまで一緒に戦って来た仲間を置いていく事が出来ないのか、共に後退を手伝っている。
 露羽は、ふと思いついたように義元にたずねた。
「開拓者達はどれほど出て来ているのでしょう。対野盗だけにかまけている事も出来ませんでしょうし」
「さて、どうなんでしょうねぇ。元々開拓者なんて集まって何かするような連中じゃ無いですし、ねえ。せいぜい集まるにしても小隊規模が関の山だと思うんっすけど」
「そのワリに、随分とうまくやれてますよね、私達」
「ですな」
 特に傷の深い者を抱えて歩く二人は、どちらからともなく後ろを振り返る。
 戦場からは土煙が上がり、まだまだ激しい戦闘が繰り広げられている様が容易に想像できた。
 粉塵は行き交う兵達の起こした嵐か、紗耶香・ソーヴィニオン(ia0454)は 疾風脚にて土煙ごと野盗を蹴り飛ばす。
「では、みんな! 行きますよ!」
 【莢】小隊の前線担当者達は紗耶香が切り開いた突破口へと殺到する。
 いや彼らだけではない。しぶとく粘っていた敵前衛がようやく崩れ始めてくれたのだから、これぞ好機と飛び込む者は他にも居よう。
 が、しかしそれでも駄目。
 後続より殺到した敵によってすぐに穴は埋められ、再び堅固な防壁と化す。
 しかし、これを見た開拓者達は、ついにその時が来たと察する。
 これまでに無い規模での戦線の崩壊を、あっという間に埋めてみせたのは本陣からの直接援護であろう。
 ならば、これまで完全に隠れおおせていた敵頭目も動きを見せたに違いない。
 それを察知する準備は、皆が皆、充分に仕掛けてあったのだ。


●頭目を追い詰めろ!
 葉隠・響(ia5800)は盗賊の衣服を身につけ、野盗軍の中に忍び込む事に成功していた。
 だが、そこから先が良くない。
 あまりに踏み込みすぎるとバレてしまいエライ事になるが、かといって下っ端と一緒に居るだけでは頭目が何処に居るのか皆目検討もつかない。
 偽情報をつまかせてやろうと息巻いていたのだが、そもそも野盗はとても盗賊とは思えぬ程に指揮系統がしっかりしており、下手な真似も出来ず身動きが取れなくなってしまったのだ。
 やきもきしている間に開戦してしまい、せめても頭目の位置だけでもと目を凝らす。
 そんな事を続けていて、ようやく、動きが見えた。
「本陣を前に出せ」
 ぼそっと、小声であるがそう指示を出した男を見つけたのだ。
 決して所在がバレぬよう入念に隠し続けてきたのだろうが、遂に尻尾を掴む事が出来た。
 よしっと、動く響。
 本陣移動に合わせての脱出だ、これならばそうそう見破られる事もあるまいと思っていたのだが、敵もさるもの。  シノビらしき気配が後をつけてきている。
 マズイっ、そう思った時には遅かった。
 三つの影に取り囲まれる。
 内の一人がすぐに口を開いた。
「‥‥あー、もしかしてあんた開拓者軍じゃないのか?」
 捕まるぐらいなら死ぬ気で暴れたるわーとヤケになりかけていた響は、まさかと問い返す。
「え? もしかしてあなた達も?」
「ああ、【華夜楼】の御神村茉織(ia5355)だ。んでこっちは楊・夏蝶(ia5341)。えっと、あんたは‥‥」
 もう一人は彼も知らない相手らしい。
 頭目の情報を得るなりすたこらと逃げ出し、それを野盗軍に報告するでもなく逃げ続けるのを見て、これは味方だとお互い判断した模様。
「【百花繚乱】小隊の胡桃楓(ia5770)です。そちらは何処の小隊なのですか?」
 響は安堵のあまりぐったりと肩を落としている。
「ふへー、びっくりした〜。って私は小隊所属じゃないよ。単独単独」
 えっ、と三人の表情が凍りつく。
 こんな危険な任務を、小隊のフォローも無しに挑むなぞと‥‥いやシノビの任務にはそういったもの多々あるが、少なくとも開拓者として請け負う任務にそういった無茶はほとんどない。
 夏蝶は飄々とした顔の響を見て呆れるやら驚くやらである。
「すごいわねー‥‥ってそれはいいから早くみんなに知らせないと」
 火矢や呼子を用いて連絡を行うと、あちらこちらから小隊やら単騎やらが、敵本陣目掛けて凄い勢いで突進していく。
 皆この時を待ちかねていたのであろう。
 一番派手な突撃は、やはり【天華】小隊の竜による強襲攻撃だ。
 天宮涼音(ia0079)に率いられた竜の一群は、上空より本陣と思しき箇所に急降下、一撃くれて即離脱を何度も繰り返す。
 また、下でも各小隊の突撃が始まっている。
 【玉鋼】小隊長琴月・志乃(ia3253)が吼える。
「前回はいまいちやったからな、今回は三割り増しや! 行ったれや! 猫好志士三人衆!」
 名称からどんな存在なのかがあっという間にわかるとても優れた贈り名だ。
 【玉鋼】小隊が誇る切り込み隊、猫好志士三人衆、蒼零(ia3027)、都騎(ia3068)、幻斗(ia3320)は敵を斬り裂き、本陣奥の奥へと分け入っていく。
 平行するように突入していくのは【絶頴】小隊である。
 太刀花(ia6079)は皆に先んじて飛び込む。これこそ志士の役割と言わんばかりである。
「この戦いが終わったら俺、猫又買うんだ‥‥」
 同小隊の宴(ia7920) が即座につっこむ。
「死亡フラグ! 兄さんそれ死亡フラグですぜ!」
 旗云々はさておき、特定された本陣周辺は敵味方入り乱れての混戦気配が漂ってきた。
 それでも本陣に集めた数で堪えきる。ただの野盗とは思えぬ見事な指揮官の采配である。
「なればこそ、蹂躙し叩き潰すのが礼儀、さぁ‥‥死ぬ準備をするがいい」
 小隊長雲母の号令の元、【雲母隊】が側面より攻撃を開始した。
 ほぼ時を同じくして逆側から別の小隊が突撃を開始したのは、やはり今こそが好機と見たせいであろう。
 【焔風】小隊もまた、側面から敵陣を崩しにかかったのだ。
 どちらも一直線に頭目目指して突っ切りにかかるのだ。これを止めるのは至難の業であろう。
 そして、最後の一隊が混戦の最中を抜け出して、敵頭目へと迫る。
 重厚に敷かれた陣を、仲間達を信じ手を出さずひたすら前へと進むことに専心した【桔梗】小隊のフェルル=グライフ(ia4572)が、ついに頭目の許へと辿り着いた。
 小細工は抜きだとばかりに長巻にて両断剣を叩き込む。
 しかし頭目も伊達にこの数を率いているわけではない。
 志体を持つフェルルの攻撃を、真っ向から受け止めてみせる。
 視界の端で、僅かに光が煌いた。
 瞬間、頭目の動きが鈍る。
 【雲母隊】の平野 譲治(ia5226)が視界の隙間を縫うように放った斬撃符であった。
 また【焔風】小隊の春金も呪縛符を飛ばして頭目の動きを制する。
 二人とも、眼前の敵を放置してまでフェルルの援護をしたのだ。
 更にフェルルを止めにかからんとしていた野盗が突然、火に包まれる。
 これは木葉隠を用いて密かに戦っていた忍(ia8139)が火遁にて援護をしたせいだ。
 苦悶に歪む頭目の顔、フェルルが思わぬ皆の支援に感謝しつつ振り下ろした長巻は、頭目の胴を深く斬り裂いた。
 ‥‥かに見えたが、寸前でかわし、鎧を切り落とされるのみで頭目はコレを避けえた。
 荒い息を漏らす頭目。かわしたとはいっても、胴に刀傷を負っているのだ。これは無視出来る状況ではない。
 その動きを察し再度大きく踏み込むフェルルは、頭目の片足を深く斬りつけるのみで、直後、頭目の奥義、大車輪が炸裂する。
 致命傷ではないが、頭目の重い一撃はフェルルの足を止める。
 やはり相当な手練である。大車輪はかなり熟練の開拓者でもなければ扱えぬ技であるのだから。
 しかしここで怯んでは皆に申し訳がたたぬと、フェルルは自らを鼓舞し長巻を後ろに大きく引き下げる。
 が、何と頭目は怪我した足もそのままに一目散に逃げ出したのだ。
 怪我の分こちらが早い、そう思い踏み込むフェルルの前に、野盗達が立ちはだかる。
 これは頭目を守ろうとかではなく、単純に戦の狂乱に巻き込まれた野盗達が好き勝手に暴れているだけである。
 一息に振り払える程、この野盗達も容易くはない。
 大魚を逃したと歯噛みするフェルルは、ふっと頭上を見上げる。
 間に合った。フェルルが足止めをしていたおかげで、上空に居た【天華】と【華夜楼】の竜達も頭目を発見出来たのだ。
 次々上空から急降下攻撃を仕掛ける竜達。
 こけつまろびつ頭目は逃げ回り、そして遂に、【華夜楼】小隊、黎乃壬弥(ia3249)が頭目の首を刎ね、戦は終了した。
「群れは頭を潰せばそれで終わる。無益な殺生は避けるべきさな」
 彼の言葉通り、野盗達は強大な力を持つ頭目への恐怖と信頼あってこそ戦えたのだ。
 頭目倒れるを知るや、誰もが逃げ出そうと試みるが、最終的な戦力比は『一般人を中心の野盗団約300人』VS『開拓者291名』である。
 到底逃げる事も出来ず、運良く生き残った者もほとんどが捕らえられてしまった。

