舵天照TOPに戻ります。
神楽の都-拠点-開拓者ギルド-万商店-広場-修練場-図書館-御前試合--鍛冶-記録所-遺跡-瓦版
開拓者が集う都です。
交流掲示板です。
ストーリーに参加できます。
アイテムを購入できます。
イベントを紹介しています。
キャラクターを鍛えます。
舵天照のデータ・歴史を確認できます。
武闘大会に参加できます。
相棒の設定を変更できます。
アイテムを鍛えます。
イラストを購入できます。
ミッションに参加できます。
瓦版を見ます。
もふ丸
mypage
log off
help
myページ
■報告書目次

第一幕報告書はこちら
第二幕報告書はこちら


■リプレイ
●集いたるは義と勇と
 月明かりの下、鈴に似た声で秋の虫達が鳴き交わす。
 だが風流な音色は、不意に途切れ。
 ガシャガシャと煩く音を立て、具足を着けた者達が次々と駆けて行った。
 二度に渡る別働隊から開拓者が守った緑茂の里は、物々しい雰囲気に包まれている。

 ――討つは敵将、大アヤカシ炎羅。

 儀弐王の下した決断は、各国の軍と開拓者達を驚かせた。
 ある者は無謀に出たと眉をひそめ、ある者はよくぞ決断してくれたと膝を叩き。
 炎羅を引き込む餌として戦場になる緑茂の里は、大アヤカシを討つ策の準備が急ぎ進められた。
「いよいよ、でっかい喧嘩が始まるんじゃね」
 布を細長く裂き、包帯の代わりを作るなどして準備を進めていた高倉八十八彦(ia0927)は、ふと空を仰ぐ。
 夜空には丸い月が一つ、冴え冴えと浮かんでいた。
 だが雲が出ているためか、見える星の数は少ない。
「何だか、雲行きが怪しいですわね」
 気になるのか、桶を抱えた秋月 涼子(ia4941)も手を止めて、表情を曇らせた。
 決戦の時を控えた里は、他国の援軍到着と炎羅を討つという気勢も加わり、士気が高まっている。
「障りがなければ、いいのだけれど」
「そうじゃの」
 しばらく雲脚を窺う巫女達だが、長くそうしてもいられず。
 それぞれまた、準備へと戻った。

 時と共に雲は厚みを増して、満月の光をも隠し始めた頃。
 空の一角が、赤く揺らめいた。
 その方角に何があるか、戦に臨む者はみな知っている。
「海原砦が……」
 そこには緑茂の里の里長である鋳差が、時を稼ぐために赴いている筈だった。
 乾いた声で呟いた村田安曇(ia7910)は腰に帯びた賊刀の柄を強く握り、いつもは憂う瞳が挑むように赤黒い雲を睨む。
「遂に、来ますか」
「安曇さん」
 強張った肩を軽く叩かれて振り返れば、彼女が属する小隊【蒼き翼】を率いる仮染 勇輝(ia0016)が穏やかに笑んでそこにいた。
「一緒に、頑張りましょう」
 小さな隊ではあるが共に戦へ臨む仲間の姿に、深く安曇は息を吐き、肩の力を抜く。
「はい。朱藩からも、援軍が駆けつけてくれましたから」
 興志王が連れてきた砲術隊は、開拓者達の意図もくみ、威力を遺憾なく発揮できるであろう位置に陣をしいていた。
【蒼き翼】の隊にいる者達は、いずれも場慣れしている訳ではない。だが朱藩の心意気に応えるためにも、この場所を選んだ。
「……必ず」
 短い言葉だけを誓いの如く口にして、勇輝も夜の一角を染める赤を見つめる。

 程なくして、一頭の早馬が土を蹴り、荒々しく里へ駆け込んだ。
 居並ぶ者達の戦に備えた様相を見るや、馬上から伝令が大声を張り上げる。
「海原砦、陥落! 炎羅軍本隊はなおも里へ向け、進軍中!」
 その知らせに、周囲は水を打ったかの如く静まり返った。
「ともあれ、急ぎ本陣へ。儀弐王や、大伴様方にお伝えして」
 気が立って首を振る馬をなだめつつ、やや掠れた声で囁(ia5347)が促し。
「かたじけない!」
 サッと左右に退いて分かれた人の間を、伝令は転がるように駆けて行く。
 詳しい顛末を気にかけながらも道を譲った者達は、みな黙して汚れた背を見送った。

   ○

 わずか、四半時(約30分)足らず。
 それが、海原砦の持ち堪えた時間だった。
 アヤカシによる苛烈な攻撃により砦は陥落し、炎上。
 砦を飲み込んだ炎羅と一軍は、真っ直ぐ里へ迫っている。
 伝令の知らせは大伴の判断により、すぐさま開拓者達へあまねく伝えられた。
 一種の高揚感が打って変わり、ピリピリとした緊張感が里を覆う。
 虫の声すら聞こえぬ、刺すような静寂の中。
 遠くから、しかし着実にそれは近づいてきた。

●不穏の雲

  ずしん……。

 最初は、遠い響きだった。
 貯めた桶の水に立つ波紋に、少し首を傾げる程度の。

  ずしん……。

 だが近付くに従って、それが地面が震えている音だと気付く。

  ずしん……。

 地響きに急かされるように、里は慌ただしさを増した。
 それぞれの位置で控える者達が、最後にもう一度、弓の張りや得物の握り具合を確かめる。
 そこへ闇を分けて、敵情を探っていた与五郎佐(ia7245)が戻った。
「炎羅軍は、変わらずこっちへまっしぐらです。それから、あれが炎羅って奴ですかね。でっかい火柱のようなのが、軍の中段にどんと構えていましたよ」
「ありがとうございます、助かります!」
【絶頴】の白柳 蓮(ia7146)が礼を言えば、自身も迎え撃つ場所へ向かう弓術師は振り返り、理穴弓を掲げて返す。
「炎羅の周りを、他のアヤカシ達が固めているんでしょうか」
「おそらくは。となると、炎羅へ至るまでの『壁』を剥ぎ落とさねばならんでござるな」
 心配そうな蓮に、隊をまとめる摩喉羅伽 将頴(ia5459)が腕を組んだ。
「ならば、俺達【鵬翼】は共に前面へ出ましょう。いいですか?」
【鵬翼】の仲間へ紅鶸(ia0006)が振り返れば、頼もしい顔ぶれは揃って頷く。
「隊に属すも属さぬも変わりはないし、あたしらも行くかねぇ。で、アヤカシを全部倒して、生きて帰るぞ!」
 発破をかけるように氏池 鳩子(ia0641)が声を上げれば、個々の判断で動く者達はバラバラに得物や拳を掲げ。
「おーっ!」
「一つ暴れるかっ」
「やるぞー!」
 小隊に属する者達に負けじと、口々に答えた。
「あなた方には面倒をかけますが、よろしく頼みます。その代わり、砲術隊はしっかり守らせてもらいますよ」
 腰の太刀へ手をかけた大蔵南洋(ia1246)が、痩せこけた頬をつり上げるようにニヤリと笑う。
「頼りにしています。しっかり狙ってお願いしますと、よーくよろしく伝えて下さい」
「承知しました」
 ひょこんと紫雲雅人(ia5150)が頭を下げれば、首肯した南洋は砲術隊の元へ向かった。
「さて、いよいよか」
 呟いた雅人が何気なく顔を上げれば、頭上に広がった厚い雲は、星だけでなく月も完全に覆い隠している。
「こりゃあ、ひと雨きますか」
 湿った重い空気に、雅人は眉をひそめた。

 既に住人が避難した家で、張 林香(ia2039)は汲み貯めた水瓶から桶へ水を移し、大きな通りに面した家々へ水をかけていた。
 大アヤカシの前では、それこそ焼け石に水かもしれないが。
「何もしないよりは、いいアル。これで、少しでも燃えずにすむといいアルけど」
 ひと息ついていると、不意にぽたりと水滴が落ちた。
 何事かと顔を上げれば、額や頬へ大粒の雫が次々に降ってくる。
「わわっ、雨アルーっ!?」
 にわかに降り出した雨に、水の入った桶を抱え、右往左往して慌てる林香。
 他の開拓者達も、どことなく戸惑ったような複雑な表情で、天を仰ぐ。
 その時。

  オオオオオォォォォーーッ!!

 鼓膜を突き破らん限りの咆哮が、里全体を震わせた。

 いち早く敵を見つけようと里の近くで待機していた結希(ia7562)は、つんざく咆哮に思わず耳を塞ぐ。
 塞ぎながら、闇の奥から突き進んでくる幾多の影とその先の炎に気付き、すぐさま誰かに知らせようとして……出来なかった。
 喉がカラカラに乾いて息をするのも難しく、心臓は早鐘を打ち、寒くもないのに身体の震えが止まらない。
 留まっていてもアヤカシの波に飲まれるだけだが、足は根を張ったように動かず。
 突然ぐいと強く腕を引かれて、ようやく四肢は恐怖の呪縛から解放された。
「秋冷……」
「シッ、急いで離れよう」
 見覚えのある顔にほっとした結希の言葉を制し、【絶頴】の一員として動いていた秋冷(ia6246)が短く告げる。
 振り返るまでもなく、後ろからはガシャガシャと煩く迫る音が聞こえ。
 里からも、迎え撃つ者達が前に出てくるのが見えた。

   ○

「くらえぇぇーっ!」
 気合と共に、小柄な虚空(ia0945)が大薙刀を大きく振り回す。
 勢いをつけ、ぶんっと風を切った刃は、骨鎧の首を跳ね飛ばした。
 大物を振り抜いた隙を狙ったように、鬼面鳥が急降下し。
「危ねぇっ!」
 弓を引き、仲間を援護していた【朧】壱班の椿 幻之条(ia3498)が、とっさに細い手を翻す。
 斬撃符が鋭い刃と化して、鬼面鳥の羽根を裂き。
 それた鉤爪に浅く皮膚を裂かれながら、大薙刀を振るった虚空が胴を打ち、アヤカシを叩き落した。
「助かった!」
「ふふ。困った時は、お互い様ってね」
 短く礼を告げる志士に、幻之条は紅を引いた口唇で笑みを作る。
 大船原では、運船の森より里へ向かうアヤカシの群れと開拓者達が、本隊より一足先に刃を交えていた。
 その時、胆を鷲掴みされるような咆哮が夜気を震わせ、轟く(とどろく)。
 戦っていた者達の背筋を、ぞくりと寒いものが駆け上り。
 対するアヤカシ達は、勢いを取り戻したように吠え騒ぐ。
「あれが……炎羅とやらですか」
 呟いて、神去(ia5295)が声の方角を振り返り。
「アヤカシども、調子に乗るのは早いぜ!」
 悪寒を振り払うように、【朧】弐班の九鬼 羅門(ia1240)が大薙刀を軸にして衣を翻し、剣狼の刃を石突で粉砕した。
「この俺達【朧】が、叩き潰してやる!」
「ええ。皆様、頑張りましょうっ。ここで私達が崩れるわけには参りません!」
 必要とあらば扇子「巫女」を手に舞いながら、羅門と同じ【朧】の弐班が一人、御剣・蓮(ia0928)は周囲の者へ励ましの言葉をかける。
「そうですね。下級のアヤカシなら、僕の腕でも……!」
 隊には加わっていないが、【朧】の面々の奮戦に神去もショートスピアを握り直し。
 奇声をあげて襲い掛かる鬼面鳥へ、鋭い穂先を突き出した。
 いずれも、思いは唯一つ。
 里で戦う者達が後ろを気にせず、存分に力を振るうことが出来るよう――。

