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【血叛】それを継ぐ者

■もくじ

オープニング1(6月7日)
オープニング2(6月25日)
オープニング3(6月26日)
オープニング4(7月9日)
オープニング5(7月12日)
オープニング6(7月23日)


【血叛】それを継ぐ者
■詳細な経緯(これまでのOP)

オープニング1(6月7日)

●陰殻
 彼らは餓えていた。
 山岳に囲まれ、平らな可耕作地は狭く、冷害に見舞われること度々であった。何故、このような土地に住み着いたのかは解らない。しかし彼らは現にここに生まれ、生きてきたのだ。生きていくには、食わねばならぬ。狭苦しい段々畑を気狂いのように拓き、耕した。それでも餓えたのである。
 やがて彼らは人を――いや、技を売るようになった。
 シノビの誕生である。
 彼らシノビは、本質的に傭兵であった。それも、極めて質の高い傭兵である。汚れ仕事を担い、決して逆らわず、唯々諾々とその心身を捧げて仕えた。
 悪名も名声のうちであろう。
 侮蔑交じりの名声であろうと、それこそが陰殻の生活を支えたのである。
 故に「抜け」は禁じられた。曰く、抜け忍は同胞を捨て自らのみが富貴を得んとせし者であり――その他陰殻におけるあらゆる「掟」は陰殻を生かす為のものであった。陰殻は掟に拠って立つ国であるのだ。
 そうした掟の中にひとつ、まるで掟とも呼べぬような掟があった。
 慕容王を殺しえた者が慕容の位を継承する、と。


●血叛
 力こそが正統の証であった。
 掟が全てを支配するこの世界において、その事は、ある種相反する存在であった。無制限の暴力の只中に、慕容王ただひとりだけが、その力に拠って立っている。
 狐の面をした人影が、蝋燭の炎に照らされた。
 卍衆――慕容の子飼いたる側近集団に、名実ともに王の右腕と目されるシノビがいる。黒狐の神威。名を、風魔弾正と言った。本名は解らぬ。尤も、卍衆について言えば、弾正に限ったことではないのだが。
「慕容王は死ぬ」
 弾正が呟いた言葉に、眉を持ち上げる者がいた。
「何が言いたい」
「『叛』」
 面の奥に潜む表情はようとして知れぬ。冷め切った態度と共に吐き出されたその言葉が持つその意味を、知らぬ者などいようはずもない。それは、陰殻国の成立より遥か以前から受け継がれてきたもの。叛――慕容王を、殺す。


●報
 白刃がきらめいた。
 暗闇の中に小さく火花が散る。
 苦無が、簪と絡み床へ突き刺さる。
「挨拶がなっておらぬ。おぬしの悪いところよのう」
 妖艶な笑みを浮かべるその者は、慕容王。年齢も本名も、それどころかその真の姿すら知る者は少ないという。この、妙齢の女性の姿とて本当の姿ではない、本当は可愛らしい少女であるとも、山のような大男であるとも、無責任な噂ばかりが雪だまのように膨らんでいるのだ。
 彼女は床に落ちた簪を拾い上げ、暗闇の深い方角へついと眼を向ける。
「ご注進……」
 ぬうっと、青白い顔が浮かんだ。
 死人か病人を思わせるほどに青白い肌に細長い髭が垂れるその顔は、まるで病を得た沼魚のようであった。
 彼の厚ぼったいまぶたの下で、眼がきょろりと回る。
「風魔弾正、叛――」
「……」
 慕容王ははじめ、意外そうな表情で首を傾げた。
 そうしておいてから、まじまじと懐かしむような、どこか自嘲気味な色を浮かべさえして笑った。
「フ、フフフ……そうか、あの弾正が叛をな……フフ……」
 それで、と彼女は向き直る。
「おぬしは如何するのか?」
「これまで通りに」
 なるほど『これまで通りに命を狙う』ならば、風魔弾正に与する気はないというのだろう。慕容王は手を小さく払った。
「そうか、与せぬか……ま、好きにせよ」
 卍衆とは元々そういうものである。「慕容王に対するあらゆる自由」を保障されているのだ。すなわち、慕容王の下から去ることも自由ならば、命を狙おうが、忠誠を誓おうが、全ては本人の意思次第。
 慕容王はそう言って彼ら卍衆を編成したのだ。
 風魔弾正が叛を起こそうが、何を咎められようか。それも、元より慕容王に対する叛であるのだから。

