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第三次開拓史



黒井奈那介 ■あらすじ
 992年、神楽の都で儀に関する研究を生業としているとある学者が新たな儀に関する資料を発見する。彼はこの架空の儀を「あるかまる」と名付け、寝る間も惜しんで研究を進めた。
 だが、当時、既に泰やジルベリアが発見された後ではあっても、彼は「その土地ではその辺の石ころまで宝珠の原石である」とか「神や精霊の子孫が住む」などの荒唐無稽な主張を展開した為に世間から冷笑を向けられる。それでも諦めずに研究を進めていた彼だが、998年、数名の開拓者を雇って探索に出かけ、そして、そのまま帰ってこなかった。
 彼の妻も身体を壊して後を追うように早世し、一人残された奈那介はそんな父に反感を抱きつつも、志体を持つその特性故かあるいは父の影響か、父と同様考古学者への道を進んだ。

 そして1010年。
 黒井は一人の学者として成長し、一定の名声を得つつあった彼もまた、父は誤っていたと考え、父の事はとうに意識の外に追いやっていた。かつて父が主張していたはお伽噺のようなものだ。そんなものは存在しない、と。
 しかし、長期休暇を利用して引越しの準備をしていた彼は、資料庫の中から父の残したメモを発見する。
 メモに記されている遺跡群と、雲の嵐を突破する為に必要な宝珠の存在を示唆する伝承‥‥雑然としていながらも、そこにはこれまでに知られていなかった新たな情報もある。まさかとは思いつつも休暇がてらメモを頼りに探索へ出かけた彼が見たものは、前人未到の遺跡群であった。
 おそらく、父はこれを証明する為に出かけ、そして消息を絶ったのだ。手帳の手順に従って遺跡の扉が開くのを確認して都に戻る黒井。都へ戻った彼は、直ちに遺跡を探索する為、経済的支援者とこうした遺跡に挑戦する者――開拓者達の募集を開始するのであった。


■戦
 神威人の伝承により確認された広大な地下遺跡群――
 遺跡の探索によって開門の宝珠を確保した開拓者ギルドは、続いて、嵐の門を探り、新たに駒を進めた。
 無論、先発隊の前には何点かの障害が立ちはだかっていた。
 黒井奈那介の偵察中の遭難や、物資の不足は無論のこと、特に大きな障害となったのが、魔の島と化した鬼咲島の存在である。鬼咲島は島の大半が魔の森に覆われ、数多くのアヤカシが跳梁跋扈している。この島は天儀を南東にずっと下った先にあり、嵐の壁、それも今回嵐の門があると思しき空域にほぼ隣接して浮かんでいた。
 であれば、この島に巣食うアヤカシを制圧せねば、将来、嵐の門を突破できたとしても、航路の安全を確保できない。
 更に言えば、鬼咲島の湾はそれ自体が天然の良港として機能しており、湾を確保すれば新大陸へ至る良い中継地点となる可能性が高く、ここを制圧するこことは一挙両得となること疑いようもなかった。
 これに、朱藩国王興志宗末が手を挙げた。
 彼は天儀諸国王の中でも、飛びぬけて新世界への興味が強い、良くも悪くも新し物好きの国王であった。彼は麾下の艦艇を調査船団として引き連れると、島の一角を制圧。橋頭堡として拠点を築くに至る。
 また、それと時を同じくして、万屋を中心とする商人グループも一定の援助を承諾。船舶や物資が貸与、拠出されることとなった。
 必要となる船舶を揃えて準備の整った開拓者ギルドは、遂に鬼咲島制圧を、そしてその後に控える嵐の門突破を決意したのであった。




■もくじ



 詳細な経緯(これまでのOP)
遺跡
●遺跡
 深い森の中、一人の男が石畳を歩き回っていた。
 大きな荷物を降ろし、隅の柱を背に歩幅を数えるようにして歩いた男は、苔むした石畳の上で立ち止まる。草鞋を擦り付けるようにして苔を削り、その裏に埋もれていた宝珠にそっと触れた。
 古ぼけ、既に光りを失っているように見える宝珠。
 その宝珠に触れたまま、右手の古ぼけた手帳へと眼を向けると、意を決したように呟いた。
「おいたし でなでな おいわかこぬ」
 突如、宝珠が輝く。
 あまりの眩しさに眼を閉じる。ごうと強い風が吹き、思わず顔を背けた。光が衰える中、砂埃を払いながら再び向き直った男は、目の前の光景につい口を歪めた。
「‥‥おい親父、冗談だろ?」
 彼は、苦笑を浮かべたまま階段を見下ろしていた。