●先陣、激突
 距離を保って退く開拓者達を追うように、炎羅の軍勢が里へと雪崩れ込む。
 簡素な造りの家は、鉄甲鬼の振り回す棍棒でえぐられ。
 亡鎧が放つ衝撃刃が、残骸を吹き飛ばした。
「ひゃんっ! あっぶなーい!」
 後方から飛んでくる真空の刃を、すんでのところで叢雲・暁(ia5363)が避ける。
「巻き込まれないよう、気をつけて下さい!」
 並んで走る他の開拓者の動きを見ながら、菊池 志郎(ia5584)が注意を促した。
「走れ、走れっ。追いつかれるぞー!」
 自身も全力で走りつつ、鳴海 大我(ia0356)はおどけてはやし、
「コレがホントの、鬼ごっこってトコロねっ」
 どこか楽しげな秋姫 神楽(ia0940)が、濡れた地面を蹴る。
 嵐のように攻め進む巨体のアヤカシ達に追われながら、足の速いシノビや泰拳士達は風の如く駆けた。
 あらかじめ決めた、予定の『位置』に向かって。
「来たな……頼りにしているぞ」
 破壊の音を聞きながら、託すようにLynx(ia5640)はずらりと並んだ砲術隊を見やる。
「朱藩自慢のお手並み拝見って奴だな」
 呪殺符を手にしながら、隊列の傍らに立った氷(ia1083)も眠そうな目を細めた。
 潜んでいるのは、朱藩の銃兵だけではなく。
 開拓者のうち弓術師達もまた、降り出した雨にじっと打たれながら、屋根の上や家の影から好機を窺っている。
「落ち着いて、しっかり狙えば大丈夫」
 深呼吸を繰り返し、自分へ言い聞かせた上之森 葵(ia8048)は、ゆっくりと単弓の弦を引き絞った。
 ピンと緊迫した空気が張り詰める中、地面を揺るがしてアヤカシの群れが迫り。
「今よっ! 皆、伏せてっ!!」
「放てぇぇーッ!!」
 呼びかける神楽と、砲術隊の号令とが同時に飛ぶ。
 囮として駆けた開拓者達は、一斉に左右へ散り。
 狙いを定めていた由他郎(ia5334)やからす(ia6525)ら弓術師達が、矢を放つ。
 弓の形は違えど、各々の弦がぶんっと唸り。
 直後、乾いた幾十の炸裂音が、空気を震わせた。
 間近で聞けば炎羅の咆哮に負けず劣らずの銃声群に、思わず氷は耳を手で覆う。
 その間、僅かまばたき一つか二つ程度。
 弓と銃の強力な一斉射撃に、最前列を猛進していた鉄甲鬼の肉がえぐれ、亡鎧の鎧が貫かれ。
 音もなく膝を追って倒れたように見えたのは、発砲音で一時的に耳が遠くなったせいだろう。
「威力も凄いが、何て音だ」
 初めて聞いた音に、由他郎は率直な驚きを隠さず。
 じきに戻ってきた聴力は、苦悶の吼え声に混ざる幼い訴えを聞いた。
「砲術隊は、次の射に時間がかかります。射の手をゆるめないでーっ!」
 自分の声もはっきり判らないが、からすは大声で周囲の弓術師へ呼びかけている。
「みんな油断しないでっ。相手は止まってない!」
 屋根の上からも、此花 あやめ(ia5552)がアヤカシの動きを伝え。
「来るよーっ!」
 警告しながら、自身もショートボウで次々と矢を放つ。
 傷を受けたアヤカシは、倒れても妄執に突き動かされるように這い進み。
 足元の叫びを踏み砕き、後に続く亡鎧や鉄甲鬼が突進した。
「倒れた仲間を、踏み敷いて進むとは……っ」
 柳眉をひそめ、藤(ia5336)は嫌悪感をあらわにする。
「だからこそのアヤカシか。人や森のケモノとは違うモノ……その汚い足で、これ以上理穴の地を踏み荒らすことは、許さないっ」
 胸の底から湧く静かな怒りを込めて、藤は小柄な身体を越える弓「朏」を引き絞った。
 降り注ぐ矢を受けつつも、吼え猛りながら巨体のアヤカシ達は通りの先に並ぶ砲術隊へ進む。
 次の弾を込める砲術隊と炎羅軍の間に、遮る障害物はなく。
 再び猛進するアヤカシの群れに、必要な距離を取って機会を窺っていた貉(ia0585)が、仮面の下で目を輝かせる。
「今だ、かかれーっ!」
 組んだ指で地面を示し、格好をつける貉に続き。
「やーぁっ!」
 奏音(ia5213)が、抱いた人形の手をえいえいと振る。
 次の瞬間、アヤカシの足並みが乱れた。
 陰陽師達が仕掛けた式の罠――雨に濡れた通りに潜む地縛霊が、踏んだ相手へ次々と攻撃を仕掛け。
「それ、引っ張って下さいーっ!」
 仲間を踏み越え、地縛霊の罠に捕らわれなかったアヤカシを見て、夏来(ia7769)が合図をする。
「はいっ」
「承知しました!」
 答えた咲音(ia5022)や天青 晶(ia0657)達が握った荒縄を引っ張れば、土をかけて隠されていた縄が通りにピンと張った。
 足元の古典的な罠に、突き進む鉄甲鬼が足を引っ掛けるが。
「うわ、重いっ!」
「引っ張られる……負けるもんですかっ」
 夏来と二人で踏ん張る咲音だが、逆に引きずられる。
「危ないっ。お二人とも、手を放して下さい!」
 反対側で縄を掴む晶の警告に、夏来と咲音は通りへ引きずられる寸前、縄から手を放した。
 縄の罠も撒かれた撒菱も気にせず、アヤカシの突進は津波の如く押し迫る。
「まずい。このままじゃあ、蹴散らされます」
 刀の柄に手をかけながら、いざとなれば動けるよう勇輝が身構え。
「揃ってなくても構わねぇ。急ぎ、撃ってくれ!」
 砲術隊を守るために備えていた【野槌】の一人、一ノ瀬・紅竜(ia1011)が怒鳴った。
「構え、放てーッ!」
 弾込めが間に合った銃兵達による、二度目の斉射が火を噴いて。
 倒れこむように突っ込んできた鉄甲鬼の金棒に、砲術隊の列が崩れる。
「これまでかっ。てめェら、行くぞ! チンケな化け物にビビってる場合じゃねェ。人間サマの力を見せてやろうぜ!!」
 小隊【野槌】隊長の朧楼月 天忌(ia0291)が、業物を掲げて仲間を鼓舞し。
「鋭い犬の牙、アヤカシどもにとくと喰らわせてやろう。【犬神隊】、参る!」
 身を潜めていた【犬神隊】もまた、束ねる犬神・彼方(ia0218)の合図で立ち上がり。
 射線を塞がぬよう控えていた開拓者達が、銃兵達を守るようにして、一気に前へ出た。

 強まる雨足の中、刃と怒号が激突する。
「骨の二、三本どころか、全部叩き折ってやるっすよっ!」
 身の丈を越える大薙刀で、柿原 鈴(ia3466)は振り下ろす亡鎧の刀を受け流し。
「がぁーっ、痛てぇかねぇかっ!」
 鉄甲鬼が強力で振るう金棒を長槍「羅漢」で受け、勢いを殺しきれずに紅竜が弾き飛ばされる。
「紅竜さん……っ」
 思わず息を飲み、同じ【野槌】の柊沢 霞澄(ia0067)が指を組んで癒しの風を送った。
「かたじけねぇ!」
 振り向く暇も惜しみながらも礼を返す背中に、霞澄はこっくり頷く。
 単身で、時に手を取りながら、開拓者達は果敢に攻撃を仕掛ける。
 だが、これはまだ前哨戦。
 突進を押し返そうという気概の中で、炎羅軍の一角が、動いた。
 アヤカシ達の群れの先、紅蓮の炎に包まれた巨体が、ごぉぅと大きく息を吸う。
「これは……まずい、下がれーっ!!」
 その動きにいち早く気付いた【野槌】伝令オルフェ・ベルマン(ia5466)が、腹の底から叫んだ。
「皆、気をつけて! 下がってーっ!」
「何やら、仕掛けてくるでござるぞ!」
 ただならぬオルフェの警告を耳にした同じ【野槌】のなりな(ia7729)や、ファルシオンを振るっていた将頴も、仔細な理由は判らないながら声を枯らす。
 直後、炎羅は炎を吐き、辺り一面が紅蓮の炎に包まれた。

 里の一角で広がった炎を、各国の王達と諸将の誰もが驚愕の瞳で凝視する。
 また離れた地で奮戦する開拓者達も、異様な気配を肌で感じ取っていた。
「ここからが……ちぃっ!」
 僅かに見せた隙に喰らいかかる剣狼の牙を、未だ大船原で戦う【朧】壱班の七神蒼牙(ia1430)は業物で食い止め。
「死ぬなよぉ!」
 誰に向けるでもなく言葉を投げながら、アヤカシの腹を蹴り飛ばし、切り払った。

●立ち昇る火焔に抗い
 天を覆う雲を、炎が赤く照らす。
 炎の舌が家々を舐めあげて次々と焼き、人やアヤカシの区別なく降り注ぐ。
 下がる者達に変わって積極的に前へ攻めに出た者達を、炎羅の煉獄が襲ったのだ。
「こりゃあ、油をどうこうってレベルじゃあねぇぞ」
 燃え盛る炎に照らされながら、碑 九郎(ia3287)が呆れ返る。
 油による万が一の延焼を防ぐため、戦いの前から油壺を別の場所に移していたのだが、燃えやすい物云々を問わず炎の勢いは凄まじかった。
「動けますか? 気をしっかりもって!」
 剣戟と怒声と呻き声が混ざり合う中、「治療請け負います」を書いた旗を背負った鳳 つばき(ia0085)が傷を負った者へ治療を施す。
 懸命に仲間を救おうとしているのは、彼女だけでない。
 刃をくぐりながら、多くの巫女や陰陽師達が危険を冒して前線へ走っていた。