(執筆:御神楽)

オープニング2(6月25日)

●策動

 東房国の魔の森の奥深く、瘴気の漂うその中に、美貌の青年がその身を起こした。
「風魔弾正が動いたかぁ」
 名を天荒黒蝕と言う、天狗アヤカシである。天狗アヤカシは、鬼アヤカシの大分類に含まれる一種であり、上意下達の組織を持つ。これはその他のアヤカシのように、上位者が下の者に対して絶対的な命令権をもつ、というだけではない。
 命令系統が明快であり、上がその気になりさえすればその意向が末端までよく伝わることを意味する。
 もっとも、当の天荒黒蝕は享楽的で大雑把な指示しか出す様子は無いのであるが。
「弾正の見積もりはわかるかい?」
「解りませぬ」
 物見と思しき烏天狗は小さくこうべを垂れる。
「……勝てる、と見込んだ理由があるはずだ。彼我の実力が慕容王を越えた、という判断じゃないだろうね、これは。機運が舞い込んだ……そういう動き方だよ。慕容王の身辺に、何か変事はあったかな」
「申し訳ございませぬ。慕容王が身辺、まこと密にして探ること容易ならず。既に熟練の密偵を十数は失いてございます」
「ふうん……ま、いいか」
 黒蝕は、口元に手をあてて大きなあくびをひとつして。
「今は弾正に加担してやるんだ。まだ、慕容王のほうが優勢そうだからね」
「ハッ」
 烏天狗の返事に頷く黒蝕。
「それじゃ、僕たちは僕たちでことを進めよう。魍魎丸にも手筈を整えてやってよ。菊羅玲比女にもだ。万紅は一度こちらへ顔を出すように伝えておいてね」
 その口元が、にいと釣り上がった。
「さ、楽しくなるよ」


●墓参り

 いつらめさま――という祭神がある。
 一人のがっしりとした体つきの男性が、二名ほどの供を連れ、陰殻国北に位置するいつらめ神社を参拝していた。男性の前に立つ宮司が、祈りと儀式をひととおり済ませると、冷や汗を額に浮かべて振り返る。
「こうしていると、やはり、震えが止まりません。いつか、あの封を破ってお出ましあそばされるのではないかと……ハハ、相も変わらず、日夜うなされております」
「心労を掛ける」
 男は小さく頷き、笑みをこぼした。
「……私の身辺が探られている」
「弾正ですか」
「いや、アヤカシの類だ」
「となりますと、まさか」
「ありえぬ話ではない」
 宮司の顔が強張った。
「いつらめさまが在る以上、そう簡単に手出しをできよう筈もないが……気をつけろ。叛に乗じて何か仕掛けてこぬとも限らん。手練れを手配する。それで警戒をやりくりしてくれ」
 男の眼光がきらりと光った。
「もっとも。真の狙いは別のところにあるかもしれんし、あるいは、俺の首を刈ろうと、ただそれだけの単純な話かもしれんがな」
 宮司は小さく首を振る。
「弾正めは、何ゆえ……」
 言いかけた宮司の口元に、男の指が当てられた。
「言わずともいいでしょう」
 野太かった男の声が、女性のそれと化している。
「これは叛。問うだけ無粋というもの。私がやったことを、弾正もまたなぞっているのですよ。そうでしょう?」


●戦

 弾正の狐面が、蝋燭の明かりに照らされて浮かび上がった。
「集まったな」
 面の奥から、くぐもった声が聞こえる。
 その声に、居並ぶ者たちがちらと目を向けた。
 弾正ら『叛』を起こした血盟にとってその目論むところは、慕容王を討つことである。慕容王を討った者に、慕容王の名は継承される。故に、その戦いは敵の戦力を全滅させることでも、その領土を奪うことでもない。慕容を如何に討つか。ただ一点のみにして、必然的に、慕容王を討ちえる実力者へいかに対するかの駆け引きとなる。
 この中には、元々慕容王を狙っていた者もいれば、自らが討つことを考えずとも、旗色良しと見て叛に加わった者もいる。
 あるいは弾正を出し抜いて慕容王を討たんと心に秘めたる者もいたが、今は同志。足並みを揃えねば勝てる戦いも勝てなくなると、野心を捨て、覆い隠してここに座っているのだ。
「では、はじめる」
 弾正がつぶやくと、傍らに控えていたシノビが紙の束を取り出した。
 そこには、卍衆をはじめとするシノビらの名が、幾つかに別けて書き連ねられている。
「百銭坊は敵方……ま、当然よな」
「風車のは不明ねえ」
「驚いたな。地奔のは死んだと聞いていたが」
 そこに記された名を読み上げつつ、そこかしこに驚き、疑問、納得の声があがる。それらが一通り治まった頃を見計らい、弾正が首を持ち上げた。
「慕容王も、そろそろ動き始めるころだろう。先手を打つなり、後の先を取るなり、好きにしろ。委細にまで口は出さん……貴様らも、そのほうが動きやすかろう」
 当然だ、といった様子で頷く影。では――弾正が呟くや、その姿が煙のように掻き消えた。
 シノビらの宴が、始まる。