●天儀
「遺跡が開いたと申すか」
 薄暗がり、蝋燭の明かりに照らされた部屋。庭には月明かりに照らされた遅咲き桜が揺れている。集まった数名の貴族達は顔を見合わせ、じっと言葉を待つ。
「遅かれ早かれ――」
「‥‥?」
「いや‥‥時間の問題だったのであろう」
 手元には、黒井奈那介より届いた遺跡発見の報。
「遺跡の探索は許可せよ。やる気を殺ぐ事もあるまいて」
 その言葉に、貴族達がゆっくりと頭を下げた。
 おそらくは、かなりの地位にある者なのであろう。
 彼等が揃って頭を下げるのを鷹揚に頷いて受け止めている。彼は、一番手前の老貴族へ扇子を向けた。
「それから、一人、使者を遣わせ」
 老人がすっと面を上げる。
「はい、では使者は――」
「一家にせよ。確か去年、三成が当主に就任したばかりであったな?」
「は。しかし、それは‥‥」
 一家の名に、難色を示す老人。対する貴族は、それで良いと言わんばかりに席を立ち、座敷の奥へと姿を消す。今更異議を唱える事まかりならない。再び静かに頭を下げて、老人はその差配に従うこととした。


神楽屋暁 ●万屋
 遺跡を前にしていた先の男が、長椅子に腰掛け、注がれた茶をぐっと煽った。
 入れ物を流れ水に浸けてあったのだろう、よく冷えた茶が喉を潤す。男は茶を一気に飲み干して、大きな溜息をついた。
「地下遺跡‥‥ですか?」
 男が茶を飲み干したタイミングを狙って、暁は口を開いた。
 頭の上で、狐耳がぴこんと揺れる。
 対する男は、おかわりの茶を湯飲みに注いでもらいながら、力強く頷く。
「そう。遺跡や」
 取り出したのは一枚の手帳。先ほど、遺跡で開いていたものだった。
「俺かて、信じとらんかったんやけどな‥‥」
 溜息混じりのその言葉。
 男の名は黒井奈那介。
 都に居を構える一介の学者だ。とはいえ、彼の顔は日焼けして土埃にまみれ、無精ひげもうっすらと伸びつつあって、白面の書生といった風は無い。彼は幸いにも志体として生まれ、それを活かした実地主義を地で行く男だった。フィールドワークを重視し、興味を持てば自ら現地へ赴くのだ。
 今回の発見は、休暇中、大掃除によって一冊の手帳が出てきたことに始まる。
 十年以上も昔に行方不明になった父の手帳。
「新大陸の証拠を見つける、そう言って家を出たっきり――」
 思い出すように、問い掛けるように、呟く暁。
「そういうこっちゃ」
 頷いて、奈那介は手帳を暁に見せた。
「当時は一顧だにされんかったハナシや。新大陸どころか、遺跡かてある訳無いいうてさ‥‥実際、俺かて信じちゃおらんかったんやから」
「でも、それがあった?」
「あったんよなぁ‥‥」
 困ったような表情で、頭をかきむしる。
「とりあえず、湯でも浴びてサッパリして来るわ。遺跡の探索を進めるのに開拓者を雇わなきゃならんし、先立つもんも必要や」
「先立つものって、これ?」
 暁が、親指と人差し指で輪を作り、悪戯っぽい笑顔を浮かべる。
 奈那介が、苦笑しながら同じように輪を作った。





●地図の上
 美しく整った顔をしたその少女は、目の前に置かれた宝珠を一瞥して小さな溜息を吐いた。
 一三成――歴史は古いが権勢は無い、都に居を構える数ある小貴族のひとつである一(にのまえ)家の若き当主だ。とはいえ、その領土は猫の額も同然で、貴族だからどう、当主だからどうというものでもない。
 ただ、こうして開門の宝珠を預かるのは、歴史がありながらも力の無い小貴族であるらしい。
 少女はついと顔を上げ、この宝珠を持ち込んだ男を見やる。
 心の中で呟く。
(あぁ、面倒だわ‥‥)
 普段と変わらぬ憂鬱そうな面持ちのまま、口を開いた。
「この宝珠があれば嵐の壁を突破できる‥‥そういうことね?」
「はい。まだ全部揃うた訳やないですが、そちらも今探索中です」
「それで、今日は経過報告に来たのかしら」
 問い掛ける三成。
 対する男、黒井奈那介は小さくかぶりを振って、一枚の地図を差し出した。
「これをご覧下さい」
 地図、南方の一角に大きなばつ印が印されている。
「これは?」
「新世界へ至る道です。おそらくは、そこに嵐の門が開く筈です」
 天儀南東に位置する伊乃波島より更に南東へ進んだ先に、その門がある筈だ――奈那介は手元の資料を広げ、自説を補強する。そして、確かな事実として、無いと言われていた筈の遺跡も、伝承にあった開門の宝珠も見つかったのだ。その言葉は確かな説得力を帯びて響いてくる。
「けれど、そうしてあとは宝珠を回収すれば、嵐の壁へ一直線という訳には行かない‥‥という事なのでしょう?」
「‥‥」
 三成の言葉に、奈那介は気まずそうに頬を掻いた。
「そうです。問題はこの島と嵐の壁を守る魔戦獣です」