 一方、身を焼く炎に晒されながらも、炎羅本隊と正面から相対した者達の気概は燃え尽きず。
「一心不乱に剣を振るおうぞ! 炎羅を囲む本隊を削り、後が続く道を切り開け!」
 ――今、この場に集った開拓者達が開拓すべきは、その道一つ。
 長槍「羅漢」を天に突き上げ、喧騒に負けぬ大音声で彼方が吼える。
「仕掛けーッ!!」
「よっし、行くぞー!」
 それまで距離を取り、うずうずと戦況に手ぐすねをひいていた【犬神隊】の奇襲班ブラッディ・D(ia6200)が、解き放たれた猟犬の如く駆けた。
「さぁ、行こう。【犬神隊】に後れを取ったら、犬神隊の長に笑われるよっ!」
【灯火隊】を仕切る星風 珠光(ia2391)に、【灯火隊】の特攻隊長たる朧月夜(ia5094)が頷く。
「【灯火隊】、かかれッ!!」
 叫んだ朧月夜自身も、群れるアヤカシへと駆け出した。
「無理はあかんけど、後れを取んのもあかんでーっ」
【灯火隊】の時雨 風夢(ia4989)も軽口を飛ばしながら、彼女の後に続く。
 駆ける者達は、炎を吹き上げる家々の間を抜け。
 炎羅軍を挟撃するように、【犬神隊】の奇襲組と【灯火隊】は側面から攻撃を仕掛けた。
「そぉーれっ!」
 どこかやんわりとした気合と共に、【犬神隊】の瑪瑙 嘉里(ia1703)はバトルアックスを振るい。
 地を走った地断撃の衝撃波によろめいた鉄甲鬼が、苛立たしげに家を破壊しながら向かってくる。
 それを見た嘉里は、すぐさま家の裏手へ身を引き。
「ほぅら、後ろがお留守だぜっ!」
 角に潜んでいた阿羅々木・弥一郎(ia1014)が一撃を加えると、すぐに距離を取った。
「これだけの巨体なら、外す心配もございませんね」
 腹立たしげに振り返った鉄甲鬼へ、今度はジョン・D(ia5360)が次々と矢が射かける。
「これで、仕上げですっ!」
 続いて檄征 令琳(ia0043)も式を飛ばして、肉を裂いた。
 側面からの攻撃に、突撃の勢いのまま、前へ進み続けていた炎羅軍の足並みは乱れ、進路が次第に分散する。
「ほらほら、そこにいられちゃあ邪魔なんだよーっ!」
 なおも正面では、【犬神隊】が奮戦していた。
 当たれば幸いと行ったところか、紬 柳斎(ia1231)が鉄甲鬼もかくやという勢いで大斧「塵風」を振り回す。
「皆、力を振り絞れっ! ここで折れては、上手い酒も飲めんぞーっ!」
 拳を振るいながら、小隊の者達に負けじと、箱屋敷 雲海(ia3215)も周囲の仲間へ檄を飛ばした。

 ただ無心に、各々の力と得物と気力を振り絞って、開拓者達はアヤカシの『壁』を削り進む。
「こいつら、どれだけいるんだっ!」
 毒づきながら、大柄なアヤカシの間を抜けて突進する剣狼へ拳を叩きつけ、大我は大きく肩で息をした。
 何とか煉獄をかいくぐったものの、満身創痍といっていい。
「しっかりして下さい! 手当てしますから、無理せずこちらへ」
「くそっ、すまねぇ……あのデカいの、とんでもねぇ炎をぶちかましやがって」
 出来るだけ落ち着いた口調を心がけながら、玲璃(ia1114)は足を引きずる大我へ肩を貸した。
 煉獄をかいくぐってなお、戦い続けている者の中には、傷を負った者も多く。
 そして混戦の中でも、アヤカシは刈り取れそうな命を見逃さない。
 深手を負って退く者達へ、炎を反射させながら、亡鎧が冷たい刀を掲げて追う。
「させませんわっ!」
 単身では無謀と、判ずる間もなく。
 それを見た瞬間、水穂 巴(ia8101)は飛び出していた。
『咆哮』で巴へ注意を向けた亡鎧は、刀を振り下ろす先を変え。
 最初の長柄斧で一撃を凌いだものの、返す刃が彼女を捉えた。
 冷たい死の感触が、身体に抉り込み。
「あ……ああぁーっ!」
「どけーっ!」
 吹き出す血飛沫を目にした礼文島・無頼斎(ia0773)が、ショートスピアを構えて亡鎧へ体当たりを仕掛ける。
 紅い炎に包まれた穂先は虚ろな鎧を貫くが、なおも亡鎧は刃を振り上げ。
 斬り込んだ相手を嘲笑うように、カタカタと剥き出しの歯を鳴らした。
「おっちゃん!」
 同じ光景を目にした柚月(ia0063)が束ねた黒髪を翻し、仲間を呼ぶ。
「これ以上の狼藉は、許さねぇっ!」
 素早く劉 厳靖(ia2423)が間合いを詰め、血を滴らせた刃を受け止めた。
「あああ、えっと、すぐり! すぐり、あの人!」
 切り結ぶ様に慌てた柚月は、アヤカシの足元を指差す手をぶんぶん振り。
 アヤカシの背後にいたすぐり(ia5374)が首肯して、疾風の如く示す先へ駆ける。
 それを追ってアヤカシが顔を向ければ、別方向から空洞の眼窩にガンッと矢が突き立った。
「まだ、足りませんかっ」
 キッと睨み据えた赤村菜美(ia7261)が、更なる矢をゆっくり番えて念入りに弦を引き絞る。

 何とか戦いの場から巴を放したすぐりへ、柚月が駆け寄る。
「助かりはる?」
「うん、助けるよ。急所は外れてるから」
 答えながらも、柚月は手を合わせ。
 ふわりと優しい風が舞う。
 苦痛に歪んだ表情へ血の気が戻り、大きく巴は息をした。
「私、まだ……」
「生きてるよっ。でも深い傷だから、無理しちゃダメ」
 薄く目を開いた巴へ、指を振って柚月が忠告する。

 強射「朔月」の技で菜美の手より放たれた矢が、頭蓋を砕いた。
「喰らえぇーっ!」
 同時に無頼斎が一撃を与え、ガラガラと崩れながら、亡鎧が霧散する。
 消失したアヤカシに、厳靖は深く息を吐くが。
 ほっとしたのも、束の間だった。
 アヤカシが消えた先から、途方もない熱と殺気が身体を射抜く。
 厳靖が恐る恐る顔を上げれば、そこには炎の柱が渦巻いていた。
 ……否、それは炎をまとった岩の如き巨大な鬼で。
 遥か高いところから、ギョロリと目玉が開拓者達を見下ろす。
「な……」
「え、えぇ……あ……っ」
 巨体の大アヤカシが放つ圧倒的な威圧感に、誰もすぐには叫び声すらあげられず。
「逃げな! せめて、怪我人を安全な場所へ。はよぅ!」
 辛うじて、すぐりが掠れた声を振り絞るが、戦の喧騒に飲み込まれた。
 その間にも頭に二本の角を持つ鬼は、大木の如き太い腕が握った棍棒を、高く掲げ。
 振り下ろされると誰もが思った、その瞬間。
「うおぉぉぉーッ!!」
 背後から上がった鬨(とき)の声に、動けぬ者達は我に返る。
 巻き起こるは、一陣の辻風。
 降りしきる雨に打たれながら、新手の仲間達が次々と彼ら彼女らの脇を駆け抜けた。
 そのうち数人は振り返って感謝の目礼を送り、果敢にも炎羅へ向かっていく。

 敵将、大アヤカシ炎羅へと至る道は、見事切り開かれた。
 そしてこれより、大詰めとなる――。

<担当 : 風華弓弦>


●不転退の決意
 至る所で響く剣戟の音。
 それは、ばらばらと木の葉を叩く雨の音をかき消すほどの勢いであった。
 アヤカシ達の別働隊を迎え撃った開拓者たちは、すでに戦いのまっただ中にいた。
 雨雲は月を隠すが、彼らの視線の先は赤々と照らされて。
 それは、彼らの背後で里が燃える炎によってであった。
 すでに、炎羅とアヤカシ本隊は里へと引き込まれたようだ。
 赤々と燃え上がる里の様子は、開拓者達の心を騒がせる。
 あの場所には、仲間たちが闘っているのだ。
 だが、彼らの仕事は仲間達のためにも、眼前のアヤカシ達を足止めすることなのだ。
 退路はすでに無い、彼らの力が及ばなければ、アヤカシ別働隊は里へとなだれ込む。
 だが、里の状況は分からない。
 いつ背後からアヤカシが、ともすれば炎羅が彼らへと向かってくるのかもしれないのだ。
 だからこそ、開拓者達は前だけを向いていた。
 里で闘う仲間達はきっと大丈夫、だから自分たちは眼前の敵を倒すしかない、そう心に決めて。
 ゆえに開拓者達は、一歩たりとも引かなかった。
 魔の森の内部に踏み込んでまで、アヤカシ達に立ち向かったのである。

「‥‥悪いが行き止まりだ。此処から先へは行かせんぞ‥‥アヤカシ共!」
 しっかと足を踏みしめて、声を上げたのは九法 慧介(ia2194)。
 彼のような志士やサムライたちは、自らの体とその技を持って、アヤカシ達を押しとどめる壁となっていた。
「さぁ‥‥いくらでも相手になりますよぉ!」
 槍を振り回して啖呵を切る米本 剛(ia0273) 。
「全力で行きますよ!」
 小さな体からは想像できない力で斧を振り回すのは向井・智(ia1140)。
「開拓者として間もない今の私に出来るのは、共に戦う方を助けること‥‥これも大切なお役目です!」
 そして雪兎(ia8065)は刀を取って先輩開拓者達とともにアヤカシへと立ち向かう。
 彼らサムライと志士の重要な役目は敵に突破されないことだ。
 受けの技術や装備の装甲で、敵の攻撃を捌き受け止める。
 それはすなわち、アヤカシ達の刃や牙、爪へと身をさらすことに他ならないのだ。
 その恐怖を乗り越えて立ちふさがる盾たる開拓者達、もちろん彼らは孤独ではない。
 身のこなしを活かして戦場を縦横に動き回り、盾を助ける刃となるのは速度で勝る泰拳士達だ。
「大丈夫か!」
 智へと向かった骨鎧を横合いから一撃したのは樹邑 鴻(ia0483)だ。
 泰拳士達は、その速度を活かして敵陣へと斬り込んで行く。
 お互いに助け合いながら、闘うのが開拓者の流儀である。
 だからこそ、仲間に背中を任せて眼前の敵に集中できるのだ。