 つまる所、対野盗戦線は開拓者達の完勝であった。

 野盗達はアヤカシに誑かされたのか、そう水鏡雪彼(ia1207)は推測し、生き残った幹部達を締め上げんとしたが、たぶらかされるも何も、討ち取られた頭目は元より野盗の頭として活躍(?)しており、敢えてこの機会に乗り込んだのは女に今が好機と勧められたからだという。
 まさに誑かされていたわけであるが、事実街は危機的状況に陥った事であるし、野盗達はその隙に好き放題暴れさせてもらおうとした訳で、救いがたい事であるがアヤカシと彼等の利害は一致していたのだった。
 野盗達にしてみれば女がアヤカシであるかどうかなど、どうでも良い事だったのだろう。
 事情を聞いた柚月(ia0063)は、むーっと口のへの字に曲げる。
「なあすぐり、おっちゃん。僕らのやった事って結局何だったん?」
 すぐり(ia5374)は困った顔でおっちゃんこと劉厳靖(ia2423)を見ると、彼は二人の心配を豪快に笑い飛ばした。
「はっはっはっ。んまあ、細けぇことは気にすんな!」
 随分適当すぎる言い草であるが、彼はそれだけの男ではない。
「うん百人規模、頭目は志体持ちなんてぞっとしねえ盗賊を退治出来て、こっちゃあ守備隊含めても死人は無しなんだ。これで文句言ったらバチが当たるぜ」
 後は、と彼方の空に目を向ける。
 アヤカシ達との決戦がうまく行ってくれれば万々歳、とは口にしなかった。
 敵の強さを、アヤカシの手ごわさを、開拓者達は皆良く知っているのだから。

(担当 : 和)


●出撃
 楼港に、嵐が迫りつつあった。
 嵐の名は鳥雷獅子。率いる飛行アヤカシの数はおよそ300。
「対してこっちは半数にも満たぬ、か。こりゃ苦戦するねぃ‥‥」
 空を見上げてぼやくは好危 辰(ia5556)。数の上では限りなく不利。されど、開拓者達の士気は高い。
「僕たちは負けられない‥‥空の平穏を取り戻し、その下に暮らす人々を守る為に!」
 駿龍・彗祇の手綱を握り締めた神去(ia5295)の言葉に、多くの開拓者達が呼応する。
「まだ未熟ですが‥‥住民達のため、今は精一杯に、駆けます!」
 背に負いしは人々の住む街、ならば如何に不利であろうと引く道はない。
 今、百と三十の騎影が、嵐を打ち砕かんと空へと舞い上がった。