●鬼咲島
 数日後――
「無理はしないで、危険になったらすぐ戻ってきて下さい」
「ん、解っとる。俺かて単なる偵察で死にとうないしな」
「本当は直接偵察だって反対なんですからね!」
 手を掲げた奈那介は、ゴーグルを下ろしてマフラーを口元に巻きつけると、小型滑空艇(グライダー)に跨った。ぐっと足を踏み込むとふわりと浮き上がる。宝珠が輝きを増して、グライダーは一気に加速した。
 中型飛空船から離れ、滑るように空を飛ぶグライダー。
 眼下に広がるのは雲海。
 だがそんな雲海を舐めるように進めば、やがて滝が現われる。
 その滝は、空に浮かぶ島からのものだ。
 人々が眼前の「島」を島と呼ぶ時、それは浮き上がった海底も含めてまるごと島と呼んでいるのか、それとも、浮かんだ海と大地のただ中にぽっかりと浮かぶ陸地部分のみをそう呼ぶのか‥‥。
 まるで滝を昇るかのように、グライダーの機首を持ち上げる。
 水しぶきを切りながら島に――鬼咲島に近付く。遠目にも解る。島は、禍々しさに満ちている。
 森の上空を舐めるように飛び、島を見下ろす。
(魔の森で覆われてるって話はマジらしいし‥‥)
 森の上空をぐるりと旋回するように飛ぶ。
 ここ鬼咲島は五十年以上もの昔に魔の森に侵され、島まるごと打ち捨てられて既に久しい。魔の島と化した今となっては完全にアヤカシの拠点となり、遠く伊乃波島を襲うことさえあるのだが、その一方、魔の森に侵される以前の鬼咲島の様子を伝え聞いていた老人たち――多くは伊乃波島で暮らしていた――によれば、島の一角には良港となりうる入り江があるという。
 つまりここのアヤカシを滅して魔の森を焼き払えば、嵐の門へ至る航路が確保されると同時に、利便性に優れた中継基地が手に入ることになる。
(それに、爺さまたちは自分らの生まれた島に未練もあるらしいしな‥‥)
 折角なら、あいつらをここへ帰させてやりたいじゃないか。
 そう思うと、ふいに笑みがこぼれた。
「おっ、入り江ってのはアレか」
 魔の森は島の大部分を覆っているが、情報どおり、森の切れ間、遠目に入り江が見える。
 ただ、どうもおかしい。入り江の一角には集落のようなものが見えた。いや、あるいはかつての集落がそのまま放置されているのかもしれないが、五十年だ。流石に、そのまま残されているのは妙な話である。
「こいつは‥‥ん!?」
 突然羽を持ち上げた。跳ねるようにグライダーが翻ると、今まで彼のいた空間を雷が裂いた。急速な反転をかけ、雷の発された方角へ顔を向ける。
 雷撃に続いて、雲の中からアヤカシが顔を出した。
「チッ、続きはまた今度やな!」
 雲から現われたのは蛇型のアヤカシ、小雷蛇だ。目撃情報などはある程度収拾した。油断はならない相手らしいが、その数は二匹。逃げ切るだけなら何の問題も無い。
 腰の鞭に手をやり、掲げざまに振るう。
 唸る鞭が蛇の頭をしたたかに打った。反撃の雷撃を紙一重でかわし、返す一手でもう一匹の顔も打つ。
 今だ――ごうと風宝珠がうなる。上体をひねる。グライダーを巧みに操って、踵を返した。
 しかし。
「なっ!?」
 彼を出迎えたのは、巨大な蜻蛉の顔だ。
 能動的に反応する間も無く、蜻蛉の顔はぐわと口を広げて襲い掛かってくる。
「だあぁぁぁっ!」
 避けられない。
 そう瞬間的に判断した彼は、グライダーを蹴って宙に身体を投げ出した。視界の中で急速に小さくなっていくグライダーが、蜻蛉の顎に噛み砕かれた。見覚えのある姿だ。蜻蛉の顔に鳥の体を持ち、巨大な円盤を背負った上級アヤカシ、キキリニシオク――


●憂鬱
「黒井殿が行方不明?」
 三成は、不機嫌そうに眉をひそめた。
 配下の志士らしき男が、小さく頭を垂れる。
「ハ。魔の森を調査するにあたり、単身で偵察に赴き、そのまま戻らぬようなのです」
「‥‥それは困るわ」
 そうでありましょうと、男も頷いた。
 今の彼は、今開拓計画における重要人物だ。もちろん朝廷には他にも優秀な学者が多勢いるのだが、少なくとも、今回の一件については彼が第一人者であることには間違いなく、彼を欠けば計画に何らかの支障が生ずるのは避けられえない。
「救助隊を出しましょう」
「‥‥生きておいででしょうか?」
「こんな事で死なれては困ります。彼も一端の志体持ち。まだ望みはあるでしょう」
 頬杖をついて、段取りを組み立てる。
「それから、討伐隊も組織を。いずれにしても、あの島にはびこるアヤカシは討たねばなりません。同時にやってはならない法もないでしょうから」
 志士が一例して退出する。彼女は頬杖をついたまま、外を眺めて憂鬱そうに溜息を吐いた。