●戦場の趨勢
 別働隊のアヤカシたちは、ただただまっすぐに里へと向かって突き進んでいた。
 それは、まるで火に群がる羽虫のようで。それは里に炎羅という巨大な炎がいるからかもしれない。
 迎え撃つ開拓者達、彼らは川を最終的な防衛線として展開し、さらに魔の森へと踏み込んで闘っていた。
 アヤカシ達には、戦略も無く愚直に突き進んでくるだけだが、その数と勢いこそが最大の武器で。
 常ならば、しっかりと陣を築いたり、もしくは防衛のために守りを固めれば良いのかもしれないが。
 今回はそうも行っていられないのだ。
 各国の協力が得られ、多くの仲間が集ったといえども、手は足りず。
 さらに、連戦によって誰しも疲弊しているのだ。
 資材は足りず、人の手も足りず。
 だからこそ、あえて開拓者達は信頼に足る仲間同士で集い、助け合う道を選ぶのである。
 里に向かって、土砂崩れのように襲いかかってくるアヤカシの群れ。
 それに対して、開拓者たちは幾つもの小集団を組み、その群れの中へと逆に食い込んでいった。
 ただアヤカシ達を引き留めるだけではない。
 一匹たりとも川の向こうには進ませない、そういった気迫が開拓者達にはあったのだ。

「こっちよ!」
 小隊の先頭を走るのはシノビの姿、藍 舞(ia6207)。
 シノビの真骨頂は、その速度と隠密性だ。
 泰拳士が攻撃のための速さだとするなら、シノビは速さは敵を攪乱し、身を守るためだ。
 アヤカシすらも追いつけない速度で戦場を駆け抜け、情報を集めそれを伝えるのがシノビである。
 彼女が伝えるのは、戦場の流れ。どこが手薄で今はアヤカシ達がどう動いているか。
 そしてそれが伝われば、一群となって動く小隊が一つ、向日葵という小隊であった。
 シノビの舞が示した道筋にそって進みながら、放たれる矢。
 晋奈(ia7166)と炎陵(ia7201) は小隊の中にあって次々に矢を放っていた。
 弓術師のみがなしえる弓捌き、鮮やかに矢を構えた次の瞬間には矢は放たれて敵を穿ち。
 また弓使い達を守るために、その前で手裏剣を放つのは胡桃 楓(ia5770)らシノビ。
 そして術で援護するのは巫女の琴友(ia7638)だ。
 襲い来るアヤカシ達を巫女やシノビが牽制し距離をとれば、そのアヤカシには矢が突き立つ。
 そうすれば、小隊は一息をついて周囲を見回して、新たな敵の群れに狙いを定めて。
「‥‥僕を殺せるのは夏葵隊長の矢だけですヨ!」
 そう口にした楓の後ろには、まだ年若いながらも小隊を率いる隊長、夏葵(ia5394)が。
 楓の軽口に対して、夏葵も微笑を浮かべて、矢を引き絞る。
 一歩も引くことが出来ないという苦しい状況だからこそ踏みとどまり笑顔を浮かべる、それが開拓者たちの矜持だ。
 連携を遮るために、攻め寄るアヤカシ達を突っ切り魔の森に深く踏み込んでまで敵を縦横に打ち倒す向日葵小隊。
 彼女たちと同じように、数多くの小隊が作戦の成功のために魔の森へと斬り込んでいったのである。

 守りに転じてしまえば、数で優れるアヤカシたちの波状攻撃で消耗してしまう、それは端から分かっていた。
 つまり、まさしく背水の陣であった。背後には川、そのさらに背後に里。
 守るべきものを背に、開拓者は一歩も引く気は無かったのだ。
 決死の覚悟は気迫となって、気迫は恐怖を駆逐する。
 そうなれば、開拓者達は持てる力を十二分に発揮しできるのだろう。
「生き残るんじゃない、勝ち残るんだ! 皆、元気で笑って帰るんだ!」
 力のこもった雄叫びを放ち、刀を振るうのは玖守 真音(ia7117)だ。
 こちらは小隊、句倶理だ。彼らも仲間に背を任せ、決死の覚悟でアヤカシ達に斬り込んだ小隊である。
「仲間達は‥‥姉ちゃんは俺が護る!」
 そういって、小隊の盾となるのは玖堂 羽郁(ia0862) 。
「みんなで勝ち残るわよ!」
 その後ろから援護の術を放つのは姉の玖堂 真影(ia0490) だ。
 こうした小隊たちは単独行動をしているわけではない。
 あくまでも、開拓者達の全体の動きの中で、それぞれが独立した部隊となって臨機応変に行動しているのだ。
 戦場において、避けなければ行けないのは孤立である。
 いくら味方が数多くいようと、敵陣で孤立してしまえば終わりだ。
 逆に、全体では数で劣ろうと、眼前の敵に対してこちらが勝れば撃破が可能だ。
 そういう意味で、能力が様々に異なる開拓者達は、こうしたお互いの欠点を補う小隊を作るのだ。
 そして、それぞれが独立行動しつつ、全体の指示にも即応する。
 この要となり得るのは、戦場を縦横に走るシノビ達であった。
「‥‥ここで倒れるわけにはいかん! 少し引いて他の小隊と足並みをそろえるぞ」
 小隊同士の連携の要は情報、仲間にそう伝えて戦線を下げると伝えたのは頼明(ia5323)だ。
 彼らの小隊は、その指示に従い、サムライを盾に志士を刃として、陰陽師の援護を受けながら戦線を下げる。
 すると、別の小隊が彼らの横に並ぶように合流し、さらに大きな集団を形成。
 いつ尽きるともしれないアヤカシ達の攻撃を受け止め、反撃を始めるのであった。

 合流した小隊の名は玉鋼だ。
 こちらもなかなかの大所帯にして、高い戦力を誇る部隊であった。
 魔の森の奧から、怒濤のように攻めてくるアヤカシ達の群れ、その流れは均一ではない。
 数が少なく勢いの弱いところもあれば、多くのアヤカシが群れて強固なところもある。
 そこを見極めて、突破されないようにするのが彼らのような部隊のつとめであった。
 強力なアヤカシが群れていればそこを一気に攻めて、連携を断って、蹴散らして。 
 そうなれば、たとえ強いアヤカシでも、孤立させてしまえば、開拓者達が数で押して倒せる。
 だが、逆に小隊が数で押され、敵に囲まれてしまえば小隊が全滅してしまうことだって考えられるのだ。
 その連携のために、小隊同士の協力と、その伝達のために動くシノビ達が欠かせないのである。
 小隊玉鋼、彼らも同じようにシノビ達の伝令によって他の小隊と連絡をとりあっていた。
 そしてその中で、速度で敵をかき乱す泰拳士たち。
 紅虎(ia3387)は泰拳士の技を持って距離を選ばず、アヤカシたちを攪乱し。
 菘(ia3918)やフェルル=グライフ(ia4572)がサムライとして、後衛を護るために立ちはだかる。
 一羽 零雨(ia4098) や榊 志竜(ia5403)、ギアス(ia6918)が志士として前衛を援護をすれば。
 ネイト・レーゲンドルフ(ia5648)ら弓術師は後衛から前衛を補佐する。
 そして巫女のこうめ(ia5276)やユウキ(ia3298)らが前衛達を援護し癒すことで、戦線を維持するのだ。
「初戦からこん里を守ってきたんや、最後まで面倒見させて貰います!」
 そして彼ら玉鋼小隊の面々を指揮し自ら前線にたつのが隊長の琴月・志乃(ia3253)。
 これほどの大所帯になれば、それは立派な一部隊である。
 隊員達は連携して行動し、お互いに背中を守りあえば、アヤカシの勢いにも負けずに斬り込んでいくことが出来る。
 さらに、この小隊の先陣を切って斬り込んでいるのは3名の志士だった
「皆さん、行きますよ!」
 多少の怪我には構わず斬り込むのは幻斗(ia3320)。
「こっちだアヤカシども!」
 アヤカシ達を引きつけて、誘導しているのは都騎(ia3068)。
「これでとどめだ!」
 そして仲間2人の援護と攪乱で引き寄せたアヤカシにとどめをさすのが蒼零(ia3027)だ。
 猫好志士三人衆と名乗り、怪我を怖れずに斬り込んではアヤカシ達を引き寄せる。
 こうして上手くかみ合った小隊達の働きは見事なものであった。
 臨機応変に動きながら、お互いの弱いところを補完しあう部隊こそが開拓者の真骨頂。
 こうした部隊の働きが無ければ、彼らはあっという間に負けていただろう。
 そう、見事な働きではあるが‥‥それはあくまでも持ちこたえられる、という話で。
 蔦が生い茂り、瘴気が満ちる魔の森において、開拓者達は常に窮地にあるのだ。
 気を抜けば、アヤカシの刃が体を抉り、牙に抉られて地に伏してしまう。
 そんな苦しい状況で、開拓者を助けるのは、癒し手である巫女達であった。

●佳境へ
 シノビ達が戦場を疾駆し情報を伝え、開拓者同士が連携するための要ならば。
 開拓者達を支え、助けるもう一つの要は巫女達であろう。
「私自身は守る力が無くても‥‥でも、気持ちだけはっ」
 そうつぶやいて、前衛から息も絶え絶えに下がってきた仲間を癒すのは佐伯 柚李葉(ia0859)だ。
 戦場に立ち、アヤカシを滅する力は持たずとも、戦場にて味方を癒し支えることは出来る。
 そうすれば、仲間達は倒れ伏すことなく、たとえ一度膝をついてももう一度立ち上がるのだ。
「大丈夫っス。もうすぐ巫女さんの所に着くっス!」
 足に酷い傷を負った開拓者に肩を貸しているのは大友義元(ia6233)。
 彼らのように、前線まで駆け抜けて、傷ついた仲間を助けて一度引く開拓者達も居て。
 弓術師や陰陽師の援護のもと、なんとか仲間を救い出して巫女の元へと戻る事さえ出来れば。
「微力ですがこれで‥‥最後まで力を尽くしましょう!」
「痛いの痛いの飛んでいけ〜です」
 天導水貴(ia0040)や八重・桜(ia0656)が傷を癒していく。
 彼女たちだけではない、戦場のそこかしこではこうした巫女達が仲間の命をつなぎ止めていくのだ。

 だが、彼女たちの力にも限界があり、怪我人の数が増えればその手は追いつかなくなる。
 じわじわと目に見えて怪我人が増えてきていた。
 それは、前線での戦いの趨勢を物語っている。
 開拓者達は押され始めているのだ。
 いくら怪我を癒すことが出来るといえども、すべてが癒されるわけではない。
 疲労はたまり、集中力にも限りがあるのだ。
 そうなれば、いくら小隊を組んでお互いに援護しあうといっても数に押され始める。
 しかし、開拓者にはまだ策があった。