●天空の激突
「我が犬の子等よ! 今こそ、その力一つに合わせ、空の番犬と成らん!!」
 まずアヤカシと衝突したのは、今回の作戦で2割弱の勢力を占める【犬神隊】だ。甲龍・黒狗の背から放たれる犬神・彼方(ia0218)の号令の下、甲龍の陣を前面にアヤカシへと突き進む。
「ちと怖いが、ここは死守だぜぃ?」
 迫るアヤカシの爪を、百舌鳥(ia0429)は右の眼で真っ直ぐに見つめる。それが彼を捉える寸前、彼の甲龍が硬質化した鱗で受け止めた。
「い、今です‥‥お願い、捨土!」
 そこに素早く、横合いから雪ノ下 真沙羅(ia0224)が割り込む。
「と、捉えました‥‥そこです!」
 炎龍の爪が、攻撃後で体勢の整わぬ大怪鳥を切り裂いた。アヤカシの喉から悲鳴が上がり、淀んだ血が迸る。
 それを切欠に、あちらこちらで戦端が開いた。数に劣る開拓者達の武器は、その連携だ。
「相手の強さは関係ない、民を守り抜く信念を貫くだけだ」
「簡単に突破できると思うな!」
 例えば、滝月 玲(ia1409)の炎龍・瓏羽と、焔 龍牙(ia0904)の駿龍・蒼隼。【雲】の二人が織り成す素早い連携は、アヤカシ達を翻弄する。
 そして、彼らの龍を捉えようと躍起になったアヤカシ達を吹き飛ばす霊魂砲。
「全く、龍での初体験がコレっていうのもオツな物よね」
 放ったのは甲龍・鉄葎の背で妖艶に笑う葛切 カズラ(ia0725)。連携によって向かってくる敵を抑え、数を減らす。
 また、予め徒党を組み作戦を練った者たちだけではない。単独で出撃した開拓者も、戦場で戦ううちに自然と連携を取っていくようになる。
 そういった者を援護するのは、永和(ia7885)や柊 かなた(ia7338)といった、射手が放つ矢弾。
「戦は、怖い。だけど‥‥誰かが死ぬのは、嫌だ‥‥っ!」
「空に別れを言いなさい‥‥!」
 駿龍・帆太琉、甲龍・永久孤の背から放たれる的確な騎射が、アヤカシを牽制する。それに助けを得て、一気にアヤカシに肉薄する駿龍・雪姫、操るは立風 双樹(ia1150)。
「空を飛ぶアヤカシは民草にとって脅威‥‥此処で仕留める!」
 焔纏いし業物が空ごとアヤカシの翼を切り裂き、地に落とす。
 そうして、開拓者達は己が可能な範囲‥‥いや、それ以上に、アヤカシを押し留め、打ち倒していた。
 しかしそれでもなお、アヤカシ達の進軍は止まらない。両翼に展開する下級アヤカシ達もまた、真っ直ぐに楼港へと突き進んでいる。
「絶対に越えさせない…行くわよ、パティ!」
 そのアヤカシの前に立ち塞がるのは、両翼に布陣した開拓者。
 シエラ・ダグラス(ia4429)と駿龍・パトリシアが、その先陣を切ってアヤカシに切り込んだ。決意と共に繰り出される攻撃は、アヤカシを引き裂いていく。
「この先へ行くならば、この剣と翼を越えてからです!」
 彼女達を包囲しようと動くアヤカシ達を、真っ直ぐに見据えるシエラ。そのアヤカシの爪が彼女に届く前に、風の刃がそれを阻む。
「輪唱師・氷、朱璃阿(ia0464)参上!」
「同じく輪唱師、青嵐(ia0508) ‥‥さて、行きましょうか、ね」
 二匹の甲龍、時緒と嵐帝の背より、陰陽術で前衛を援護する【輪唱師】の二人。そういった援護を得て、次々と開拓者達がアヤカシの陣へと突き進んでいく。
「花木蓮の初陣‥‥見事な花を飾ってみせます!」
「全く、ほんと無茶するんだから‥‥僕がついてないとねっ!」
 神咲 輪(ia8063)の慧と神咲 六花(ia8361)の翠、二匹の炎龍がアヤカシを引きつけ、左右から挟み撃つ。仲間を墜とされたアヤカシ達が2人に群がれば、それをアヤカシを抑えるのは、深山 千草(ia0889)の甲龍・寿々音。
「空と、心。両方の暗雲を、一気に晴らします‥‥」
 寿々音が盾となって慧を護り、寿々音へ向かう敵は慧と六花が矛として打ち砕く。その【花木蓮】の連携を、桔梗(ia0439)の生み出す恩寵の神風が支える。
「風音も、皆も一緒。‥‥頑張る」
「お団子家族の力、見せてあげます!」
 桔梗が呟けば、輪がアヤカシに向けて強く宣言した。こういった、的確な連携でアヤカシの数を削る光景は、両翼の陣でも各所で見られる。
 例えば、やや高空からアヤカシの群れを睥睨するのは、駿龍・ミストラルを駆るバロン(ia6062)率いる【白獅子】。
「やるべき事を、全力でやるのみよ‥‥白獅子隊、往くぞ!」
「了解しました」
 雲生(ia8827)ら弓術師が、その声に応じる。彼らは6人の弓術師を擁する射撃部隊、その初端を切るのは、炎龍・宵闇を駆る設楽 万理(ia5443)。
「武士が民間人の前で敵に背を向ける訳には‥‥ね!」
 放たれたバーストアローが、アヤカシの陣を大きく崩した。そこに降り注ぐ矢の雨が、惑うアヤカシ達を次々と捕らえていく。
「ふふ、久し振りのお祭りだね、ドルチェ♪」
 鷹澤 紅菜(ia6314)も、己が駿龍に声をかけ楽しげに弓を構える。が、その表情とは裏腹に、少女の弓から放たれる矢はアヤカシにとっては熾烈の一言だ。
「仲間の為にも自分の為にも、今できる事をやるだけだ」
「絶対、近づけさせないっ!」
 射手達を厄介と見て近づこうとするアヤカシには、慄罹(ia3634)と甲龍・興覇が、一心(ia8409)と駿龍・珂珀が、それぞれ立ちふさがり、撃退していく。
「さあ、こっちですわ!」
 アヤカシを挑発するように飛び出し、すぐさま後退する甲龍・霧生。それを駆る出水 真由良(ia0990)の狙い通り、アヤカシ達は彼女を追いかける。
「おあ、あうああ、酔う‥‥ぅぅぅっ!」
 同様に、及川至楽(ia0998)も急激な動きの変化でアヤカシを引きつける。その急な動きに酔いを覚えながら、炎龍・聚楽を必死に操っていく至楽。
「鬼出電入の名のもとに、射ち落としてやろう!」
「これ以上は、行かせません」
 そうして誘導されたアヤカシは、真由良の陰陽術で生み出された火炎獣や、藤(ia5336)、彩音(ia0783)といった射手の騎射によって射抜かれ、打ち落とされていく。
 開拓者達は、アヤカシの数を確実に減らしていった。

●死闘
 だがしかし。戦場全体を見渡して、駿龍・黒耀の上で天目 飛鳥(ia1211)は眉を顰める。
「こいつは、まずいか?」
 個々の戦闘では開拓者は大きな優位を維持している。しかし戦場全体で見た時、やはり数の不利は容易には覆せない。
 特に、正面のアヤカシ精鋭部隊に対応する開拓者は劣勢を強いられ、鳥雷獅子へと近づく事も出来ずにいた。
 いくらアヤカシを倒しても、それ以上に味方は傷つき、戦線は後退する一方。
「これ以上下がれば、楼港が近くなりすぎる‥‥一気に抜かれかねないぞ!」
 それだけは避けねばと、己が甲龍をほとんど壁にするようにアヤカシの前に立ちはだかる、羅喉丸(ia0347)。
「甲龍乗り達よ、俺に続いてくれ!」
「無論。アヤカシよ、敵はここだ!」
 彼の呼びかけに幾人かが応じ、展開される即席の甲龍の守備陣。戦部小次郎(ia0486)は正宗の背から、アヤカシを挑発して少しでも敵を引きつけようとする。
「やれる事を全力でやろう!」
「おう、やっぱり空中戦はこの戦の華だしなっ!」
 獅皇吼烈を駆る花脊 義忠(ia0776)が士気を鼓舞せんとするが華と言うには必死の防衛線も虚しく、下級アヤカシ達は徐々に開拓者達の陣を突破していく。
 だが、それでもその数を最小限に押さえ込んでいるのは、間違いなく彼らの功績だ。
「各自判断なれば、守りより攻める者が多くなるが戦場の常じゃ‥‥抑えをこそ厚くせねばならぬ」
 護りを固め、アヤカシの足止めをする鬼限(ia3882)。アヤカシの侵攻を全力を持って進軍を抑え込む。
「踏ん張れい、結! 此処で彼奴めらを押し留めるのじゃ!」
「本当に、飛ぶアヤカシってのは厄介なもんだ!」
 甲龍陣を援護するは、紅月 刑部(ia2449)ら。守りきれず突破しようとするアヤカシを、矢弾で打ち落とし、あるいは陣の向こうへと押し戻す。
 そうして稼いだ時間、他の開拓者達はアヤカシを狩っていく。少しでも多くのアヤカシを墜とし、少しでも楼港へ至る敵を減らす為に。
「覚悟を決めろ‥‥お互いになぁ!」
「たいしたことはできねぇが‥‥やれるだけやってやるさ!」
 【犬神隊】の陣を囲むアヤカシを、酒々井 統真(ia0893)と駿龍・鎗真、榊原・信也(ia0075)と駿龍・韋駄天が素早い動きで撹乱していく。
「まだもつか、甲龍?」
 敵が彼らによって引き剥がされた事でようやく息を付く間を得た龍牙・流陰(ia0556)は、己の龍を気遣うように声をかける。
「皆さん、大丈夫ですか!?」
「皆様‥‥無理‥‥なさらぬ様に‥‥」
 甲龍・カブトを駆る沢渡さやか(ia0078)が、神風の恩寵を乞い龍の傷を癒す。A(ia3839)もまた、時には清らかな風を呼び、時には神楽舞・攻にて味方を鼓舞する。
「ああ、助かる。‥‥もう一踏ん張り、頼む!」
 回復した甲龍の手綱を握り、流陰は再度隊の盾として龍を駆る。
「ふん、我らを落とせるものならば、落としてみるがいい!」
 近づく敵の爪を甲龍・玄虎の鱗で受け止め、紬 柳斎(ia1231)は大斧をカウンター気味に叩き込む。
 真っ二つに裂かれたアヤカシが墜落し、それによって目の前が開け。
「っ‥‥!」
 敵の様子を警戒していた夜蝶(ia5354)が、その切れ長の眼を見開く。
 分厚いアヤカシ達の壁を抉じ開け、ようやく。
「鳥雷獅子‥‥!」
 ようやく、目指すべき敵への道が開かれた。