万屋黒蘭 ●万屋の首魁
 老獪な面持ちの男が茶を盆に歩み寄った。
 彼に気付いたその女性は、湯飲みに手を伸ばすと、ぬるい茶と湯飲みを両手で上品に包み込み、小さくすすって一息つく。
「計画の様子は?」
「ハッ、彼等は開門の宝珠の回収に成功し、次なる作戦として魔の島討伐を企図する様子に御座います」
「さようですか‥‥ふふ。思ったより動きが早いのね」
「投資については、いかが致しましょうか?」
「さて。どうしたものかしら」
 妖艶な笑みを浮かべる彼女を前に、老人は事務的な面持ちを崩さず、あごひげへと手を伸ばす。
「どちらが良いか、難しいところでしょう。投資対象としてはもう少し安全になるのを待ちたいところで御座いますな」
 うんうんと頷く女性。
「‥‥そろそろ、援助を考えても良い頃合かしらね」
 再び、湯飲みに口をつける。
「まだ危険性も御座いますが、宜しいのですか?」
「物事には勢いというものもあるしねぇ」
 先代である亡き夫道三は、何かを決断する時には、世の「機敏」を捕まえなくてはならないと彼女に説いた。
 それは、木製の算盤では計算できないものであったが、一方で、単なる冒険主義や投機では無く享楽的な発想の産物でもない。心の中に自分だけの算盤を構え、目に見えぬ木目を弾かねばならないものだった。
「ま、後は開拓者次第かしら」
 くすくすと笑みを浮かべ、三度、湯飲みに口をつけた。


●ギルド、動く
 ここに来て、開拓計画は多くのトラブルに見舞われた。
 新大陸を目指す航路上に位置していた魔の島、ここを攻略するには明らかに不足している戦力、偵察に出かけたまま行方不明になってしまった黒井奈那介。
 やらねばならない事は山積だ。
「ふうむ。なるほどのう‥‥」
 風信機から聞こえてくる大伴定家の声が、心なしか弾んでいるように聞こえた。
「それで、開拓者ギルドの力を借りたいという訳じゃな?」
「えぇ。朝廷には十分な戦力がありません。鬼咲島攻略も、黒井殿の捜索も、開拓者の皆さまにお願いすることになろうかと存じます」
「ふむ。ふむ‥‥開門の宝珠も見つかり始めたとあってはいよいよ真実味を帯びて参ったしのう」
 大きく頷き、彼はにこりと表情を緩めた。
「宜しかろう。朝廷が動いて、我らが動かぬとあっては開拓者ギルドの名が廃るというものじゃ。新大陸を目指して冒険に出てこその開拓者と我らギルドじゃ。安心めされよ。一殿、我らギルドは全面的に協力して参りますぞ」
「ご英断に感謝致します‥‥」
 少女の頭が小さく垂れる。
 当面の障害はキキリニシオクの撃破。
 そしておそらく、嵐の門には「魔戦獣」と呼ばれる敵が潜んでいる筈だ。過去、これまでに開かれた嵐の壁にも総じて現われた強力な敵――彼等はアヤカシとも違い、まるで一定の縄張りを、テリトリーを守るかのように立ちはだかるのだ。
 計画は、二次段階へ移行しつつあった――





超大型飛空船「赤星」 ●調査船団「朱」
 鬼咲島で行方不明となった黒井奈那介。
 関心を持った朱藩の興志王は編成が終わっていた調査船団『朱』を黒井救出の為に動いた。
 調査船団『朱』とは超大型飛空船『赤光』を中心にした新大陸発見を目的とする朱藩所属の組織だ。興志王の直属軍といってよい存在だが、平和的な印象を諸外国に示す意味で調査船団とされていた。
 調査船団『朱』が鬼咲島へ接近した際にアヤカシの大群から航路を妨げられる。
 興志王は作戦を変更。黒井救出の足がかりを用意する準備行動に出た。
 激戦の末、調査船団『朱』は鬼咲島の中央よりも東側の位置に駐屯地を手に入れる。南北で考えると島を分断する川より北側だ。広さはいびつながら直径二百メートル円程度。必要になればもう少し広げる事も可能であろう。
 駐屯地に着陸しているのは大型飛空船一隻と中型飛空船八隻。超大型飛空船『赤光』と中型飛空船一隻は上空で警戒にあたっていた。
 ちなみに駐屯地を手に入れる為の戦いで中型飛空船二隻が大破。大型飛空船一隻と中型飛空船三隻は破損が酷いために安州の飛空船基地へと戻る。
 興志王は鬼咲島に残った。
 特別な案件が起きたのなら朱藩に戻らなければならないが、可能な限り現地に留まるつもりである。

 となれば、拠点の設営は突貫工事だ。
 空を浮かぶ「赤光」の眼下、切り開かれた森の真ん中には馬防柵が並べられ、一部には丸太の城壁がくみ上げられつつもある。
「『牌紋』の姿は無し‥‥当面の敵はあの鳥トンボ、かぁ」
 呟く黒井。煙管に詰めた煙草が灰に変じた。
 ふいと煙を吹けばぷかりと浮かぶ。
 何とか回収された彼だが、無傷で済んだ訳ではない。体力的にも消耗が激しかった為、ここ少しの間は病室に半ば監禁状態であった。無論、巫女からはまだ動かぬよう言われているので――
「黒井奈那介がいないぞーっ!」
 赤光船内で、伝令管が震えた。
「わっわっわっ」
「いたぞっ、こっちだ!」
 げっと肩を震わせ、振り返る黒井。危うく、咥えていた煙管を取り落としそうになる。
 あっさりと見つかっては、巫女二人組みに肩を押さえられて引き摺られていった。