「そろそろ潮時であろう。伝令を出せ!」
 この部隊の指揮官である大伴定家はそう声を上げた。
 開拓者とは別に陰殻から派遣されたシノビたちを軸とした、一つの策が動き始めたのである。
 その言葉の通り、次々にシノビたちが伝令として前線へと駆け抜けていく。
 その伝令の中核を締めたのは、派遣されたシノビ達だけではなく、シノビの開拓者たちであった。
 シノビ戦隊として連携を取った彼らは、前線の仲間達の元へ。
 徐々に押され始めた彼らの元へと駆け抜けていったのである。
 流星 六三四(ia5521)、楓雅(ia5331)、竜胆(ia5591)、はやて(ia5885)。
 さらに深凪 悠里(ia5376)、不嶽(ia6170)、蟻 王(ia8046)らシノビ達はただ一つの指令を伝えた。
 彼らはばらばらに散らばり、最前線で闘う仲間達の元へと駆け付けると、今すぐ引け、と伝えたのだ。
 前線を引く開拓者たちを助けるようにして、他の開拓者達が援護をする。
 陰陽師らは斬撃符を放ち、追いすがろうとするアヤカシ達の足を攻撃。
「卑怯で結構。足場から崩すのも兵法‥‥でしょ?」
 然(ia4697)はそういうとさらに符を放ち。
「これでも喰らいやがれ!」
 鈴華(ia2086)が地断撃を放って、後退を援護すれば、焦愁 白寧(ia6369)ら他のサムライも続き。
 さらに陛上 魔夜(ia6514)らが木を強引に切り倒せば、わずかに生まれる隙。
 それは、小隊たちが魔の森まで踏み込んで敵陣を切り刻んで、アヤカシ達の勢いを殺したからであり。
 そして、シノビ達によって一気に連携して前線を下げたために生まれた、一瞬の空白であった。
「今だ!!!」
 戦場にこだまする幾人もの声は一気に広がり、それを合図として魔の森へと一斉に踏み込んだのはシノビ達だ。
 前線が混乱し、アヤカシ達の足がとまった一瞬の好機、その瞬間に数多くのシノビ達が連携し。
 一斉に火遁の術を放ったのである!

●燃える魔の森
 100名に達するほどのシノビが放った火遁の術は一斉に広がった。
 それは背後で今だ燃え続ける里と呼応するかのようで。
 だがしかし、魔の森は元来燃えにくいモノであり、さらに不幸なことに天気は雨だ。
 燃えさかっていた炎もすぐさま鎮まっていって。
 そして炎が尽きて視界が晴れたあと、そこには殆ど無傷と言っていい魔の森と、未だ残るアヤカシ達の群れがいた。
 開拓者達ははたして絶望したのだろうか。
 否、彼らは絶望することはない、なぜなら、彼らの選択肢に撤退の文字は無いのだ。
 ここを防がねば希望はないことなど最初から分かっている。絶望している暇など無いのだ。

 だからこそ、開拓者達はすでに準備していた。
 森を燃やしてる間に生まれた時間的余裕で陣営を立て直し、今度こそ総力戦の構え。
 川を背に、森からあふれ出てくるアヤカシ達相手の背水の陣である。
 まず、森から飛び出してきたのは飛ぶことの出来るアヤカシ、鬼面鳥たちだった。
 それに応えたのは、開拓者達の矢や手裏剣、飛び道具の雨であった。
 しとしとと降る雨を切り裂いて飛ぶ矢や手裏剣は、高所から放たれて。
 レイル・フロスト(ia7329)ら弓術師だけではない。
 雷華 愛弓(ia1901)のような巫女たちも弓をとり、木の上などから矢を放っていたのだ。
 乱戦になれば矢を使いにくくなることを見越し、一斉に放たれた矢の雨が次々鬼面鳥を落としていって。
 そして矢を逃れたアヤカシ達を襲ったのは術の雨であった。
「さあさあ然と見よ! これこそが我が陰陽術の神髄であーる!」
 扇のように両手に構えた符を使い、鳥には鳥と目突鳥を生み出して迎撃するのはパンプキン博士(ia0961)だ。
 こうして森を抜けてきた鬼面鳥たちはほぼ打ち倒した。
 だが、次に出てきたのは地を歩むアヤカシ達の群れだ。
 鬼や骨鎧、それに剣狼たちがどっと押し寄せてくる。
「おっと、貴方たちはこの場で消えるのよ‥‥そう、貪り喰われてね!」
「うふふふふぅ、よぉこそ悪夢の花園へ♪」
 押し寄せるアヤカシ達の先頭で発動したのは地縛霊であった。
 仕掛けたのは川那辺 由愛(ia0068)、シュラハトリア・M(ia0352)の2人。同じスキルは33尺(10m)四方につき一つしか仕掛けられないためある程度疎らだが、踏みつけられた分は確実に発動していた。
 まがまがしい式たちが地より這い出して、不用意に踏み込んだアヤカシ達に絡みつく。
 そしてそれを援護するように神町・桜(ia0020)が力の歪みを放ち援護して。
 まさしく、出鼻をくじかれたアヤカシ達は、わずかに勢いを減じる。
 だが、あくまでわずかに、である。
 アヤカシの数はまだまだ多く、術によって足止めを喰らった同胞を踏み越えてまで進んできて。
 いよいよ総力戦の形となったのである。

 ここで、本領を発揮したのは、迎撃のための準備を進めてきた開拓者達の小隊である。
 斑鳩という小隊は、少ない時間ながらも一致団結し防御用の柵を作り上げていた。
 森へと尖った杭を向けた簡易ながらも効果が期待できるその柵を盾に、この小隊は戦線を構築するのだ。
 廻音(ia7648)は柵を盾にして術を放ち。
 小鳥遊 郭之丞(ia5560)や慄罹(ia3634)、炎鷲(ia6468)ら志士はアヤカシの迎撃が任務。
 柵の隙間を埋める形で、攻めあぐねるアヤカシ達を迎え撃っていた。
 今までは伝令役であったシノビ達も、こうして総力戦となれば貴重な戦力。
 その優れた身のこなしと素早さを活かし、信道(ia5503)は敵を攪乱戦法をとっていた。
 しかし、柵を作ったと言え、それが戦線すべてにではなく、幾つもの隙間が存在していた。
「天網恢かっ、痛っ! 噛んだ‥‥えーと、疎にしてもらさず!」
 そう言いながら矢を放つのは瑞乃(ia7470)。柵を避けてくるアヤカシを狙い。
 そして拾(ia3527)は柵を守るため、柵を攻撃するアヤカシ達に狙いを絞り、撃退していた。
 この柵の発案者は、この斑鳩小隊の鈴木 透子(ia5664)だとかで、彼女も術で迎撃を担当。
 そして、彼らの背後にて、仲間を援護するのは小隊長の斑鳩(ia1002)や神威ミコト(ia5943)だ。
 守りに重きを置いたこの斑鳩小隊は、攻め寄るアヤカシ達をかろうじて迎え撃っていた。
 谷 松之助(ia7271)や浅井 灰音(ia7439)ら志士が前衛として迎え撃てば、それを後衛が援護。
 そして陰陽師の森之梟(ia6278)らが足止めを担当するのだ。
 すでに限界まで戦線は下がりつつも、開拓者達はなんとか踏みとどまっていた。
「余所見しないでよ!」
 妹のホゥレリア(ia4065)が言えば。
「分かっていますよ。しっかりこの場を守らせていただきます」
 決意も込めて、姉のホゥラリア(ia6144)が応える。
 周太郎(ia2935)は刀を片手に、術を放つ力が尽きても眼前のアヤカシに立ち向かい。
「‥‥迎え、討つ‥‥」
 すでに疲労困憊の体ながらも秘純 織歌(ia1132)は仲間達を支え癒して。
 そして、焙烙玉を放ってアヤカシ達を向かえうつ昂燐(ia5387)で。

 こうして、名のある小隊から名も無き無名の開拓者達まで、皆限界間際であった。
 混沌とした戦場で、かろうじて開拓者達は立ち向かっているものの、戦線の維持はそろそろ危機的で。
 どこかが破綻すれば、最悪の事態が。
 そんな予感を前に、開拓者達がいよいよ覚悟を決めて、最後の力を振り絞ったその時に。

 遠く長く、そして恐ろしい咆哮が里の方角から響き渡ったのである。

<担当 : 雪端為成 >


●軍勢
「これが‥‥炎羅‥‥?」
 息を呑む朱櫻 桜(ia0329)。
 怒りと感嘆の綯い交ぜになった複雑な表情が、ぼんやりと炎羅に見惚れる。
「ここは戦場だぞ!」
 後方より、声が飛んだ。
 はたと我に返り、飛び退く。その後に殺到したのは、嵐のような陰陽術の奔流。五行の軍勢だ。まずは一撃。一撃を加え、炎羅の動きを確かめようと考えての攻撃であったのだが、それは、炎羅の周囲を取り囲むその他のアヤカシに命中し、炎羅本体を傷つけるまでには至らなかった。
 ぎろりと軍勢を睨み、大口を開く炎羅。
 続けて放たれる矢や呪術を、煉獄の炎によって焼き尽くす。
「ぬう」
「ここが正念場! 全力で行くぜ!」
 五行軍の前に立ち、寄せるアヤカシへ刀を浴びせる柊・忍(ia1197)。だが、片手で振るう刀では一撃一撃が軽い。已む無く、敵の反撃を盾で防ぎ数を繰り返す。
「退がるで御座るよ!」
 炎羅の雄叫びが響き渡る中、有白亜(ia6523)が退却を促した。
 五行の一部は、元々炎羅の情報収集を目的として参戦している。無理が禁物である事は百も承知、指揮官が采配を振るうや、五行軍は素早く距離をとった。
「やはり、まずは周囲の敵を引き離さなければ‥‥」
 矢を構える、只木 岑(ia6834)。
 開拓者の中には、退却の二文字を思い浮かべた者も、あるいは居たかもしれない。だが、彼を初めとして、開拓者の多くは不転退の覚悟をもってこの戦いに臨んでいる。そもそも、里まで敵を引き込んでおいて、今更どこへ退却するというのか。この場での退却すれば、自ら負けを認めるようなものだ。
「隠神さん、退がって下さい!」
「まだだ‥‥まだ、いける」
 攻め寄せる敵の刃を避け、手裏剣を放つ隠神(ia5645)。
 最前線で限界まで留まらんとする彼は、敵の刃が喉輪を弾くに至り、ようやく身を翻す。百鬼夜行に所属する弓手達が、その弦を引き絞った。
「ちぃっ」
「――今だ!」
 隠神が退くと同時、炎羅周辺に屯するアヤカシへと矢を放つ――その一発が一斉射撃へと展開した。王禄丸(ia1236)の指揮の元、戦列を組む百鬼夜行。矢の雨を突破した敵先頭集団と衝突する。
 距離をとっての射撃に引き寄せられ、攻め寄せるアヤカシの群れ。
 前衛として展開する開拓者達も果敢に攻撃を加えるが、やはり数が多い。元より引き寄せるのが目的なれば、戦うにつれ、じりじりと後退していく。
「くっ‥‥!」
 具足の装甲で攻撃を弾き返し、水津(ia2177)は一歩、二歩と後ずさった。
 逃すまじと棍棒を振り上げる鉄甲鬼。その腕を、鋭い刃が切りつける。衛島 雫(ia1241)だ。
「無茶はするなよ。勝利の後にも日々は続くのだからな」
 敵の攻撃を盾で防ぎ、反撃を叩き込む。確実に体力を奪うその攻撃。衛島は、数歩を踏み込んで敵を追い返す。が、その直後、鋭い警告が耳を突いた。
「後ろですっ」
 悲鳴と共に、剣狼が瘴気に還った。
 羅漢を構えた安宅 聖(ia5020)が、礼を口にする彼の隣に並ぶ。里内部に引き込んでの戦いは、自然と乱戦の様相を呈してきた。隊を同じくせずとも、互いに協力していかねば危うい。少し油断をすれば側面や背後といった死角より攻撃を受けるからだ。
「どう見ます?」
「どうって‥‥逃げ回るのも一苦労よ」
 聖の言葉に、葉隠・響(ia5800)が応じる。
 武器を握り締め、建物を背に身構える彼女は、路地の隙間から民家の裏へと視線を走らせた。
 肩で息をするのは、彼女自身が言うように、今の今まで全力で逃げ回っていたからだ。そして、逃げ、敵を誘っての撹乱さえも危うい程、あちこちに敵がうごめくのもまた事実。
「撹乱するにしたって、ね」
 が、であるが故に、それを活かす手立ても生まれてこようもの。
 髪を揺らし、屋根の上を駆ける泰拳士。梢・飛鈴(ia0034)は、その懐より苦無を取り出し、手近なアヤカシ目掛けて投げ付ける。怒る鬼を相手にひらひらと手を振って見せ、再び屋根を駆けた。
 先頭の鬼に続くアヤカシの群れ。
 彼女は入り組んだ路地に逃げ込み、一足飛びに飛びに場を身を翻す。
「鬼さんこちら‥‥ってカ」
 そのままの勢いで路地に飛び込んだアヤカシの見たもの。それは、彼等が現れるのをてぐすね引いて待ち構えていた、広場組の面々だった。多少知恵が廻れば、このように露骨な罠も見破れたかもしれないが、所詮アヤカシ。それも興奮気味で、冷静な判断ができないらしい。
 うろたえる鬼を突き飛ばすようにして、後続のアヤカシが次々と雪崩れ込む。
「今や、いてこましたれ!」
 天津疾也(ia0019)が号令をかけると同時に矢を射掛ける。彼の号令と同時に、陰陽術や矢、手裏剣等の遠距離攻撃が、四方八方より降り注ぐ。
 陣形も何も無かったアヤカシの群れがこれに対抗できる訳も無く、激しい攻撃に晒されて混乱する。そして、その混乱が収まるよりも早く、まひる(ia0282)を先頭に、開拓者達が切り込んだ。