●雷を砕け
「この数の差で良くやるものだ、開拓者どもよ。成る程、炎羅殿を殺ったと言うだけの事はある」
 鷲の嘴から、低い声が発せられる。開拓者達にその目を向け、鳥雷獅子は──分かり難いがおそらく──笑みを浮かべた。 「さほど必要もあるまいが‥‥わしの名は鳥雷獅子。狐妖との盟によって、この場を通らせて貰おう」
 名乗りを上げたのは、開拓者達の力を認めたがゆえ。即ち‥‥己が手で狩るに相応しい相手と。
「そうはさせぬ!」
 にらみ合いからまず飛び出したのは【豺狼山脈】の相馬 玄蕃助(ia0925)。
「良い敵、ござんなれ! つかまつるは大興奮じゃ!」
 彼と鳥雷獅子の間に割って入るように、怪炎鳥が羽根を広げる。しかし構わず、炎龍・大孔墳と共に彼はその赤き胴へと長槍を突き立てた。
 流石に鳥雷獅子の直衛だけあって、その槍にも怯まず炎を纏う。その高熱を大孔墳が回避するのに前後し、他の開拓者達も動き出す。
「空で宴とはなかなか趣があっていい。しかし、邪魔者には退場して貰うとしよう」
 怪炎鳥へと追撃を加えるは柳生 右京(ia0970)。怪炎鳥の翼を狙って斬馬を振るい、その半ばまで食い込ませる。
「【豺狼山脈】が将、北条氏祗(ia0573)。我が二刀流を冥土の土産とせよ」
 次いでさらに二刀。三騎による連撃に、身体をずたずたに切り裂かれて炎と悲鳴が赤き鳥から漏れる。
 しかし、その隙に鳥雷獅子は、間合いを離す。次いで別方向からの追撃は、鷲頭獣に阻まれた。ようやく道が開けたとはいえ、周囲には依然アヤカシ達が少なくない。
 手が出せなくなるほど大きく離れる気は無いようだが、このままでは鳥雷獅子に攻撃を届かせるのは難しい。
「まずは周りのアヤカシをどうにかしなくては‥‥」
 甲龍・月輪の背から、李・皇蘭(ia8300)が矢を射掛ける。鳥雷獅子を護る精鋭アヤカシ、まずはそれを引き剥がさねば動きを封じるなどおぼつかない。
「皆さんの道は、私が!」
 鋭い即射、隙を見せない矢継ぎ早の矢弾がアヤカシ達を打ち、鳥雷獅子への道を抉じ開ける。
「さあ、わたしたちも、いくわよ!」
 そうして作られた隙を縫うように突き進むは、旗印を押し立てる【白蛇】、その隊長は静月千歳(ia0048)。
「なまこさん、皆さん、頑張りましょう!」
 一風変わった名の甲龍の背で、鈴梅雛(ia0116)が神楽を舞う。高められた士気のまま、突き進むは甲龍・赤岩とその駆り手たる伊崎 ゆえ(ia4428)。
「落っこちないように、と‥‥いきます!」
 当たれば幸い、と豪快極まりない長柄斧の暴風が吹き荒れた。素早い飛行アヤカシを捉えるのは難しくとも、近寄りがたい空間を作る事で敵の動きを制限する。
「おっと、逃げられないわよ?」
 そこに放たれる、蓮見 椿(ia0512)の符術による呪縛。炎龍・華宴の背から飛ぶ式に囚われ動きが鈍った鷲頭獣が、ゆえの長柄斧に首を切り落とされる。
 これまで同様、開拓者達の連携により、確実にアヤカシが打ち倒され、あるいは鳥雷獅子から離されていく。彼らの刃は確実に鳥雷獅子へと迫り。
「っ‥‥来るっ!? 千歳さん、雛ちゃん、ボクの後ろに‥‥!!?」
 伊崎 紫音(ia1138)の叫びをかき消すように。鳥雷獅子が唸りを上げた瞬間、周囲を雷光が包み込んだ。
「味方ごと、とはな‥‥!」
「この程度で倒れる者など要りはせぬよ。まあ、倒れなかったからと、大切に扱う訳でもないがな」
 放電は無差別、アヤカシをも焦がし、その陣を引き裂く。が、アヤカシの被害以上に、この攻撃は開拓者にとって脅威だ。これまでの戦闘で傷ついた物達には止めとなり得るし、何より‥‥後衛にも届く電撃は、開拓者の唯一にして最大の武器である連携を大きく崩しかねないからだ。
「これ以上打たれる訳にはいかねぇな‥‥闇鍋みてえにごちゃ混ぜの身体しやがって!」
 吐き捨て、鬼灯 仄(ia1257)は甲龍と共に鳥雷獅子を睨みつける。
「人様が遊郭で羽を伸ばしてるのを邪魔するんじゃねえ!」
 少々個人的な言葉と共に放たれる一矢。今にも電撃を放とうとする喉を狙ったそれは回避されるも、そこに僅かな隙と、猶予が出来る。
「行こう、ガイロン。これは僕達にとってきっと良い経験になるよ‥‥!」
 その瞬間、己が甲龍と共に真亡・雫(ia0432)が間合いを詰める。
「ぬぅっ‥‥!?」
 本来ならば、他のアヤカシ達によって道を阻まれる所。しかし、先の放電に巻き込まれたアヤカシ達の動きは鈍く。
「頑張ってください‥‥こんな所で負けるわけにはいきません!」
 逆に、甲龍・田鳧に護られ先の放電を凌いだ万木・朱璃(ia0029)が、雫とガイロンを癒している。その二つが、鳥雷獅子にとっては誤算。
「お、のれっ!?」
 前面に押し出した硬質化した鱗に、鳥雷獅子が鋭い爪を突き立て‥‥それは半ばまで食い込むも、致命には僅かに足りない。
「ここ‥‥だっ!」
「ぐっ、がぁっ!?」
 龍に受けた衝撃に大きくバランスを崩しながらカウンターで繰り出された刀は、鳥雷獅子の羽根の付け根を切り裂く。鷲の頭から漏れる苦悶の悲鳴。
 しかし流石に上級アヤカシ、大きく揺らぎながらその一撃では倒れず、放電による反撃を試みる。
「空飛ぶのは初めてだけど‥‥負けるつもりはないんだからっ!」
 が、それよりも、駿龍が早い。龍に身を委ね、ミル ユーリア(ia1088)が鳥雷獅子へと突撃し。
「させるものか‥‥!?」
 それを迎撃しようとした鳥雷獅子の目の前で、その軌道が変わる。かく乱の囮だ、と鳥雷獅子が気付いた瞬間。
「その力を見せよ、回天!」
「人龍一体‥‥墜ちよ、雷獣!」
 蘭 志狼(ia0805)、鬼島貫徹(ia0694)‥‥二人の炎龍による本命の突撃が、鳥雷獅子を捕らえた。長槍がその身を抉り、大斧はその身に食い込み。
「っ‥‥おぉぉっ!!」
「なっ!?」
 が、獲った‥‥と、そう思った瞬間、鳥雷獅子の口から雄たけびが迸った。放電が二人を弾き飛ばす。
「まさか‥‥これほどまでとは‥‥っ!」
 一気に飛び離れ、鳥雷獅子は吐き捨てた。その言葉と共に、口から血が漏れる。
「もう一撃‥‥!」
 咄嗟に次撃を狙おうと開拓者達は近づくが、その身を護るようにアヤカシが鳥雷獅子の元へと集中する。先の放電の際の雄たけびが集合の合図だったのか。
「これ以上は‥‥させんよ。だが、この倍の龍がおって、こやつらが先に倒されていれば、わしの首が胴から離れていたかもしれぬな‥‥」
 息を切らせ、鳥雷獅子は開拓者達を睨む。が、ひとしきり睨みつけた後、鳥雷獅子は僅かにその声に笑みを混じらせ続ける。
「‥‥いや、ここは、これだけの頭数でわしに手傷を負わせた、その強さを誉むが先か」
 その鷲頭からは表情は掴み難いが、その声音は、戦いに満ち足りた充足と傷つけられた屈辱が入り混じっているようにも感じられる。
「今宵は、狐妖への義理も果たした。次は狩りではなく、対等の相手としてお主らと戦うとしようぞ」
 一つ羽ばたいて、雄叫びをあげる鳥雷獅子。それを合図とし、しゃにむに楼港を目指していたアヤカシ達が、急に反転する。
 再度の号令が響くと、統制の取れた動きで撤退していく飛行アヤカシ達‥‥それを追い、追撃戦を仕掛ける余力は、激戦を繰り広げた開拓者にはない。
「勝った‥‥のか?」
 誰ともなく、呟きが口から漏れる。敵の首魁には逃げられたが、大きな手傷を負わせ、倍の戦力を相手取って楼港への侵攻を阻止した。
 手放しに喜べる大勝利と言う訳ではなかったが、それは確かに‥‥激戦の末に勝ち取った、勝利であった。