●作戦
「興志王宗末様、ご到着ッ!」
 兵士達が慌しく走り回る。
 二人乗りの高速グライダーが朝廷より派遣された調査船団の旗艦「しらせ」に着陸した。
 先んじて着陸していた護衛のグライダー数騎から朱藩兵が降り立ち、続けて、興志王自身が飛び上がった。
「おうっ、出迎えご苦労!」
 興志王がぐわと吼えた。
 船へ降りた興志王は、挨拶もそこそこに操舵室へと向かう。操舵室の後方では船長らが航路図とにらめっこをしていた。中には、旗艦「しらせ」船長をはじめとして、開拓者ギルドの責任者たる大伴定家や、名目上の指揮官である一三成の姿もある。
 名目上との言葉通り、戦闘指揮官としての三成は、事実上神輿である。
 実際の戦闘指揮は大伴定家や緋赤紅、そして今し方現われた興志宗末らが担うこととなる。
「芹内王は参られぬのか?」
「はい、私が代将を仰せつかりました」
 おデコをぺこりと下げる緋赤。
 実際のところ、芹内王がここへ来れないのは、老臣達の強い反対に遭ったからだ。
 老臣や貴族達はどうでもよいことをぐちぐちと言い立てて、芹内王の出陣に反対した。緋赤とてこの場でそうとは言わないが、興志自身、国許の老臣たちには頭を悩ませている。彼女の不満げな顔を見れば凡その察しはつく。
「それで、作戦はどのように」
「迎撃体勢を取りつつ貴殿の調査船団との合流を優先しては――と思うのじゃが‥‥」
 言って、大伴は緋赤を見やった。立ち上がる緋赤。
「今でも戦力は十分です。上級アヤカシがいるとはいえ、こちらには千名近い開拓者がいます。キキリニシオクさえ撃破できれば、後は烏合の衆ですっ」
「‥‥それで、敵の動きは?」
 腕組みをして、興志王は問い掛ける。
 が、答えたのは緋赤ではなく、じっと黙っていた三成だった。
「ある程度‥‥予測がつくかもしれません。キキリニシオクは開門の宝珠を狙っていましたから、この『しらせ』が狙われるのは確実でしょう」
「うん‥‥うん‥‥」
 興志王は天井を仰ぎ、今度はやや俯き加減に顔を傾け、髪を掻いた。
 よしと掌を打ち合わせる。
「それなら、いい作戦があるぜ」
「?」
 首を傾げる三成。居並ぶ彼女等を前に、興志王はにやりと笑みを浮かべた。


●ミミズク
 鬼咲島、及び同鬼咲海域より南西に位置する天瓜の海域。
 開拓者たちは一足先にこの地を訪れ、龍たちに暫しの休息を与えていた。
 興志王の立てた作戦は、キキリニシオクが旗艦「しらせ」を狙っていることを利用した奇襲作戦だった。開拓者たちは天瓜より出撃した後、低空を飛んで鬼咲島に接近。しらせ以下艦船を中心とする部隊が敵アヤカシを北側へひきつけ、その間に南より攻撃を展開。背後を一突きに突き崩すというものである。
 むろん、楽な作戦ではない。
 特にキキリニシオクは上級アヤカシだ。精鋭とはいえ、撃破は容易ではなく、こちらも消耗を覚悟せねばならないだろう。
 ただ、それでも、彼等にはキキリニシオクを撃破する公算があった。
 あったのだが――

「キキリニシオク殿へ挨拶に参っただけなのだが‥‥これは一体どういうことか」
 遥か遠方の空、真白で巨大なミミズクを中心とした飛行アヤカシの群れが、南西の方角より接近しつつあった。
 白いミミズクは眼をぎょろりとひん剥いて天瓜島を睨みつける。
 目に映ったのは、今まさに飛び立ったばかりの開拓者たち。彼等は鬼咲島の方角を目指し、龍を羽ばたかせていた。
 そのミミズク、首を傾げて大きく一度羽ばたいた。
(ははあ、なるほどな‥‥)
 そのアヤカシは、鬼咲島にキキリニシオクの巣があることを知っているらしい。
 そうした方角へ好き好んで接近する者がいるとすれば、後は言わずもがなである。
「ひとつ肩慣らしと行くか‥‥」
 そのアヤカシ――上級アヤカシ「白竜巻 李水」はにわかに加速を始めた。





報告書 : 第一回リプレイ





●弔い
「なんと! それはまことか?」
「‥‥」
 先の空戦で討ち漏らされたアヤカシであろう。言葉を発さぬ大闇目玉を前に、李水は顔をしかめ、亡きキキリニシオクを思い浮かべていた。
 ばさばさと羽ばたきながら、ぐっとクチバシをかみ締め、天を仰ぐ。
「無念だ‥‥あれほど気持ちの良い男はいなかったであろうに‥‥」
「‥‥」
 ぶわと涙を流す李水を前にして、二体の大目玉が互いに顔――目を見合わせた。
 何を言っているのか訳が解らないといった風であるが、しかし相手は上級アヤカシ。それを口にして勘気を被ればタダでは済まない。元々喋れはしないのだが。
「うぬれ! うぬれうぬれ! 彼奴らの喉を切り裂き、キキリニシオクへの手向けとしてくれん!」
 翼を翻し、ミミズクが夜空に舞う。
 ごうと風を巻き起こし、慌てて後を追うアヤカシの群れ。
「弔い合戦である! 続けぇいッ!!」