「――邪魔やッ! これでも食らっとき!」
 屋根の上より半身だけを乗り出して、葛葉・アキラ(ia0255)は符を掲げた。放たれし斬撃符がアヤカシを切り裂く。瘴気を吹き上げて背を向ける鬼面鳥。慌てて空へ逃げんともがくその背を見据え、椿 奏司(ia0330)が駆けた。
「ここで朽ちるが良い――!」
 走る太刀。
 その一刀が、鬼面鳥の背を叩き割った。
「次ッ」
 派手に動き、前衛として敵の攻撃をひきつける。彼女達百花は一騎当千の猛者揃いでも無ければ大部隊でも無いが、その堅実な連携によって一匹、また一匹と敵の数を減らしていく。
 だがその一方で、どうしても動かぬ敵があった。
 鉄甲鬼と、亡鎧。
 炎羅直接の指示でもあるのか、四匹の中級アヤカシは炎羅の傍らを決して離れずにいる。咆哮によって足並みを乱そうと試みる者もいたが、効果が薄く、炎羅とこれを分離するには至らない。
 炎羅を含めた彼等五体は、さながら動く要塞だ。
 近寄る開拓者を粉砕し、一太刀たりとて寄せ付けない。無論、ダーツや矢の一本二本、傷ひとつ負わせる事もできない。
「さすがに頑丈ね」
 新たなダーツを指に挟みつつ、星乙女 セリア(ia1066)は呟いた。
 しつこく攻撃を繰り返す彼女へ向き直り、その細身をぎろりと睨みつける炎羅。取り巻き共々、炎羅が動く。
「鬼さんこちら、手の鳴るほうへ‥‥なんてねっ」
 思いつく囃子は同じ、という事。
 梢と同じ言葉を口にしつつ、必死に後退する星乙女。その露骨な挑発‥‥ともすれば、炎羅は罠の存在に気付いていたかもしれない。だが同時に、生半可な罠であれば踏み潰して突破する自信もあったのだろう。
 配下を周囲に、炎羅は、彼女を追って家屋を粉砕する。
「さて」
 誰かが、呟いた。
 家屋を突破したその直後、炎羅共は、一挙に開放された地縛霊による攻撃に晒された。炎羅がその攻撃をものともせぬ一方で、鉄甲鬼と亡鎧は、直撃を貰い、その足取りを鈍らせる。
 そう。確かに、炎羅相手に生半可な罠が通ずる訳も無かった。炎羅が相手、であれば。
 それでもなお、進む炎羅に追随しようとして、四体の取り巻きは掘られた溝に足をとられ、前のめりに転倒する。建物の影、黎乃壬弥(ia3249)がにやりと笑みを浮かべ、刀に手を掛ける。
「露払いはさせて貰うぜ」
 次々と倒れる、全長3mにも達するその巨体。一連の罠を主導した華夜楼の一隊、そして多数の開拓者が、この隙を逃すまじと襲いかかった。発想の逆転だ。直援を誘い出せず、また炎羅を留められそうにも無いのであれば、罠にかけて激しい攻撃に晒し、直援だけを足止めしてしまおうという訳だ。
 完全に先手を奪われた取り巻き共は、開拓者の集中攻撃を受け、一匹、また一匹と瘴気へ帰ってゆく。無論、戦場はここだけでなく、その喧騒は鳴り止まぬ。それでも、炎羅を中心とする一帯には不気味な静寂が訪れていた。少なくとも、その一瞬だけは。


●罠
 ゆらりと振り返る炎羅。
 手にした棍棒が、巨木を薙ぎ倒す。
『グルルルルル‥‥』
 まるで地鳴りのような唸り声。吐息は、単なる呼吸ですら火炎のような熱を帯びる。山のように巨大な筋骨隆々たるその身体は、瘴とも炎ともつかぬげに恐ろしき気を纏い、炎羅が動くに合わせてごうごうと揺らめく。
 全てが攻撃的な意志の元に構成された、炎羅の姿。
 見る者全てを圧倒するかのような、威圧感。その威圧感たるや、単騎で対峙すれば、開拓者といえでも足がすくんでしまったであろう程だ。
 それでも、ここで引き退がる訳にはいかぬ。
「全隊、抜刀!」
 隊長たる緋赤は、自ら先頭に立って切り込まんと異形の刀を掲げる。今や遅しと身構えていた瑞鳳隊の抜刀隊は、各々思い思いの得物を手に姿勢を屈めた。
 その時だ。
 どこかから、法螺貝の号令が鳴り響いた。
 瑞鳳隊の只中から飛び出すのは、八十神 蔵人(ia1422)。突撃の旗をはためかせ、遮二無二突っ込んだ。
「よっしゃあ! 初太刀は頂くで!」
「あっ、ずるい!」
 負けじと地を蹴る緋赤。
 先の法螺貝を合図に、先陣を切る開拓者達が一斉に飛び出した。
「おぉぉぉっ!」
 胸目掛け陣風を振りかざす八十神。
 一番槍を狙ってのその攻撃は、しかし、炎羅の巨大な腕に出迎えられた。
 全身を激しい痛みが襲った。直撃したのは炎羅の拳。手の甲の一撃を受けただけで、彼の身体は弾き飛ばされ、遠く納屋の壁に崩れ込んでしまう。
「ちぃ、流石に重いな‥‥」
 折れた肩を支え、ゆっくり立ち上がる八十神。先頭集団が粉砕され、それでもなお炎羅相手に刃を走らせる開拓者達だが、その時、炎羅がぐわと口を開いた。
「炎羅が煉獄を!」
「くっ」
 周藤・雫(ia0685)の警告に、緋赤がおでこをもたげた。
「距離を取れえ!」
 その号令に慌てて飛び退く彼等。
「物陰へ!」
 白蛇と書かれた旗を掲げ、呪縛符を放つ静月千歳(ia0048)。家屋の裏へと飛び込んだその直後、炎羅が火炎を、煉獄を放った。周囲一帯を焼き尽くす強力な炎が大きなうねりとなり、彼等を襲う。
 逃げ遅れた隊員の一部がその中に掻き消え、唖然とする別の隊員は棍棒の一撃に叩き潰される。炎にまみれながらも辛うじて逃げ出した者は、拳に殴り上げられ、紙屑のように宙を舞った。
 数十名の志体が瞬く間に戦闘不能となり、あちこちで呻き声をあげる。
「しっかりなさって下さい」
 燃え残る炎に服を焦がしながら、桔梗(ia0439)が駆け寄った。彼女は神風恩寵による回復を試みようとするが、駆け寄った相手がぴくりとも動かぬ様子を見て、そっと首筋に触れた。
「‥‥」
 一瞬の黙祷を捧げ、直ちに他の負傷者へ顔を向ける。
 炎羅の攻撃を受けた一部は、仲間の手による治療を受ける間すら無く命を落とした。開拓者といえど人間。深い手傷を負えば治療を必要とする。対する炎羅は負った傷をものともしていない。
 開拓者や正規軍の区別無く、天儀の軍勢は修凱骨相手にも大きな被害を出したが、炎羅の戦闘能力はその修凱骨すら遥かに上回っている。
 まさしく段違いだ。
 棍棒を振り上げ、形振り構わず突進する炎羅。
 障害物を踏み潰し、重装備の開拓者を粉砕し、隊列を組む瑞鳳隊を棍棒で薙ぎ払う。その巨体を押し留める手段などあろう筈も無い。
 だが――
「日輪の光は‥‥アヤカシの炎などに、負けません‥‥!」
 戦いを止めるわけには、いかない。
 那木 照日(ia0623)を先頭に、日輪が炎羅を目掛けて突っ込んでゆく。
 棍棒を振り上げる炎羅。喜屋武(ia2651)が、那木を押しのけて突貫した。盾に槍を重ね、迫る棍棒を前に身構える。強烈な衝撃が、身体を襲った。軋みあがる骨。支えきれずに叩き伏せられた。
「なんて一撃だ!?」
 思わず喚く喜屋武。
 それでも、耐えた。
 耐えたが、これ以上は無理だった。続く一撃を察知した彼は、槍を盾に交差させて勢いを殺さんと試みるが、御しきれずに弾き飛ばされる。
 彼の影より炎羅へと詰め寄った那木が、弐連撃によってその腕を斬り付けた。
「――くっ」
 だが、炎羅にはまるで怯む様子も無い。
 萎えそうになる心を奮い立たせ、斬り抜けた先で反転し再び炎羅を睨む。解っている。一撃二撃で活路を見出せるような相手であれば、その恐るべきが厄災に例えられよう筈も無い。
 だからこそ、ここで諦める訳にはいかないのだ。
「各隊、続け!」
 小野 咬竜(ia0038)の指揮の下、間髪居れずに炎羅へと攻め掛かる神焔衆。
 隊を三に分け、同時に三方より攻撃を加えるのが作戦の骨子。後方に控える弓手や術士達は足を止め、彼等駆ける前衛を支援する為の遠距離攻撃を放つ。
 無論、当てずっぽうに攻撃を加える訳ではない。
 狙うは脚や腕。
 そして、顔。
 払暁の刃に所属する氷海 威(ia1004)は、炎羅がその腕を振り上げる度、顔面目掛け斬撃符を叩き込む。ひとつひとつの攻撃は決して有効打になりえないが、それでも、やらぬよりは遥かにマシ。
「攻撃の手を休めるな!」
 柄土 仁一郎(ia0058)は叫び、羅漢を振るう。
 自らもその槍を振るって脇腹を突くが、炎羅よりの反撃に弾き飛ばされる。炎羅の一撃は、如何に経験を積んだ開拓者と言えど、これを一撃で黙らせる。幸いにして命を落とす事が無かろうと、戦闘続行は不可能だ。
 行動不能になれば、炎羅が手を下さずとも、周囲の下級、中級アヤカシが群れを為して襲い掛かる。
 琴蕗 瑠佳(ia5388)が寄せるアヤカシを駆逐する傍ら、鴇ノ宮 風葉(ia0799)が割り込み、負傷者を担ぎ上げた。
「早く離脱を!」
 隊長の傍ら、符を掲げるG仮面、もとい剣桜花(ia1851)。風世花団や黒蜥蜴といった準備攻撃班も、限りある戦力をやり繰りして雑魚を相手どる。煉獄を撒き散らす炎羅より距離を取りながらも、一匹一匹を確実に補則し、屠る。
 全ては、炎羅撃破の為。
 炎羅と直接対峙する仲間達が、心置きなく炎羅と戦えるようにする為だ。
 そして炎羅を前に戦う彼等もまた、準備攻撃班の努力を無駄にせぬよう、炎羅の動きに隙を見出しては果敢に攻撃を仕掛けていく。
「こちらには後がありませんからね‥‥」
 数度目となる瑞鳳隊の突撃。その突撃に紛れて素早く駆ける辟田 脩次朗(ia2472)。腕や脚部目掛けて次々と斬撃を放ち、炎羅よりの反撃を受けぬよう、脇目も振らずに斬り抜ける。
 確かに、炎羅は恐るべき相手だ。
 特にその破壊力たるや、彼等が今までに戦ってきた如何なるアヤカシよりも強力だと断言しても良いだろう。
 だが同時に、これだけの精鋭が一堂に揃うのも初めてだ。炎羅の攻撃に倒れようとも、続く友軍に後を託せる。彼等は次から次へと攻撃を加えてゆける。