(担当 : 一二三四五六)



●楼港の守り
 陽が傾くに従い、地と空を覆う戦いは苛烈さを増し、拡大していく。
 鳥に似た羽根を持ち、襲うアヤカシ達に、皮翼を広げて空を駆け、迎え撃つ龍達。
 海の上で繰り広げられていた戦いの波は、それを見守っていた楼港の人々の上へも波及した。
 大きな黒い翼が、通りへ急降下し。
 雲の子を散らすように逃げる者達から、『獲物』を抓み上げようとする。
 アヤカシの影にあがる悲鳴を裂いて、斬撃符が飛んだ。
「その汚らしい爪、退けぇッ!」
 駿龍鳴人の背から中将実篤(ia0510)が打った呪符は、赤黒い爪を緩ませ。
 狩りの邪魔をされたアヤカシ大怪鳥は、ギャァギャァと吠える。
 ピリリーィ!
 吠え声に負けじと柊 真樹(ia5023)は呼子笛が吹き、人々と仲間へ迫る危険を知らせ、呼びかけていた。
「街の皆さんは、出来るだけ家の中へ逃げて!」
 その間も駿龍真白はアヤカシの爪をかいくぐり、主の身と役目を守る。
「これもまた‥‥狐妖姫の陽動、か?」
 自分達の頭上にまで広がった戦いに、騒然とした楼港の街。
 少しでもアヤカシから離れようと逃げ惑う人々の流れに逆らって、香坂 御影(ia0737)は通りを駆けていた。
「どこに、潜んでいる」
 要所ならば開拓者ギルドか、慕容王が滞在する遊郭。
 それとも此度(こたび)の騒動の要でもある朧谷氷雨の元か、あるいは――。
 憂いとなる選択肢は、多く。
 楼港を守る開拓者達は、それぞれが「これ」と決めた要所へと散っている。
 無論、一つ所には限らず、守りを楼港市街地の全てと決めた者達も。

「くっそ、えらく盛大に暴れやがって」
 小隊【黄巾】が一人、真芝 十路(ia8724)が喉の底で呻いた。
 仲間達に合わせ、隊の名の通り、目立つ黄色三角巾で髪を覆っている。
「これが、合戦の空気‥‥」
 黄色い外套の襟を押さえながら、趙 彩虹(ia8292)は初めて臨んだ光景に、息を呑んだ。
 空に舞う300のアヤカシを撃つべく飛んだ、100人を越す開拓者。
 地でも野盗の大集団に対し、300人近い者達が集っている。
 集った力は、長らく不倒と言われ続けた大アヤカシを討ち取った。
 足元に擦り寄る気配に見れば、猫又茉莉花は硝子玉の様な瞳で彩虹を見上げている。
 口にはせぬが、瞳は告げていた‥‥出来る、と。
「はい、負けません。舞様や皆様と、一緒ですから」
 飛手をはめた拳を握った彩虹の上を、黄色の外套をまとった鳥介(ia8084)の炎龍来が低く飛んだ。
「この騒ぎ、どうやら鳥雷獅子と共に現れたアヤカシだけでなく、街へ忍び込んだアヤカシが起こしているようです」
「通りへ逃げる人達がいるのは、そのせいネ!」
 駿龍鱗雲の背で黄色い旗を翻す瑞木 環(ia2772)が、声を張って答える。
「よぅし、空はお願いするね。地上は、うちらが回るよ!」
 土偶ゴーレム獅猩を連れた【黄巾】小隊長、藍 舞(ia6207)は、手短に仲間へ役目を託し。
「彩虹、ナナ。気が付いた事があれば、何でも言ってね」
「判りました」
「はいですの〜!」
 彩虹に続いて、興味の向くまま騒がしい街の方々へ目を向けていたナナ・シノ(ia8022)が、ぴょんと跳ねて答えた。

 個々で判断して動く者達も、アヤカシを見つければ、手にした獲物を振るい。
 また傷付いた者へは肩を貸して助け、手当てしている。
「大丈夫、私はあなたに害なす者ではありません」
 相手が開拓者でなくても、傷付いた者がいれば、天導水貴(ia0040)は惜しみなく癒しの手を差し伸べていた。 「安心して‥‥私達が、守るから」
 神風恩寵の柔らかな風を送りながら、華雪輝夜(ia6374)が傷ついた人々を励ます。
 狼狽し、アヤカシに怯える人々の不安を払う巫女達。
 それを脅(おびや)かすように、凶牙が忍び寄っていた。
 浮遊する犬首――名の通り犬の首だけのアヤカシは、音もなく背後へ迫り。
 柔らかな細い首を喰い千切るべく、ぞろりと並んだ牙を剥く。
「させません‥‥ッ!」
 鋭い気合と共に、打剣の技を用いた永(ia8919)が風魔手裏剣を放った。
 苦悶の声を上げながら、白目と黒目が逆の目を剥いて、アヤカシは消え。
「シノビの方‥‥ありがとう、ございます」
 気付いた水貴が慌てて頭を下げれば、永は銀髪を左右に揺らす。
「守りは任せて、どうか皆さんの手当てを続けて下さい。何よりもまず、楼港の人達を守らねば‥‥狐妖姫の動きも、気にはなりますが」
 周りを警戒しながら、彼は開拓者が多く集まったギルドの方角を見やった。