(執筆:御神楽)

オープニング3(6月26日)

●鬼と仏

 霧雨丸をはじめとして、風魔弾正ら主だったシノビの多くが出払った御堂の奥で、若干名のシノビが残って囲炉裏を囲んでいた。
「よく生きていたな、地奔の」
 蛇蝎佐助の声に、地奔十兵衛は小さく首を振った。
「好きで生き返ったんじゃありませんよ」
 十兵衛の声に覇気はない。彼は溜息交じりに、煙管の煙を吐いた。手元の忍足帖をめくり、順繰りにしるしを書き入れている。担当の選抜をやっているのだろう。中には、開拓者と思しき者もいる。
「……しかし意外なことだ。お前が生きていたのもそうだが、生きていたとて今更叛に関与するのもそうだし、弾正に合力したこともな。お前なら慕容王に付きそうなものと思ったたが。教えろよ、いったいどういう風の吹き回しだ?」
 佐助の問いに、十兵衛は手を止めた。思案のうちに、ちらと、腰に下げた小さなお守り袋へ目をやる。
「何だっていいじゃあありませんか」
 彼は無精ひげを書きつつ、温厚そうな口元を曲げた。
「そういうあなたは?」
「ふ。博打よ」
「博打……ですか」
「そうさ」
 彼は懐から取り出したサイコロを、ぽいと転がした。 「伸るか反るか。半か丁か。王か弾正か。どちらが有利不利って話じゃねえ。博打さ。どうも弾正についたら、面白そうだ。勝っても何でもな」
 顔の右半分、縦一文字に走った顔の傷を歪ませて、佐助はからからと笑った。彼は傍らの酒を引っつかむと、ずかずかと御堂の外へと歩いていく。己の任は各地での撹乱工作だ。配下に集めた者たちは、所詮は金で集めた流れ者。尻を叩かねば働かぬ。せいぜい、派手に目くらましをやってもらわねば。
「……」
 佐助を見送って、十兵衛は首を振った。自分も、いい加減調略に取り掛からねばならない。狙うは、風車権六をはじめ、去就不明な有力者らの助力である。


●僧と腕

「私は、元々叛そのものが好かない」
 百銭坊の言葉に、塵屑は驚いた様子で目を向けた。
「しかしそれが掟でないかい。アンタのような堅物からそんな言葉を聞くとはね」
「そうではない」
 首を振る百銭坊。
「掟には従う。当然ぞ」
 髪が伸び始めた坊主頭を撫で付けながら、百銭坊はなおも言葉を続ける。
「だが、掟に従うかどうかと、それを好くか好かぬかは全く別のこと。私は好かん。時代が変わりつつあるのだ……以前の、犬神の里の一件を覚えているか。あの一件には、つくづく時代の移ろいというものを感じさせられた」
 坊主め。塵屑が呟く。
「秩序なくば人は生きていけぬ、が。人は時代と共に生くるものである。慕容伝説のことはじめより長きの時を経てきた掟だ。慕容伝説とてそうであろう、お主は疑問を抱いたことはないか」
「ふん」
 塵屑が鼻で笑った。
「そんなことを考えるのは、叛が終わってからにしな。私は、私の腕を切り落とした奴に、そうころりと死なれちゃたまらないんだよ」
「……業だな」
 百銭坊が首を振るや、塵屑は、あきれ返ったように溜息をついた。まったく、説教を垂れるにも若くて有り難味が薄く、その割には何とまあかび臭い男か――禅問答をやるのはちっとも性に合わないとばかり、塵屑は転がるように立ち上がり、天井へ向けて飛ぶ。そしてそれっきり、挨拶もないまま姿を消した。