●覚悟
 旗艦「しらせ」の甲板で、興志王はぼりぼりと頭を掻いた。
「大したもんだぜ」
 彼等の前で竜から降りた開拓者は、へとへとといった様子で、息を整えながら報告を続けた。彼が告げるのは、牌紋の恐るべき攻撃と、一糸乱れぬ配下どもの動き。
「それが魔戦獣‥‥!」
 ぶるると身体を震わせ、緋赤が己の頬を叩く。
「私、魔戦獣と戦うのは初めてです‥‥武者震いがしますなあ!」
「ま‥‥否定はせんがな」
 嬉々として笑う非赤に比べ、興志王は努めて心を落ち着けた。
 実際、前回の開拓計画は実に三十年も前のことである。彼等は生まれてすらいない。初めての強敵を前にして胸が震えるのも仕方が無い。
 ただ一方、一人、大伴は腕を組んだ。
「ふうむ‥‥やはり魔戦獣は強いか」
 考え込む大伴。
「‥‥」
 ちらりと、三成がいる筈の館長室へ眼を向けた。
 三十年前の当時、彼は35歳前後。魔戦獣の恐ろしさは十分に存じている。
 ジルベリアへ至る嵐の門を守っていた魔戦獣に、開拓団は致命的な損害を被った。その戦闘能力は、まさしく大アヤカシ並みか、それ以上。そして、大アヤカシを撃破したのは、先の緑茂の戦いが”初めて”だ。
 だから――


一三成  しらせ甲板では、緋赤や開拓者の武闘派らが額を突き合わせ、如何にして牌紋を突破するか喧々諤々やりあっていた。興志王は訪れた部下達に船の配置について指示を出してやり、船長室においては、大伴と三成が向かい合って椅子に腰掛けている。
「‥‥ふうむ」
 大伴が顎鬚を撫で、三成を見やった。
 三成は眼をやや伏せて、机の上の短刀を見詰めている。特別な短刀なのであろうか。豪奢な装飾の施されたその短刀には、朝廷の紋もあしらわれていた。
「しかしのう。それは――」
「これまでも」
「うん?」
 大伴の言葉を遮るように呟く三成。
 ぎゅっと膝を掴み、顔を上げた。
「これまでも、こうしてきたのです‥‥別に構いません‥‥」
 落ち着いた様子で言葉を続ける彼女を見やる。首を傾げる大伴は腕を組んで微笑を浮かべ、強情な孫を前にしているかのような口調で語りかける。
「どうじゃろう。ここは、もう少し彼等を信じてみては」
 大伴の言う彼等とは、おそらく開拓者のことであろう。
 だが、
「私は朝廷より全権を委任されております。これは命令‥‥です」
 返って来た答えはにべもないものであった。
 大伴は眼を閉じ、暫し考え込む。やがて‥‥溜息混じりに頷いた。
「ふうむ。そういう事であれば仕方が無い、の」


●渡月島へ
「偵察作戦‥‥ですか?」
 大伴の言葉に、緋赤が首を傾げた。
「渡月島への再偵察じゃ」
「もう一度と申されますと‥‥」
 ひょいと黒井を見やる。
 またお前かと言わんばかりのその顔に、黒井は慌てて首を振った。
「ちょっ、まっ、俺違うど!」
「うむ。一殿たっての希望もあってな」
 今度は、緋赤だけでなく開拓者たちも首を傾げた。作戦について口出しをしてこなかった三成が今更、それも何故再度の偵察を求めるのか‥‥疑問の表情が三成に集中するも、彼女は答えない。
「とにかく、作戦を詰めるとしよう」
 立ち上がる大伴。
 作戦の基本は、前回の戦とほぼ同じ。一定範囲内に侵入することで動き始める魔戦獣の習性を利用して誘き寄せ、後退。十分にひきつけた後に別方面から渡月島へ一気に接近し、これへ上陸するというものだ。
 これには三成自身が同行し、上陸する。
「‥‥おそらく、どこかに石壇らしき場所がある筈です」
 ただ一言だけぽつりと告げる三成。
 腑に落ちぬ顔で、彼等開拓者はその場を退去する。しれっとした表情で、三成は短刀を掻い抱いた。