「もし狐妖姫の狙いが開拓者にあるのなら、ギルドを直接襲撃してくる可能性も、あるんですよね」
 開拓者ギルドの楼港支部の前で、天宮 綾(ia7957)は気がかりを口にした。
 彼女を含めた影(ia5313)やμ(ia4627)ら【即席天輝予報隊】の者達は、街の騒乱を警戒しながら、ギルドを守っている。
 また楼港における開拓者らの拠点には、各所の情報もひっきりなしに入ってきていた。
「街中はアヤカシで騒ぎになってるが、野盗連中の方は数で勝るこちら側が押し気味だ。油断はできねぇが、よっぽどのヘマがない限り、覆らんだろうぜ」
 街を駆けてきた喜助(ia8461)が、シノビの目と耳で見聞きした情報を知らせた。
「空の方は、人手が足りないのが難点だな。街へ現れたアヤカシは、足止め‥‥て、飛ぶヤツ相手でも足止めって言ってもいいのかね?」
 表現を選んでいるのか、符を片手に葛城 深墨(ia0422)が黒い瞳をくるりと回す。
「ともあれ、止め切れなかったアヤカシは飛んで来てるが、デカいのに対しては踏ん張ってる。問題は、目立たんところから現れるアヤカシだ。特にこの近辺が、一番多い」
 人魂の式で掴んできた情報を、惜しみなく深墨は仲間へ伝えた。
「やっぱ、ギルドが狙われてるんじゃん?」
【即席天輝予報隊】の輝燐(ia1724)が、強張った表情で聞けば。
「いや、そうとは限らないぜ」
 喜助が隣に立つ高級遊郭へ目をやれば、そこにもまた多くの開拓者達が備えていた。
 滞在するのが陰殻の王、慕容王となれば、守りの厚さも頷ける。
「もしどちらに何が起きても、すぐ助力に走れますしね」
 緊張した表情の綾もまた、これ以上の怪しい動きがないか、周りの街並みへ注意を戻した。

 いずれにしても、未だ狐妖姫発見の報せはなく。
 陽は海に落ちて、夜は刻々と深くなる。

●遊郭狂乱
「この混乱‥‥裏で糸を引いているのは、やはり狐妖姫か?」
 夜の街で起きている騒ぎに、改めて大蔵南洋(ia1246)は眉をひそめる。
 何らかの混乱に乗じて、狐妖姫が慕容王の暗殺を企てる可能性を南洋は危惧していた。
 シノビの王が不在となれば、この陰殻はますます麻の如く乱れる。
 そんな懸念を抱いた者は、南洋一人ではなかった。

「つまり陰殻を内部分裂を誘うのに、氷雨達、強硬派に芙蓉王を討たせる事も考えられるんだね!」
 びっと親指を立てる赤マント(ia3521)の言葉に、天河 ふしぎ(ia1037)が頷いた。
「そしてあの女狐はきっと、近くで事を見届けるつもりだと思うんだ!」
 推理するふしぎの後ろでは、外套をかぶせて『偽装』した土偶ゴーレム花鳥風月が控えている。
 小隊【風世花団】として動く二人の言葉に、【斑鳩】をまとめる斑鳩(ia1002)もまた首肯した。
「私達も皆さんと同じく、それを懸念しています」
 当然、慕容王にも直属の護衛が付いているだろうが、それらがアヤカシに操られないという保障はないのだ。
「いずれにしても、アヤカシの好きにはさせません」
「勿論! 何かあったら、遠慮なく【風世花団】にも声をかけて」
「ありがとうございます。【斑鳩】も、力になれる事があれば」
 偶然に顔を合わせたが、共に同じ要を守る開拓者同士。
 忌憚のない協力を確認した直後、遊女達の悲鳴が上がった。

「何事‥‥!」
【斑鳩】の一人、御凪 祥(ia5285)が悲鳴の元へと急ぎ駆けつければ。
 難を逃れるために隠れていた数人の遊女が血相を変え、次々に廊下を走ってくる。
 それを避けながら、祥は逃げてきた先へと大股で進んだ。
「祥さん、今の騒ぎは!」
「皆、顔色が真っ青でした。何があったのです?」
 遅れて駆けつけた浅井 灰音(ia7439)と縁(ia3208)が、仲間の背中へ尋ねれば。
 廊下の奥を睨んだまま、無言の祥が顎で示す。
 その先に、俯き加減でゆぅらりと歩く女がいた。
 女の見目は、同じ女性である灰音や縁から見ても美しい。が、遊女ではない。
 それどころか、まとう気配は人ですらない。
 何者かを問うまでもなく、槍を構えた祥が、大きく一歩を踏み込んだ。
 長い槍は、狭い場所では振り回せない。故に、真っ直ぐ突いて進み。
 髪を振って顔をあげたアヤカシ恨み姫が、怨嗟の念を放つ。
 それを振り払うように灰音もまた、ショートソードを鞘より引き抜き。
「アヤカシが現れた旨、急ぎ皆へ伝えます」
「頼みました」
 二人にこの場を任せて問題ないと判じた陰陽師へ、サムライが託す。
 強く床板を蹴り、間合いへ踏み込む一歩を背で聞きながら、縁は廊下を走った。

 遊女達の悲鳴。まるで、それが合図であったかの様に。
 座敷や廊下など、随所でアヤカシが姿を見せ始めた。
 恨み姫、そして犬首が、怨嗟を撒き散らしながら徘徊し、遊郭の中は騒然となる。
 術に錯乱した遊女を、鞘に収めた珠刀「阿見」で炎鷲(ia6468)が打って失神させ。
「さすが、遊郭。アヤカシも、格別の美人さんがお出ましですか」
 アヤカシの姿に冗談めかせば、共に動く谷 松之助(ia7271)が白鞘へ手をかける。
「狐の姫でないのは、いささか残念だが。我らがひと舞い、遊んでやろう」
 遊郭の空気に馴染まぬ少年の様な見目ながら、松之助はくつりと恨み姫へ笑った。
 ――怨ぉ、呪われよ、呪われよ。この世の全てを恨みて死なせ‥‥!
「黙りなさい‥‥ッ」
 袖を翻し、振る腕に倒される衝立を払いのけ、散らかった着物を飛び越え。
 声ならぬ怨嗟を断つかの如く、炎鷲は鋭く斬り込む。
 アヤカシへ迫る二人の後ろで、白い影がふわりと浮かび。
 背後より虚を突こうとした犬頭を、刃が真横に払った。
「たかが首ごときが、小賢しい」
 振り返りざまに抜き払った合口を、松之助は構え直し。
 背と背を合わせた【斑鳩】の志士二人は、二匹のアヤカシと切り結ぶ。

「風葉、アヤカシが出たって!」
【斑鳩】の伝える知らせを聞いて、目を輝かせたトゥエンティ(ia7971)が振り返る。
 遊郭の中でもアヤカシが出たと聞けば、血気盛んな者達の血はうずうずと騒ぐが。
「ダメだからね! 騒ぎにつられて、ホイホイと動くんじゃないわよ」
 腕を組んだ【風世花団】鴇ノ宮 風葉(ia0799)は、自身の態度で示すかの如く仁王立ちし、緊張をまとう仲間達へ告げた。
「不自然に近付く者にも、注意が必要ですね。例え相手がシノビの者でも、迂闊に動かぬようにせねば」
 ファルシオンの柄に手を置いた菫(ia5258)が、一つきりの紫瞳ながら油断なく周囲の気配へ目を配る。
 そうして方々の騒ぎに動かされる事無く、【風世花団】は辛抱強く守りを固めていた。

「随分と騒々しい‥‥」
 短い言葉に、配下のシノビが頭を垂れた。
 各所の戦況と現状を伝える言葉に、赤い口唇は誰も気付かぬ様な、ごく小さな笑みを浮かべる。
 アヤカシ騒ぐに遊郭にあって、なお悠然と陰殻国王は座していた。
 まるで開拓者達が全てを収められる力量があるか否か、見定めようとするかの如く――。