●小さなこと

 瞳を輝かせる金髪の少年を前に、旋風立春は面倒くさそうに足を投げ出した。
「おめェさんよォ、いくらァ卍衆に加わってから日が浅いったってェ、叛のはの字から説明ェしなきゃならねェのかい?」
「はい!」
「……」
 全長五十センチはあろうかという煙管を咥え、立春が紫煙をくゆらせる。女に酌をさせる立春の傍らには、身の丈を越える大鎌が立てかけられていた。対する自称服部半蔵は、伝統的過ぎるほど伝統的な黒装束に身を固め、子犬のような顔で立春をじっと見つめていた。
「旋風殿。ぜひ教えてほしいでゴザル。叛とは何でゴザル?」
「いいからおめェ、暫くは何ァどう誘われよォが、全部断ァっとけ。悪ィこた言わねェからよゥ」
 これはどうも、まるで愚図だ――立春はそう断じた。腕が立つことは解ったが、こんな手合いがシノビの世界で生きていけるようには思えない。野良のまま放っておくよりは、なるほど卍衆ならば慕容王の庇護下にもなろうが、その卍衆も今や分裂して叛のまっ最中なのだ。
「なァんにも知らねェンだもんなァ、いってェおめェ、卍衆に加わってから毎日何してやがったんでェ」
「忍術の修行にゴザル!」
 掌で顔を覆って、立春は、思わず女の膝に沈んだ。
「馬ァ鹿おめェ馬鹿野郎ォ俺ァやだよもゥ!」


 百済朱膳より連絡――部下の報告に、弾正は首を傾げた。
「漣四郎が討たれたか」
「……柳生有希、いったい何なのです?」
 霧雨丸が不愉快そうに眉を寄せた。
 今でこそ浪志組などに籍を置くが、下はといえば、腕が立つとは聞いていも、しょせんは名張を抜けた下忍に過ぎぬというではないか。同じ浪志組ならば、服部などのほうがよほど名が知られているし、開拓者なら阿尾のようなシノビもいる。
 何故、今わざわざ有希に刺客を差し向けるのか、と。
「不満か」
「……」
「死んでいてくれるほうが、万事都合の良い者もいるということだ」
 感情の篭らぬ、くぐもった声が面の奥より響いた。

(執筆:御神楽)

オープニング4(7月9日)

●進展

 アヤカシの動きを探る報告に、翠嵐は首を傾げた。
「では、アヤカシは神社などを主要な攻撃目標にはしていないのでしょうか」
「おそらくはそういう事かのう」
 大伴定家が思案げに腕を組み、目を閉じる。
 各地のアヤカシ出現状況を取りまとめ、その動きを推し量ると共に、慎重な追跡の末に、開拓者たちはアヤカシの会話をもたらした。現在、いつらめ様を祀る神社に直接攻撃を仕掛けてくる様子は無く、その偵察を密にしているに過ぎない。
 だが。
「問題はアヤカシが、天荒黒蝕が何を狙っておるかじゃ」
「これまでに起こった叛でも、アヤカシは度々介入してきたのですよね?」
「うむ」
 隙を見せれば襲い掛かるのはアヤカシのさがとも言ってよいだろう。
 アヤカシは叛の都度陰殻に介入し、その混乱に拍車を掛けてきた。そういった意味では今回のアヤカシの動きもまた、それで説明がつくのであるが。
「ふうむ。しかし妙じゃな」
 それだけにしては、アヤカシの動きが統一された意志の下にあるように思えるのである。
 彼らは何かを狙っている。当初は護大という明白な目標を狙っているのではないか、と思えたが、おそらく違う。
「彼らの狙いは一体……」
「引き続き調査が必要かもしれぬのう」
 天荒黒蝕は、叛に乗じた手札をもう一枚手元に抱えているらしかった。
 大伴翁は開拓者たちの苦労を思い浮かべてか、孫を想うような表情でやれやれと首を振った。閉鎖的な陰殻人相手の諜報活動だけでも骨が折れるだろうに、アヤカシ相手となれば一段と厄介だ。
 しかし、やらねばならぬ。
 アヤカシの手札を見切るほか、ない。