報告書 : 第二回リプレイ





嵐の門 ●牌紋
「朝比奈(ia0086)から預かった手帳です」
 並み居る開拓者を前にして、阿留那(ia1082)は一冊の手帳を取り出す。
 一通りの報告を終えて、彼女はすとんと椅子に腰掛ける。
 先の一戦では、時間稼ぎを主目的としていたとはいえ、幾多の開拓者が牌紋に挑んだ。彼らは牌紋の強さをまざまざと見せ付けられ、経験豊富な開拓者を大勢負傷させることとなってしまった。
 それでも、音響攻撃に対する対抗手段など、犠牲相応の情報は持ち帰っている。
「‥‥げっ」
 報告書を読んで、おもわず唸る興志王。
「こいつを正面勝負でとっちめようってのは‥‥どうにも具合が悪いな?」
 頭をぼりぼりと掻く黒井。部屋は、しんと静まり返っていた。
「牌紋からは生気を感じませんでした」
 そんな静寂をやんわりと崩すようにして、フェンリエッタ(ib0018)が顔をあげ口を開いた。
「まるで、自分の意思を持たないかのように」
「確かに、言葉に耳を傾けて頂けたようには感じましたが、対話は成立致しませんでした」
 彼女の言葉を、フェルル(ia4572)が引継ぎ、呟く。
 対話の試みがあったことは、あの場にいた開拓者の多くが存じている。その後の牌紋の動きにせよ、およそ感情らしいものを感じなかったのは確かだった。
「それで‥‥島は、牌紋を制御する何らかの役目を負っているとも考えられませんか?」
 ざわつく開拓者達。
「考えてもみて下さい。生贄で矛を収めるのであれば、なぜ、その為の祭壇をああも厳重に守る必要があるのでしょうか」
 もちろん、これは仮説だ。
 それでも、赤マント(ia3521)や黒井は、フェンリエッタの仮説に頷いた。
「そうだね、空から見ていたけど、あの湖や石壇にしても、かなりの戦力が守っていたし‥‥」
「で、ま、こうやって意味深な石版が出てきたのも事実やしな」
 手袋をはめて、石版を持ち上げる黒井。解析にはもう少し時間が掛かるということで、今は、まだそれが何を意味するものか解らないまま。
 それじゃあ、あの石壇近くに牌紋攻略のきっかけが眠っているというのか‥‥開拓者の誰かが疑問を口にした。そして、そんな疑問に答えるかのように、手を上げる影が一人。後ろから聞こえた、礼儀正しそうなその声に、皆の死線が集まった。
「私‥‥見ました」
 紗夜(ia2276)の言葉に、黒井が首を傾げる。
「見た? 何をや?」
「石畳のようなものです」
 彼女が告げた扉の存在。それは、渡月島への偵察時、離脱寸前に見つけた石畳‥‥状況を考えると、あるいは地下に続く石の扉と考えるのが妥当だった。
「よっしゃ、決まりや、な」
 誰かの、拳を打ち付ける音が聞こえた。
「問題はそこに何があるのか、か‥‥」
 緋月(ia9431)が、額に手をやる。
「一殿の短刀にも、やはり何らかの意味があるのか?」
「うーん‥‥」
 唸る黒井。
「それについては、私からも説明を」
 すっと、穂邑が立ち上がった。
 彼女は眠そうな顔を振りながら、開拓者達の顔を見回す。
「先日発見された、地下の蔵書ですが‥‥開拓者さまたちの力をお借りして、これを調査しました。こちらが、開門の宝珠に関する資料です」
 彼女が手にしている資料――それは、開拓者達の汗と涙と、睡眠時間の結晶だ。
 そこに記されている内容が事実であるとするならば、「渡月」の嵐の門を開くには、嵐の門の四隅に浮遊する水晶体に開門の宝珠を接触させれば良いと言う。そしてそれが、牌紋の封印に関連してもいると。
「単純に、門を開けば牌紋が封印されるという事か?」
 興志王が腕を組み、問いかける。
「いえ、おそらくそういう意味ではありません‥‥その上で短刀を用いた何らかの動きが必要であると、それらしいことは言外に語られていましたから‥‥」
「なるほど。そして、それが三成の短刀に繋がるということか」
「えぇ、おそらくは」
 そして、その為にどういった手続きが必要であるかが、解らない。
 静まり返る大部屋。
 意見がおおよそ出尽くしたと見えて、黒井が立ち上がる。自然、司会的立場にあるのか、皆の意識が黒井の下へと注がれる。
「他にも、見落としてる情報があるかもしれんし、出撃まではもう少し時間もある。あとはもう‥‥相談を重ねた上で、ぶっつけ本番でやってみるしかない、って訳や」


●砦の夜
「ううっ、うっ、もふもふ‥‥あたしのもふもふ、ですのー!」
「イケメンすぎて勿体無いでござるー」
 夜、鬼咲島の砦にて。
 膝を抱えてたそがれる怪しげな二人を横目に、非赤が甲冑を揺らして首を傾げる。
「やっぱ陰陽師ってよく解んないわー‥‥」
「ご飯の準備ができましたわ♪」
 砦の中に響く、ラヴィ(ia9738)の声。その言葉と共に群がる開拓者の群れ。
「まだ戦は残ってるからにゃ。疲れを残すにゃよー」
 猫火(ia0714)が言うまでも無く、開拓者達は食欲旺盛だった。
 意地汚い、などと言ってはならない。腹が減っては何とやら、ですわ♪ ――とはラヴィの弁。志体といえど人間。戦えば腹が減るし、空腹では力が出ない。おにぎりは飛ぶように無くなり、大鍋の味噌汁はあっという間に底を尽く。
 バルテス(ib0242)の奏でるリュートが響き渡る中、ユーリ(ib0058)がタップを踏む。皆で焚き火を囲んでいると、やがて、タップにつれて夜が更けていくかのようだった。
 そんな夜天の下で――
「貰い損ねた‥‥」
 空っぽのおわんを持ったまま、征四郎が立ち尽くしていた。