●生死、せめぎ合う
 天と地で繰り広げられる戦いを、窓辺に立った朧谷氷雨は茫然と見つめていた。
 この身を通り過ぎてきた全ての事柄が、恐ろしく遠くに感じられる。
 愛しい夫を、自らが手にかけた。
  ‥‥それが、始まり。
 まるで、坂を落ちる毬の如く。
 状況はあっという間に、勢いを増して転がった。
 そして、今。
 アヤカシの咆哮が、空を裂く。
 鬨(とき)の声が、耳を打つ。
  ‥‥これら全ては、自分が放った火種が引き起こした業火。
「氷雨さん。無理をしては、身体に障ります」
 窓辺に立ったまま動かない女へ、桐(ia1102)が案ずる言葉をかけた。
 負った傷は深く、未だ癒えていない。
 また窓辺にずっと立っていては、『的』になる危険がある。
 だが、ぽつりと氷雨は呟きを落とした。
「私は、もう‥‥いつ死んでも構わないのです」
  ‥‥残る気がかりは、たった一つだけ。
 大斧「塵風」を肩に置いた斉藤晃(ia3071)は、耳に届いた言葉を聞いて、面倒そうにがしがしと頭を掻く。
「それは、今回の事を満足しとるっちゅー事か?
 じろりと見やれば、窓辺の氷雨から返事はなく。
 ただ瞬きすら忘れた目から、はらりと一筋の涙が零れて落ちる。
 ああ、湿っぽいのは苦手や、と。
 小さく愚痴て、晃は窓へ背を向けた。
【払暁之刃】が一人、時任 一真(ia1316)は、双方のどちらにも言葉もかけず。
 今は静かに、朧谷の里長後見を見守る。
 楼港の街の騒ぎは、すぐそこにまで近付いていた。

 顔を上げれば、窓辺には魂が抜けたように無防備で立つ氷雨の姿があった。
 子と離れた母の脆さは目も当てられないと、シュラハトリア・M(ia0352)は歳にそぐわぬ事を思う。
 あれではまるで、彼女を狙う者達へ「殺してくれ」と誘っている様なものだ。
 現に、焚いた篝火(かがりび)の作り出した物陰で、一つ二つと姿が浮かぶ。
「何者です‥‥!」
 気配に気付いた黒鴉(ia8864)が、身構えた。
 僅かな沈黙の後に姿を見せたのは、陰殻軍のシノビ数人。
 狐妖姫が氷雨を狙う事を危惧しての助力か、無事を確かめに来たか。
 相手がどうやら『味方』らしいとみて、氷雨を守るべく集った者の数人は、僅かに警戒を緩めたが。
「気ぃ、許すなぁっ」
 仮面をつけた陰陽師の警告と同時に、シノビ達は手を翻した。
 自身の勘に加えて貉(ia0585)の警告で、居合わせた者達はとっさに後ろへ飛んで距離を取り。
 飛んだ者がいた場所へ、遅れて飛苦無が突き立つ。
「どこの手の者っ、氷雨殿を狙いに来たか!」
 長槍「羅漢」の穂先を向けて、小隊【払暁之刃】の志藤 久遠(ia0597)が詰問した。
 だが顔を隠したシノビ達が答える気配はなく、かざす手には飛苦無がのぞく。
 その動きに黒鴉は、奇妙な印象を覚えた。もしくは微かな違和感、というべきか。
 顔は隠しているが覗く目はどこか虚ろで、生気も覇気も殺意もなく。
 そして技には、まったくキレを感じない。
 腕の一振り、飛苦無の一投。
 その全てがどこかが、緩慢なのだ。
「もしや、操られているのか‥‥!」
 それと気付いた朝倉 影司(ia5385)の言葉に、貉が呪殺符をかざし。
「おそらくは。だから、傷つける訳にもいかないよなぁっ」
 ひとまず凌ぐ手として、『魂喰』の式を放つ。
「死なぬように手加減しつつ、昏倒させねばならない、と」
 厄介ではあるが無為に殺す事は出来ず、迷うより先にやらねばならぬ。
 倒す相手へ石突を向けるよう、久遠は羅漢を構え直した。

「竣嶽! 外に操られたシノビ達が‥‥と、わっ!」
 にわかに氷雨の身辺が、騒がしくなる。
【払暁之刃】の仲間へ急を知らせるべく、駆けて来たブラッディ・D(ia6200)は、階段を上ったところで首だけの犬と出くわした。
 驚きながらも咄嗟に素早く脇へ飛び、アヤカシとの間合いを取る。
「くっそ、何かの嫌味か!?」
「大丈夫ですか!」
 喉の奥で唸る仲間へ、珠刀「阿見」を抜いた高遠・竣嶽(ia0295)が気遣った。
 一真もまた、アヤカシを一匹たりとも部屋に入れぬ心積もりで、入り口に陣取っている。
「狐妖姫は?」
「見てない! でも襲ってきた陰殻のシノビは、操られてるか取り憑かれてるっぽいけどな!」
 投げられた問いに答えながら、犬首の牙をブラッディはひらりとかわした。

 ほぼ同時に現れたアヤカシと、操られたシノビ。
 両者の襲撃から氷雨の身を守るため、桐は窓辺から彼女を引き離す。
「貴方は、子供が大事で子供さえ無事ならと思われているようですが‥‥子供も貴方が大事で、抱かれていたいと思っていますよ?」
 精霊の小刀を握った巫女の少年は、真摯な赤い瞳で、正面から真っ直ぐ氷雨を見据えた。
「何かしら、覚悟を決められているようですが。どうか、諦めないで下さいね」
 そして大斧を振るう晃へ迫る恨み姫へ、力の歪みを放ち。
「生きんのも、そりゃあしんどいかもしれんがの」
 言葉を切った晃が振るう斧の刃は、風を切って、アヤカシを裂く。
「逃げちゃあ、何の解決にもならへんッ!」
 我が子さえ無事なら死しても良いと、望む自分を守る者達。
 死をもたらすアヤカシを討つ、開拓者達の背。
 愛しき我が子ではなく、動かぬ人形が入った篭。
 それらを見つめる氷雨の視界が、不意に淡くにじんだ。
 こらえ切れずに溢れた涙は、漠として流れ落ちた先程の空虚なものとは違う。
 ただ熱くて暖かい、人の涙だった。

●奔流、迸る
 楼港を覆う不穏の空気を、敏感にも感じ取ったのか。
 あぁんと、赤子の泣き声が部屋に響いた。
「ああ、よしよし‥‥怖くないからねぇ」
 声を枯らし、何かを訴えるような乳飲み子をそっと抱き上げ、女があやす。
 それでも火がついた様に泣き止まぬ赤ん坊を、優しい子守唄がなだめた。
 特に珍しくもないその光景を、翡翠の瞳で水月(ia2566)はじっと見守る。
 その幼子こそが、但馬と氷雨の一子――朧谷の里長、朧谷秋郷。
 開拓者達によって守られ、隠されていた、騒乱の渦の中心であった。
(「もし騒ぎに乗じて、この子の身に何かあったら‥‥おそらく二派の間の不和は、完全に収められなくなるかも知れない」)
 そんな危機感を覚えたからこそ、今ここに水月はいる。
 自分の予測が外れるならば、むしろそれが望ましい。
 この、どこにでもある平凡で穏やかなひと時が、破られなければ、それで。
 だが小さくささやかな願いすら、ここでは叶わぬらしい。
 呼子笛の高い音がすぐそこで聞こえ、秋郷をあやしていた重はハッと息を飲む。
 容赦ない月夜の嵐は、すぐそこまで迫っているらしい。
 不安げに見る瞳に、守りについた開拓者達が首肯した。
 慕容王や氷雨と比べれば、この場を守る数はごく僅か。
 それでも、何としても守り通さねばならなかった。