●提案

 風魔弾正の言葉に、開拓者たちは息を呑んだ。
「この国を変えたいと言うのなら、私に協力しておけ」
 まさか、この弾正からそんな言葉を聴こうとは。にわかには信じられず、開拓者たちを味方に引きこむための虚言でないかとすら思えてしまう。
 顔を見合わせる開拓者たち。
 その様子を見て取ってか、風魔弾正は狐面を傾げた。
「国を改めることが理に適う、というのならば、そうする。信じられんというのなら、それでもいいが」
 変わらぬ冷たい声が、面より漏れる。
「尤も……それも、慕容王を討ち、私が慕容の名を継いでからのことだがな」
「どうしてもやりたいの?」
 叢雲怜(ib5488)が弾正と同じような角度に首を傾げる。
「言っただろう。私の手には力だけがあると。その力がどういった類のものであるか、私は知ったのだ。私は、私が私であることの意味を、この力の意味を、示す。どんな道であれ、だ。道は、歩いてみなければどこに往きつくか解らない。そうだろう?」

(執筆:御神楽)

オープニング5(7月12日)

●情勢
 盤面が動き始めた。
 先鋒同士の戦いは弾正ら血盟が一手先んじた、と言って良いだろう。王側の塵屑は手傷を負って退いたが、血盟の霧雨丸は未だ健在である。
「不覚をとりました……」
 激痛を押して慕容王の前に現れた塵屑は、それだけ告げると倒れ伏した。
 戦列に戻れるとしても、今すぐには無理だろう。慕容王は塵屑には無理にでも療養させて動かさぬよう部下らに指示し、開拓者らに向き直った。
「佐助の動きは、これが本格化する前に阻止してくださったとのこと。感謝します」
「ああいう手合いが気に入らないだけだ」
 開拓者が小さく首を振る。
 蛇蝎佐助自身は取り逃したが、元よりその手勢は有象無象の捨て駒ばかり。これらの多くは開拓者たちの手で討たれ、残った者たちも散り散りとなって退散したと見られている。
 一方。
「風車権六とは接触できなかった」
 小屋まで出向いた開拓者たちが告げる。
「争った形跡がある。どうも、何かあったと見たほうがいい」
「……ふむ」
 慕容王は暫し考え込んでいたが、やがて小さく首を振る。
「解りました。記憶に留めておきましょう。それで、他の者は?」
 旋風立春は、部下のうち使い者になる者たちを選んだ上で、アヤカシの動きに備えて開拓者たちへの助力を確約した。この点、服部半蔵もまた、まだ確約こそしていないがその心は大分傾いている筈だ。
 この暑い中、着ぐるみを着たまま森の中修行に励んでいる様子だが。
「アヤカシ対策に動いてくれますか。構いません、弾正も無碍にはしないでしょう」
 一通りの報告に頷く慕容王。
 そうして、報告は終わりと見て立ち上がろうとしたところに、数人、新あらたに開拓者たちが姿を現した。志藤久遠(ia0597)ら、卍衆の諜報を担っていた鵺々の所在を追っていた者たちだった。足を止め、向き直る慕容王。
「慕容王。ひとつ、答えてくれるか――」


●証言
 時はやや遡る。
「それは、どういう意味だ」
 開拓者の詰問に、鵺々は小さく首を振った。
「そのままの意味さ。慕容王には死期が迫っている。死病でも抱えているのか、それとも他の理由か、そこまでは解らないけどね」
「……」
 開拓者たちはまさか、といった表情でお互いに顔を見合わせる。が、鵺々がいい加減なことを言っているようには思えぬし、最初からここまで一貫して演技だった、というようなことでもなければ、そんな嘘をつく理由が見当たらぬ。
「慕容王が自然死したらどうなるんだ?」
「どうって……王位かい?」
 問いかけた開拓者が頷く。
「さあ、知らないな。これまで、そんなことは無かったから」
 慕容王はすべからく討たれてきた。天寿を全うした慕容王などいなかったということか――鵺々は小さく頷き、開拓者たちは愕然とする。
「他に何か、慕容王のことでわかることはあるか?」
「……ん」
 彼はやや考え込み、口元に手を当てる。
「悪いけど、自分は彼女を連れて『抜ける』つもりなんだ。君たちには恩があるが、ここまでにさせてはくれないか。あまり洗いざらい話したりして、虎の尾を踏むようなことをしたくない」