 一方、新月を見上げて、三成は一人、旗艦「しらせ」の甲板に佇んでいた。
 自分の他に誰一人としていない、一人だけで貸しきられた甲板。そうした空間へ足を踏み入れたのは、大伴定家であった。
「潮風が気持ち良いのう」
「はい‥‥」
 気まずそうに答える三成。
 大伴は静かに歩を進めて三成の隣に立つと、空、満点の星空に浮かぶ新月を眺め、笑顔同様に眼を細めた。
「これが、彼ら開拓者の行き方じゃ」
「‥‥」
「彼らは開拓者ギルドに属し、建前上の身分こそ朝廷の臣じゃが、それがどうじゃ」
 空を見上げる大伴の隣、三成は、星や月ではなく、それを見上げる大伴を見つめていた。
「結局、最後には自分達の意思で物事を決めてしまう。とんだ不埒者たちじゃ」
 大伴は、開拓者を不埒者と読んだ。
 ところがどうだろう、三成が今見ている大伴の表情は、とても「不埒」であることを避難しているようには見えない。心の底から楽しそうといった様子で、にこにこと笑顔を浮かべているではないか。
 三成は、小さく唇を結んだ。
「彼らを見ておると、この老骨が、十歳も二十歳も若返った気分になってのう。お陰で隠居できなくなってしもうた」
「‥‥大伴殿、私は」
「おお、いかん、いかん」
 三成の言葉を遮り、大伴は肩をほぐすように首を傾けた。
「歳をとると、無駄話がクドくなってしまっていかんのう」
「‥‥」
「最後に決めるのは、自分自身じゃぞ」
 ぽつりと告げて、大伴定家は背を伸ばして甲板を歩き去ってしまった。
 三成は再び、一人空を見上げていた。





牌紋 ●決戦前夜
「音じゃと?」
「そうや!」
 きょとんとする大伴。
 彼に石版を突きつけるのは、目の下にくまを作った奈々介だった。
 おそらくは徹夜で石版の解析をおこなっていたのだろう。くまの浮きあがった目の下は痙攣気味で、一方で眼そのものはらんらんと輝いていた。もちろん、輝いているように見えたのは充血しているせいもあるように思えるが。
「石版に歌が記されていたのですか‥‥?」
 三成が静かに問いかける。
 奈々介はよくぞ聞いてくれたと言わんばかりに手帳を取り出した。
「まぁな。歌詞もあらへんが、ここ。この記述が紀元前古代語の変形でやな、つまりここから――」
「そこまで。聞いてもおそらく解らん。結論だけ言ってくれ」
 手を突き出し、遮る興志王。
「ちょっと聞いてくれたってええのに」
 口ごもる奈々介。
 彼は手帳を広げ、そこに記された楽譜を披露した。まずは一度演奏してみもしたと言い、彼がドアを開くと、数名の吟遊詩人が部屋へと入ってくる。彼らは弦楽器や真鍮楽器を持っており、促されるや早速演奏を始めた。
「へえ‥‥」
 その音に、興志王は思わず唸る。
 そこから奏でられる音楽は、今までに聞いたことの無いものだった。
 こんな音はジルベリアにも存在しない。激しくアップテンポで、思わず踊りだしたくなる躍動感に溢れたリズム。生命力の漲る、悪く言えば下世話で、よく言えば人が誰しも持っている生来のしたたかさ、力強さを感じさせる音。
 やがて、演奏は終わる。
 終わると共に、三成がぽろぽろと泣き出した。


 興志王は一人夜風に辺りながら、手酌で酒を煽っていた。
「まったく、結局出てきたのは聞いたことも無い音楽か‥‥」
 自分たちの身体に何らかの変化が生じたりした訳ではない。
 例えば、スプラッタノイズのように周囲に被害が発生したりした様子も無い。
 とはいえ、かといって彼自身、それがただの音楽であろうと思ってもいない。あのような場に置かれていた石版から得た音楽だ。全く無意味に、ただ単に音楽が保存されていたという訳ではあるまい。
 ただ問題は、ではこの音をどのように使えば良いのかというだけで。
「ま、面白いものも見れたし、とりあえず良しとするか」
 彼は、徳利から滴を落としておいてから、大声で小姓を呼んだ。
 甲板の上には、開拓者たちが満点の夜空の下、ある者は静かな寝息を、またあるものは大きないびきかいて眠りこけている。眠れないと見えて武具の手入れをするもの、夜食をかっ食らう者――皆、思い思いに時を過ごして明日の戦いに備えていた。
 夜明け前になれば、この鬼咲島を離れる。
 渡月島に到着するのは、おそらく明け方になるであろう。
 決戦の時は、すぐそこまで迫っている。





報告書 : 第三回リプレイ





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