 開拓者の数すら少ない場所へ現れたシノビ達に、羅轟(ia1687)は咄嗟の判断で呼子笛を吹いた。
 主の笛を聞き、空の守りについていた甲龍太白が、傍らへ舞い降りる。
「通さぬつもりか。我ら‥‥慕容王配下のシノビであるぞ。あくまで阻むというなら、それは慕容王に刃向かうも同じ」
「慕容王が配下であれ‥‥この場‥‥通さぬ‥‥」
 咎める言葉にも羅轟は態度を変えず、彼の返答に胡乱なシノビ達は身構えた。
 それをみて、対する羅轟も珠刀「阿見」をぞろりと抜く。
 張り詰めた不穏な気配に、地へ降りた龍がぐぅるると喉の奥で警戒の唸り声をたてた。
 真に慕容王配下のシノビならば、羅轟ら数人では手に負えぬ。
 だが、ひしと嫌な予感めいたものが、場を固める者達の背に張り付く。
 顔を隠したシノビ達に混じって、やはり顔を隠した女が一人、無言で事の運びを見守っていた。
 目は口ほどにものを言うと、果たして誰が言ったのか。
 迫る者達の中にあって、女の瞳が最も蠱惑的で‥‥冷々としている。
 浮かぶ焦りを見透かした様に、慕容王配下と名乗ったシノビ達が、動いた。

 間に合え、と。
 衣を翻して夜の通りを駆ける者達は、誰もがひたすらに念じる。
 間に合え、間に合え、間に合え‥‥!
 笛一つから伝わった知らせに、楼港各所で目を光らせていた者達が、集いつつあった。
 ひとつ処へ、騒乱の渦の中心へ。
「焔ぁ!」
 駿龍虹霓の背から箕祭 晄(ia5324)が怒鳴るように、身を置く小隊【灯火】の要を負った者の名を呼んだ。  小隊の仲間と駆けていた千王寺 焔(ia1839)が、足を止めずに振り仰げば。
 晄以外にも二匹の駿龍‥‥弓術師の和泉 茶々(ia6774)、そして陰陽師の新咲 香澄(ia6036)の姿が空にあった。
 仲間三人の意図を察した焔は、言葉を交わさず、ただ一度だけ首肯する。
 行ってくれ、と。
 託された者達は、急ぎ駿龍を飛ばした。

「今まで、狐妖姫が表にでる事はありませんでしたが‥‥」
 足の早い者達に遅れぬように走る斎 朧(ia3446)が、抱く懸念を口にする。
 この知らせも実は囮なのか、もしくは姿を見せるだけの大事なのか。
 やがて、一帯が騒がしくなり。
 駆け抜けた先に、剣戟の音が聞こえた。

 突き出された刃に、赤い衣が翻る。
「いい加減、目を、覚ませっ!」
 阿見で応戦しながら、紅(ia0165)は対するシノビへ呼びかけた。
 焦点の定まらない目に、冴えのない動きは、おそらく術で操られているのだろう。
 ならば、容易に斬り捨てる訳にはいかない。
「くっそ! 陰殻のシノビが、惑わされてんじゃねぇ!」
 近くで拳を振るうアルカ・セイル(ia0903)も、腹立たしげに怒鳴った。
 その脇から、迷いのない刃が突き込まれ。
 鈍い痛みに歯を食いしばりながら、正気の相手へアルカは容赦なく拳を叩きつける。
 厄介だった。
 憑依され、あるいは術に操られたシノビ達に、正気のままアヤカシへ組する者達が混じっている。
 似た格好に顔を隠した様相は、目で判断するのも難しく、身のこなしより判ずるしかなかった。
 起きているのは、悪い事ばかりではない。
 空から馳せ参じた者、地を駆けた者、加勢する開拓者達の数が少しずつ増えている。
(「時間を、稼げれば、こちらが‥‥勝てる」)
 赤や黒い蝶の式を飛ばして仲間を助ける月城 紗夜(ia0740)は、それを確信していた。
 だがいち早く駆けつけ、苦戦していた仲間へ助力に加わった紗夜らも、狐妖姫の姿を見ていない。
 手加減しながら攻防を続ける者達は、不安げに渦中の家をみやった。

 ずぃと、女が一歩を進めた。
 小刀をかざしたまま、水月は一歩を下がる。
 更に水月の後ろでは、重が自分の腕で庇うように秋郷を抱きかかえ、もう片方の腕で刀の柄に手を掛ける。
 これ以上は、下がれない。
 焦りを感じ取ったように、女は瞳を妖しく細めた。
 その瞳を睨み返すが、くらりと目眩の様なものを感じ。
 頭の中にかかろうとする靄を払うように、幼い巫女は頭を振る。
「その気概だけは、褒めてあげてもいいかもねぇ」
 くつりと、女は哂った。
 面白がっている。窮地にあって、なおも懸命に活路を探して足掻くさまを。
「いったい、何故‥‥」
 狙うのか、という問いかけは、途切れた。
 素早く伸ばし、喉にかけられた女の手は、思いの外、強い。
 息が出来ず、弾けそうな意識を、必死で水月は繋ぎ止める。
 もう少し、もう少しだけ時間を稼げば、外で足止めされている者達が‥‥。
 どんっ! と、身体に鈍い衝撃が走った。
 開放された喉が、空気を求めて、ひゅうひゅうと喘ぐ。
 かすれた視界に、障子を蹴破って乗り込んできた仲間の姿が映る。
「ああ、全く」
 嘆息混じりで、腹立たしげな言葉が聞こえ。
「全く、つくづく無粋な輩だねぇ。いいところで、水を差す‥‥」
 憎々しげに笑んだ狐妖姫の気配が、遠ざかった。
 代わりに狐妖姫と共に侵入していた恨み姫が、開拓者達へ襲い掛かる。
「さぁ。怨みの果てへの同道へ、遠慮なく連れて行くといい」
 斬られながら恨み姫達は、なおも手を伸ばし。
 あちこちで悲鳴が起き、触れられた開拓者達が倒れ始めた。
「なにが‥‥しっかり!」
 目の前で倒れた一人を、急ぎ【百花】の幸乃(ia0035)が助け起こし。
「そのアヤカシ、迂闊に近付けさせたらあかんで!」
 式紙人形を抱いた同じ【百花】葛葉・アキラ(ia0255)が、周りの陰陽師や弓術師へ呼びかけて、恨み姫を牽制した。
 意識を失った仲間を助けようとする者と、仲間を庇う者。
 そして狐妖姫を追おうとする者達で、狭い場所は一気に混乱する。
 そして主力の開拓者達が辿り着く前に、シノビに扮した狐妖姫は、闇へと姿を消した。

「狐妖姫は、逃しましたか‥‥」
 報告を聞いた慕容王が、感情を窺わせぬ声色で呟いた。
 首謀のアヤカシを討ち損じた開拓者達は、さぞや腹の虫が収まらぬ事だろう。
 だが彼ら彼女らの目覚ましい活躍によって、楼港は無事にアヤカシと野盗の襲撃より守り通された。
 ――氷雨と、秋郷の命もまた。
 後の始末はつけねばならぬが、ひとまずと慕容王は一つ深い息を吐く。

 冴え冴えとした、冬の月の下。
 嵐の去った楼港の街は、月明かりに負けぬ明かりを煌々と灯し、佇んでいた。

(担当 : 風華弓弦)


(監修 : 御神楽・クラウドゲームス)




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