「……事実ですよ」
 開拓者の問いに、慕容王はけろりと笑った。
 もはや隠し通すことを無理と悟ったか、あるいは既に隠し通す必要無しと見たのか。慕容王は、ゆっくりと腰を下ろすと、開拓者らをじっと見つめ、額に指を添えた。ぐにゃりと周囲の空気が歪んだかと思えば、そこには小柄な少年と思しき人物が座っていた。
 サイズの合わなくなった着物が肩に掛かり、手は袖の中にすっぽりと隠れてしまう。着物から覗く肌はどこも傷だらけで、冷たい炎を宿したかのような目をしていた。
「そしてこれが、おそらくは、私の元の姿」
「おそらく?」
「人間、本来なら、十年経てば姿も変わるもの」
 口端を持ち上げ、慕容王は体の変化で崩れた服を調えた。
「お望みなら先の姿でも、ここにいる誰かとまるで同じにでもなれる。私の姿になんか意味はない、が、私のことを話すんだ。元の姿に近いほうがいいだろう……」
 さてと。小さく咳払いをして、顔を上げる。
「鵺々が言ったことは嘘じゃない。確かに、私の身体はもう限界だ。志体を得るために、シノビの道を極めるために、無茶な修行をし過ぎた。養生したところで、まあ、あと二、三年といったところだ」
「まさか」
 御座 鶴姫(ic0169)が呟く。信じられない、といった様子のその言葉に、慕容王は意地の悪そうな笑みを返した。
「自分の身体のことだ。自分が一番よく解っている。術も技も衰えが著しい。陰殻最強のシノビの名なんて、とっくに怪しいものになっている」
「それじゃあ、弱くなったから、弾正に叛かれたのか?」
「さて……」
 おかしそうに、目を細める慕容王。
「あるいは、私がまだ強いうちに、か。あれは、そういう可愛らしいところがあるから」


●天秤
 天荒黒蝕は、山岳の頂から陰殻の地を見下ろした。
 周囲には大量の烏が並び、同じように地を見下ろすようであった。
「万紅さまは退却されたようです」
 背後に控えた烏天狗が告げる。
「んー……そろそろ天秤が傾いたかなぁ」
 その報告を聞きながら、天荒黒蝕は、大きな岩に腰掛けて空を仰いだ。
「よし。次は弾正方を攻めよう。風魔弾正と慕容王は、どっちも引きずり出さないとはじまらないのだし、頃合だね……それと、奴はどうしてる?」
 ひょいと首をもたげた彼の口元が、おかしそうに歯を見せている。ただ瞳だけが、笑みもなく静かに、何かを見据えていた。
「……ハ、既に、記憶と能力は手の内に。支障なしと連絡がございました」
「よろしい。よろしい」
 おどけた様子で頷く。
「それじゃ、全部まとめて僕らがいただこう。うんうん」
 天荒黒蝕が手を振ると、烏天狗は地を蹴り空へ舞い上がる。
 烏がぎゃあぎゃあと騒ぎ立てる。山を駆け上った一陣の風が砂埃を巻き上げ、慌てた烏たちが一斉に飛び立った。
「精々派手に、華を添えてあげようか」


(執筆:御神楽)

オープニング6(7月23日)

●後の先
「よく来たな、蛇蝎佐助を討ってくれたと聞いたが」
「あぁ」
 慕容王の問いに、風車権六は小さく頷いた。
 同席していた開拓者たちは息を呑んだ。深く刻まれた皺に凄みがある。中には名張猿幽斎を見たことがある者もいるかもしれないが、同じ老練のシノビでも、猿幽斎とは全く逆の人物なのだろう。
 その性は柔和さとは懸け離れた、剥き身の刃のように鋭いものである。戦さ働きや暗殺任務を得意とするシノビであった、という慕容王の紹介にも頷ける。
「首は?」
 誰かが問うた。
「そんなものが必要か?」
「もっともだ」
 慕容王が首を傾げた。
「……今までどこにおった」
「天荒黒蝕の狙いは、封じられし護大だ」
 開拓者たちが顔を向ける。
「ほう」
「俺が言えるのはそれだけだ。深手を負って、それ以上は追えんかった」
 権六が立ち上がり、踵を返す。
「俺は迎撃に当たる。それでよいな?」
「構わん」
 ずかずかと歩きながらも、鶯張りにすら足音を立てず、彼は屋敷を去った。
 やがて。
「風車権六は討て」
 慕容王が呟いた。
「やはりおかしかったか?」
 開拓者らの問いに、慕容王は首をかしげ、否やと返す。
「大したものだ。傍目からは全く解らない。が、集めてくれた状況や証拠を考えるに、奴は、既にアヤカシにでもなったかどうか、手駒と見るべきだろうな。護大を狙っているというのも……ま、いい。嘘か真か、解ったものではない」
「……その事を、向こうはまだ知らない筈だな?」
「今ならまだ、先手を取れるか」
 開拓者たちが頷きあう。慕容王は立ち上がって、小さく笑った。
「だが気をつけろ。天荒黒蝕は何は聡い。こちらの策をいつ気付かれるとも知れない。何より、権六は卍衆でも一、二を争う手練れだった。一筋縄では行くまい」