●岐点
 炎羅は、幾度その火炎を撒き散らし、武器を振るっただろう。
 天儀軍もまた、多くの死傷者を出しながら、決して諦めはしなかった。まるで、仲間の屍を踏み越えんばかりの気勢を発し、絶やす事無く波状攻撃を重ねる。
『グルル‥‥』
 激しい波状攻撃に晒されて、炎羅は苛立たしそうに棍棒を振るった。数人の開拓者が薙ぎ倒されるが、続く開拓者達が交代して現れ、炎羅を斬り付ける。とある開拓者に曰く、自称して小アリの群れ――炎羅にしてみればまさしく言葉通りと呼ぶべき彼等の戦いに、その苛立ちは最高潮に達した。
 首をぐぐと持ち上げ、口を大きく開く。
 炎の吐息が喉の奥に充満する。
 煉獄。
 幾度と無く開拓者達を薙ぎ払った炎の渦。
 しかし、これで何度目か。
「ぶっ壊れるその様――」
 この時を待ち構えていた者がいた。
 十河 茜火(ia0749)は開拓者の戦列から飛び出し、無点火の焙烙玉を炎羅の大口目掛けて投擲し、追いかけるようにして火輪を放った。火の粉を撒き散らし直進する火輪が焙烙玉に直撃する。
「アタシにシッカリ見せてよねっ!」
 直後、爆発。
 口中でうねる爆炎に、炎羅が仰け反る。
 空気撃が、膝や頭部を打つ。
「でああっ!」
 一人でどうにかしようなど、端から思っていないとは中原 鯉乃助(ia0420)の弁。泰拳士達は空気撃による転倒を狙い、弓手達は炎羅の顔、特に眼を狙って矢を放つ。彼等は開拓者だ。素人の類ではない。一度二度見やれば、その攻撃動作を覚えぬ筈が無い。
 十分過ぎる隙があるのだ。
 お行儀良く煉獄を待たねばならぬ法も無く、彼等の一部は、むしろこの瞬間を待ち望んですら居た。
「今だ、かかれえい!」
 鬼島貫徹(ia0694)が轟くような号令を発する。一本の槍のようになり、豺狼山脈が一斉に動いた。
 辺りへ炎を撒き散らし、暴れる炎羅。
 炎羅は痛みを感じておらぬのか、口から炎を爆炎を漏らしながら、なおも棍棒を振るう。先頭をひた走る彼を狙う、その巨大な棍棒。
 仲間の術や矢で勢いが減退されながらも、全身を砕くような強烈な衝撃が彼の身体を襲う。だが、それで良い。鬼島を打つ為のその攻撃により、炎羅の利き腕は弦のように伸びきっていた。
 それこそが、彼等豺狼山脈の狙い。
「フン、アヤカシ風情がッ!」
 途絶えがちな意識の中、彼はにやりと笑みを浮かべる。
 吹き飛ばされる隊長には眼もくれず、柳生 右京(ia0970)が跳んだ。無防備に晒された肘関節目掛け、掲げし斬馬刀を振り下ろす。二の太刀なぞ考えぬ示現の一撃が、炎羅の肘に深々と食い込む。
 だが、今度は彼の刃が伸びきった。
 骨を最後まで割る事が出来ず、斬馬刀がその動きを止める。このままでは腕を断ちきれぬ。
「柳生殿!」
 聞き慣れた声に、右京は身を仰け反らせた。
 声の主は皇 りょう(ia1673)。彼女はその手に阿見を握りしめ、斬馬刀の背を睨み付ける。
「我等に武神の加護やあらん!」
 刃がきらめく。
 彼女が切り付けたのは、斬馬刀の背だった。腕が一直線に振り下ろされる。甲高い金属音と共に阿見の刃が砕け、宙を舞った。柳生の持つ斬馬刀が背にも、一本のひびが走っていた。二人はほぼ同時に着地し、隙を見せずに身構え、飛び退く。
 二人に続く地響き。
 何十人もの戦士達を薙ぎ払った炎羅の腕が、地に落ちた。


●炎羅
 空を震わす炎羅の咆哮。
 だがそれは、決して、痛みに怯み、うろたえる様ではない。その咆哮は、怒りの咆哮だった。炎羅の眼は闘志を失うどころか、ますます攻撃性を増して彼等を睨む。
「うおおおおおおお!」
 誰とも無く、武器を構え、泥を跳ね上げ突き進む。
 彼等は一切の躊躇を捨て、遮二無二攻めかかった。
 五行も瑞鳳隊も無い。陣はとうに乱れ始めているが、もはや、彼等は負ける気がしなかった。
 片腕もろとも武器を失い、煉獄の準備動作に入る炎羅。
 先と同じ策が通じるでもないが、しかしそれでも、一度破った術だ。もう、彼等にとっての炎羅は、厄災では無い。厄災は人に制せぬ天意であるが、炎羅は、斃せる。ただひたすらに強力で、化物じみた敵であるに過ぎない。
「これ以上、ボクみたいな人間は作っちゃいけないんだ‥‥!」
 方月・一樹(ia6567)が矢を放つ。
 惜しむ事なく練力を注ぎ、全力でその気を逸らさんと試みる。それでもなお吐き出される煉獄だが、明らかに衰えている。力を使い果たしたのか、それとも一連の攻撃に弱り始めているのか、そんな事は重要ではない。
 叫び、開拓者達目掛けて前のめりに反撃する炎羅。
「テメェは消えろ‥‥!」
 鴉(ia0850)の周囲に浮かび上がった符がカラス型の刃となって放たれたかと思えば、虚祁 祀(ia0870)の矢が精霊の力を帯び、空を割き炎羅が眼を刺し抉る。嵐のような攻撃に吼える炎羅。圧倒的だった力が低下するに伴い、陰陽術や精霊術に対する抵抗力も、大きく崩れたように見えた。
「コレでラスト! 全火力を叩き込んでやるわ!」
 炎羅の口目掛け、葛切 カズラ(ia0725)の砕魂符が放たれる。
 炸裂する符砕魂。絶え間なく炎を吐き、並み居る開拓者達へ浴びせかける炎羅の動きからは、あるいは焦りさえ垣間見えた。
「では、やると致しますか」
 長槍を手に泥を巻き上げるシノビ。少なからず残る煉獄を避けながら、朝倉 影司(ia5385)と九重 除夜(ia0756)が地を滑り、得物を振るう。二人を含めた数名の開拓者が、一斉に足を狙った。
「人と同じ容をしているならば‥‥この一撃で足を崩す!」
 佐久間 一(ia0503)達冥土の四名も、同様に脛の筋を狙って攻撃を加える。
 炎羅は当てずっぽうの反撃を加えながらも、彼等の攻撃に姿勢を崩す。巨体はがくりと揺れ、片膝をついた。
「炎羅よ、この世から消えうせろっ!」
 長巻を大上段に構える富士峰 那須鷹(ia0795)。人と同じ形をしているのであれば、心の臓か、首を刎ねれば死す筈。だが、最後の一撃を狙って飛び出した彼女を出迎えたのは、炎羅の掌だった。
 その掌を握り潰すようにして振り下ろす炎羅。
 富士峰は、得物もろとも泥中に叩き伏せられる。
 雨はますますその激しさを増し、泥中に倒れる者も数多。彼等は血と瘴気にまみれながら、一手一手を、辛うじて繋いでゆく。それでも攻撃を繋いでゆけるのは、彼等が、並々ならぬ覚悟で戦に望んでいるからだった。
「父様、母様‥‥我が祖国の無念」
 彼女と共に泥中へ沈んだ炎羅の腕を伝い、立風 双樹(ia0891)が駆けた。
 鯉口が微かな金属音を響かせる。
「思い知れぇ――ッ!」
 白刃が奔る。
 鋭く雨に冷えた刃が、喉を裂いた。瘴気が吹き上がる中、彼は刃を返す。今一歩の生みこみが足りぬ。肉や皮は裂いたやもしれぬが、骨が絶てていない。現に、炎羅はその動きを止めていないのだ。
「今一度‥‥くっ!?」
 足場が大きく歪む。
 炎羅に爪を突き立てられ、肩に鈍い音が響く。
 宙に弾かれた双樹は、肩から先が奪い去られたのを感じた。
 ほとばしる鮮血。
 その鮮血を浴びて跳ぶ一人の影があった。腰溜めに長巻を構える、錐丸(ia2150)だ。炎羅の腕は双樹を屠る為に振るわれたばかり。最早他に手立て無く、炎羅は空気の漏れる喉元に炎を充満させる。
 炎羅の喉からは瘴気と溶けあった禍々しい炎が漏れ出る。
 全ては、今更遅い。
「見えてンぜ‥‥暗きに光りの如く、その隙が!」
 煉獄が炸裂するよりも早く、長巻が力任せに振るわれた。
 食い込む白刃。
 長巻より伝わる確かな手応え。首の裂け目、肉の狭間、炎の只中へ手を突き入れ、断ち切った。骨か筋か、それが何であったかなど知った事ではない。だがそれでも、それが最後の一線である事だけは自然と知っている。
 戦いの場に身を置く者であれば、誰もが知るそれ。死線。
「下克上だ‥‥あばよ」
 ごきり――鈍い音がして、炎羅の首が揺らぐ。
 錐丸の視界を真赤に染め、喉から溢れ出た炎は唸りをあげて爆炎と化す。まるで、炎羅の断末魔のような音を戦場一帯に響かせて、炎が渦となって地を舐める。炎の渦は炎羅の巨体を押し包み、周囲の開拓者達を煽り飛ばして霧散した。
 直後、轟音と共に瘴気の柱が天へ至った。
 暗雲を貫き、空へ昇ってゆく瘴気。
 炎羅の巨体が崩れるに従って吹き上がるどす黒い瘴気は、やがて時と共に薄れ、その全てが空へと、雲の上へと消えていった。

<担当 : 御神楽>


●戦の後
 炎羅倒れる、その報はあっというまに広がった。
 疲労困憊しているのも忘れて、伝令が行き交い、至る所で歓声が響き渡って。
 炎羅の叫びが響き渡るとともに、あっという間にアヤカシ達は森の奧へと逃げ去った。
 その後に残された開拓者達は、まるで悪い夢から覚めたかのようにお互い顔を見合わせて。
 里から聞こえる歓声と、広がる勝利の知らせはじわじわと戦いの終わりの実感に繋がっていく。
 空を仰ぎ見れば、雨雲はいつも間にか晴れていて。
 そして、里の火も徐々に収まったようで、その代わりに山々の稜線を朝日の光が照らしていた。
 このまま倒れ込んで眠ってしまいたい疲労の中、開拓者達はふらふらと歩み寄っていた。
 向かう先は、同じ戦場で肩を並べて闘った仲間たちの元だ。
 疲れや傷の痛みも忘れて仲間同士抱き合って喜び、傷薬代わりだと酒が飲み交わされて。
 ゆっくりと山々を染める朝焼けの中、開拓者達はいつまでも歓声を上げていた。
 戦いは終わった、我々が勝ったのだ。



●余幕
 里を焼いた炎は、雨に殴られ、やがて静まる。
 その雨もやがて薄れ、夜も明けて、雲は、狂ったように逃げ惑ったアヤカシ共々山の向こうへ退いた。
 後に残されるのは一面の焼け野原、積みあがった瓦礫の山。
 それは、戦の跡だ。
「雑魚は‥‥逃げたか‥‥」
 炎羅軍の残党がいないかと、羅轟(ia1687)が辺りを見回す。
 彼等の多くは疲労の色も濃く、朝日と共に野営地で眠りこけている。一方、戦が終わってからも特別忙しい様子なのが、巫女や陰陽師達。巫女達は負傷者の手当てに、陰陽師、中でも五行軍が目的とするのは戦跡での情報収集だった。
 中でも緋赤らのような比較的元気な者、あるいは五行に縁故のある開拓者達は、彼等五行の軍に駆り出され、言われるままに瓦礫を引っ繰り返している。
 無論その一方では、自ら望んで調査にあたる開拓者の姿もあり――
「アレだけの力を持つ炎羅が死んだら、何が残るんだろう?」
「さぁ、どうでござろう。いち陰陽師としては興味津々でござるが‥‥」
 赤マント(ia3521)の言葉に答えながら、大アヤカシ、炎羅の撃破地点に立つ四方山 連徳(ia1719)。最後に炎の渦を生み出して、炎羅は、瘴気と共に天へ四散した。里の只中であれば、辺り一帯は無数の瓦礫や倒木によって覆い尽くされていた。
「それより戦利品を期待でござるよ!」
 瓦礫を持ち上げる四方山。
 赤マントが駆け寄って、共に、その土壁をひっくり返した。鈍い音と共に砕ける土壁。煤と炭の只中に、焼け残った何かがあった。
「これって‥‥」
 ひっくり返した瓦礫の下に見た、異形の物体。
「‥‥指、でござるか?」
 思わず口にする。
 そこに在ったのは、確かに指だった。
 そう、外見だけであれば。
 その指は、全長四メートルにも達しようかという、巨大な指だった。
「どうしました。何か見つけ――」
 隣より顔を出した葛城 深墨(ia0422)も、驚いた表情で足を止めた。一瞬、眼の錯覚かとすら思う。もちろん、錯覚や幻の類ではない。意識ははっきりしているし、現実派現実だ。
 巨大な指をつんとつつく赤マント。
「炎羅って‥‥指のお化け?」
「いや。まさか‥‥」
 彼女の問いに、葛城は、言葉を濁す事しかできなかった。
<担当 : 雪端為成・御神楽>


●負傷者一覧

●重体者
(能力が著しく減退しているので注意のこと)
鳴海 大我(ia0356
相川・勝一(ia0675
張 林香(ia2039
 鈴 (ia2835
水穂 巴(ia8101
立風 双樹(ia0891
鬼島貫徹(ia0694
富士峰 那須鷹(ia0795
八十神 蔵人(ia1422
喜屋武(ia2651
柄土 仁一郎(ia0058


●負傷者
(生命力・練力・気力が減少しているので回復を勧める)
グラスト=ガーランド(ia1109
小鳥遊 郭之丞(ia5560
焦愁 白寧(ia6369
菘(ia3918
フェルル=グライフ(ia4572
紅鶸(ia0006
仮染 勇輝(ia0016
緋桜丸(ia0026
柚月(ia0063
榊原・信也(ia0075
六条 雪巳(ia0179
鷹峰 瀞藍(ia0201
犬神・彼方(ia0218
静雪 蒼(ia0219
紫夾院 麗羽(ia0290
朧楼月 天忌(ia0291
小伝良 虎太郎(ia0375
氏池 鳩子(ia0641
礼文島・無頼斎(ia0773
佐上 久野都(ia0826
蒼詠(ia0827
玉櫛・静音(ia0872
鳳・月夜(ia0919
鳳・陽媛(ia0920
御剣・蓮(ia0928
玉櫛 狭霧(ia0932
秋姫 神楽(ia0940
虚空(ia0945
一ノ瀬・紅竜(ia1011
琉央(ia1012
静雪・奏(ia1042
九鬼 羅門(ia1240
大蔵南洋(ia1246
のばら(ia1380
七神蒼牙(ia1430
吉田伊也(ia2045
九竜・鋼介(ia2192
劉 厳靖(ia2423
ルオウ(ia2445
来宮 カムル(ia2783
一ノ瀬綾波(ia2819
椿 幻之条(ia3498
空音(ia3513
エリナ(ia3853
橘 楓子(ia4243
仇湖・魚慈(ia4810
咲音(ia5022
安達 圭介(ia5082
神去(ia5295
一匁 花(ia5301
黎阿(ia5303
海神・閃(ia5305
藤(ia5336
紫姫(ia5342
すぐり(ia5374 オルフェ・ベルマン(ia5466
此花 あやめ(ia5552
好危 辰(ia5556
風鳥(ia5575
早乙女梓馬(ia5627
Lynx(ia5640
魁(ia6129
ブラッディ・D(ia6200
火那(ia6274
フレイ(ia6688
朔弥(ia7211
赤村菜美(ia7261
キルグリーシャ(ia7343
結希(ia7562
なりな(ia7729
村田安曇(ia7910
弓削 鞆絵(ia8018
待威 影輝(ia8119
錐丸(ia2150
皇 りょう(ia1673
氷海 威(ia1004
佐久間 一(ia0503
那木 照日(ia0623
相馬 玄蕃助(ia0925
鬼灯 仄(ia1257
赤マント(ia3521
安宅 聖(ia5020
琴蕗 瑠佳(ia5388
葉隠・響(ia5800
音有・兵真(ia0221
南風原 薫(ia0258
鷲尾天斗(ia0371
虚祁 祀(ia0870
尾鷲 アスマ(ia0892
焔 龍牙(ia0904
天雲 結月(ia1000
柊・忍(ia1197
衛島 雫(ia1241
乃木亜(ia1245
滝月 玲(ia1409
ジンベエ(ia3656
朝倉 影司(ia5385
隠神(ia5645
方月・一樹(ia6567
まひる(ia0282
二階堂 斬鬼(ia0915
霧葉紫蓮(ia0982
暁 露蝶(ia1020
北里 巴(ia1190
時任 一真(ia1316
蛇丸(ia2533
神無月 渚(ia3020
佐竹 利実(ia4177
直助(ia5157
風雷(ia5339
コルテーゼ(ia7930
柏木 万騎(ia1100
御堂 茉莉亜(ia0804
武部雪麿(ia0187
然(ia4697
雷華 愛弓(ia1901
紅虎(ia3387
佐伯 柚李葉(ia0859
螢(ia6667
闘破 獅子王丸(ia5880
都騎(ia3068
川那辺 由愛(ia0068
琴月・志乃(ia3253


(監修:クラウドゲームス、音無奏)


ページ上
神楽の都-拠点-開拓者ギルド-万商店-広場-修練場-図書館-御前試合--鍛冶-記録所-遺跡-瓦版
開拓者が集う都です。
交流掲示板です。
ストーリーに参加できます。
アイテムを購入できます。
イベントを紹介しています。
キャラクターを鍛えます。
舵天照のデータ・歴史を確認できます。
武闘大会に参加できます。
相棒の設定を変更できます。
アイテムを鍛えます。
瓦版を見ます。
初心者ページに飛びます。
イラストを購入できます。
ミッションに参加できます。