●夜に舞う
 万紅が頭をたれるその背後には、数多くの天狗たちが整然と並んでいる。
「気楽にしてくれ」
 天荒黒蝕がにっと笑い、肩をすくめた。
「各地の部隊は、もう配置についたかな?」
 その問いに、数名の黒鋼天狗が進み出、予定通りであると答えた。天荒黒蝕は小さく頷くと、万紅へと笑いかける。
「はいらいと、という奴かな。せいぜい引っ掻き回してやってね」
「いよいよ……!」
 万紅が拳を掌に打ち付ける。
 彼はゆっくりと背後の天狗軍団に向き直る。
「東西南北の陣に触れを発しろ! 我らも動くぞ!」
「ハ!」
 号令と共に、先ほどの黒鋼天狗が四方に飛ぶ。万紅は続けて、腕を掲げて号令を発した
「神社方面へ斥候を放て。精々派手にな……さすれば、奴等開拓者は必ず動く!」
 狼天狗数体が応と頷き、駆け出した。
 天荒黒蝕は次々と指示を飛ばす万紅の後ろで空を見上げ、まんまるい月を覗き込んだ。その瞳が細められ、吊りあがった口元が凄惨な色を帯びる。
「それじゃ、夜の散歩と洒落込もうか」


●決戦の時
 虫に食われ風雨にさらされ、既に大きく傾いた社の中に、人の気配はなかった。
 もっとも――
「悪いな、邪魔するぞ」
 慕容王の声に驚いて、社の床下から黒狐が逃げ出した。一目散に駆け出して、林の奥へと消えていく。柳生神社――放棄された里の只中に、ぽつりと残された廃社である。既に放棄されて十年近くが経ち、この神社はもちろん、里に残った十数棟も荒れ放題に任されている。
 彼女はどかっと軒先に腰を下ろすと、腰の竹筒から水を煽った。
 慕容王は戦装束に着替えており、姿は彼女の言う「元の姿」のままである。
「しかし酷い荒れようだな」
「だから、被害も何も気にする必要はないぞ」
 慕容王が笑った。
「叛か」
 盛者必衰。因果応報。誰かが呟く。
「……決着を付けるんですか?」
「そうだ。弾正が……いや、弾正に限らないか、ここに辿り着く者なら。私はシノビの王、慕容王だ。慕容は、誰の挑戦でも受ける」
 笑った慕容王の瞳が、ぎらりと輝いた。
「私はここで、私を討ちにくる者を待つ」


 ならば、どう収めるを有益と見るのか――
「叛は、ただ叛であるのみ」
 弾正はそう告げ、面に手を掛けた。ゆっくりと面を外し、床に置く。
「故に、益を求めて起こされるものではない」
 その下から、焼け爛れた半面が顔を見せた。
「だから私は、慕容王を討つ。叛のことも陰殻のことも、討って後に幾らでも考えればいい。それくらいの時間はあるだろう」
「それは……」
「私の前には常に山があった」
「山、だって?」
「そうだ、頂の見えない山、乗り越えるべき何か。その山をひたすら昇り続けてきた。進むべき道は、山頂に付けばやがて見えてくるだろうから」
 開拓者たちはぐっと息を呑んだ。
 しんと場が静まる。
「だが、それは私の倫理だ。おまえたちが従わねばならぬ法ではない。合力するなら良し、妨げるも良し、互いに競い合ってもいいだろう。だから、私が問うのはひとつだけだ。おまえたちは、何の為に力を得て、その力で、どんな道を拓こうとしている?」

(執筆:御神楽)




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