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【殲魔】滅星の階

オープニング1(5月12日公開)
オープニング2(6月3日公開)
オープニング3(6月4日公開)
オープニング4(6月18日公開)
オープニング5(7月2日公開)


■詳細な経緯(これまでのOP)
●第一次山喰討伐作戦

それは予告なしに始まった。
いや、ただ人が気付かなかっただけかもしれない。
冥越に隣接する村に突如現れたというアヤカシの影――。
見慣れた筈のそれは、しかし村の家畜を食い荒らす程だったと言う。

そして夜半に始まったその襲撃に気付いて、逃げ出せた者は少ない。家畜の悲鳴が一瞬だったからだ。
異変を察知した時にはその敵がもう家に近付いていたと言う。

「お願いします! あの化け物を倒して下さい!」

一夜にして半数も満たない数になってしまった小さな村の生存者達。
目の前でアヤカシに大事な人を攫われた者もいる。立ち向かい命を落とした者もいる。
それぞれがそれぞれの想いを抱いて、拳を握り涙を見せまいとし歯を食い縛る。

「敵の様相は?」

ギルド職員が問う。

「蟻です。巨大な蟻……人を呑み込めるくらいの」

「え…」

その報告に職員ははっとした。
蟻と言えば思い当たる節がない訳ではない。

(「急がなければ……」)

攫われただけなら、まだ生存者もいるかもしれない。
それに場所が冥越付近となれば、

(「蟻のアヤカシ…
 まさかとは思うが活発化している今なら有り得ない事じゃない」)

そこで早急に開拓者が集められ、調査隊が組まれるのだった。


(執筆:奈華綾里)

●決断

 その日、神楽の都にある開拓者ギルドの本部には、大伴定家をはじめとするギルドの重鎮らが勢揃いしていた。
 上座に座る大伴定家の言葉に、誰もが耳を傾けていた。春の穏やかな日和の中、ギルドのその一室だけがぴんと緊張に空気を張り詰める。話し終えた大伴の二の句を継いで、一人のギルド長が声を上げた。
「護大を破壊すると……そう仰られましたか!?」
「いかにも」
 しんと静まり返った部屋に、大伴のしわがれた声が続く。
「三種の神器を、知っておるかの」
 ギルド長であれば知らぬものはない。朝廷が保有している、神よの時代より伝わる三つの道具のことだ。それぞれに、名を、八尺瓊勾玉、八咫鏡、そして天叢雲剣と言う。これらは、公には朝廷の所有であった筈だが、いずれも、実のところ朝廷の手元に存在していなかったらしく、新たな儀を拓くに従って回収されてきた。
 朝廷の説明によれば、この三種の神器を揃え護大の核を討つことで、護大を完全に滅ぼせるというのである、が。
「その核と目される心の臓は、冥越の阿久津山にあると言われておる」
 ギルド長らが顔を見合わせる。
「冥越と申しますと、先の、大アヤカシ黄泉の最後の言葉……」
 大伴が頷く。全てを知りたければ冥越の阿久津山へ行け――黄泉はそう告げて息絶えた。せいぜいもがき苦しむのだな、とも言い添えて。その言葉がどうしても頭を離れない。それが単なる悔し紛れの捨てぜりふであれば良いのだが、果たして、大アヤカシがそのように卑小なまやかしをうそぶくものであろうか。
「いずれにせよ、次なる目標は冥越国である。各ギルド長は各国に戻り、急ぎ準備に取り掛かってもらいたい。しかし良いかの……ゆめゆめ油断してはならぬぞ」


●その報いの先は

『もはや、ただ黙って待つ、という訳にも行かないだろう』
 瘴気渦巻く深い谷間の底に、静かな声が響いた。
 周囲には瘴気で作られた結界が薄らと幕を広げて辺りを包み込んでいる。
 空には、低く垂れ込める雲の合間から月が顔を出し、谷へとほのかに月明かりを差し入れていた。薄らと、声の主が浮かび上がる。大アヤカシ「於裂狐」――美しい男性の姿をした彼は、大柄な狐の上に寝そべった状態で、対峙した二人へと交互に顔を向けた。
『……その点については、私も異存はない』
 ガチガチと何かの震える音はするが、人語らしき声は彼のもののみ。
 流れる月明かりが続いてゆっくりと照らしたのは、大アヤカシ「山喰」、そして「芳崖」であった。
 山喰は蟻にも似た姿の大アヤカシであり、対する芳崖は、巨大な蜘蛛の印象を持たれる姿をしている。
 山喰はガチガチと顎を鳴らして何かを語り掛けているようであるが、芳崖は何らそれらしき反応を発することもない。それでも会話が成立しているところを見るに、目に見えぬ意志疎通手段があるのだろう。
『良いだろう。構わぬ』
 山喰が鳴らす音に、於裂狐が頷く。
『久々の外出になるか。もっとも、寝所をやつらの土足で踏み荒らされるのも癪だからな……』
 何を語り合っているのかは解らない。が、大アヤカシの多くは他の大アヤカシと馴れ合わぬ。その大アヤカシたちが、今、こうして集い交わすその言葉は、たとい断片的なものであろうと、それはおそらくが相互の連携に向けた調整であろうことが見て取れた。


●北へ

 各国より派遣された軍勢を集めた連合軍が、神楽の都を進発する。
 見慣れた光景とまでは言わないが、これも二度目。前回は何かと不手際もあったが、今回は以前の経験を取り入れて、ギルドもあらかじめ十分な準備をもってこれを送り出した。
「いよいよ冥越か……」
 ゼロ(iz0003)が腕組み、浮上する八咫烏を見上げた。
「アヤカシの動きも活発化しているらしい」
 隣で、天元征四郎(iz0001)が刀の柄を改めている。
「俺たちは精霊門からの奇襲組だ。そちらは?」
「こっちは正面決戦だ。俺は理穴からだな」
「そうか……戦場での合流を期待している」
 小さく頷く。
 作戦は、概ね三方向からの進撃に分担されている。冥越国が、南北を貫く山脈によって東西に分断されているためだ。
 第一は理穴方面からの攻撃。第二が東房方面。そして最後に、山脈に沿って移動する、八咫烏を旗艦とする飛空船団である。第一〜第二の陸上部隊は、敵の背後に精霊門を復活させてあるため、同時にそれらから奇襲攻撃を展開するという。
 天元がゼロに言ったのは、つまりそういうことだった。
「あれには、発掘された新型駆鎧も積載されてるんだって?」
「そうらしいが……」
 再び、ゼロが上空の八咫烏を見上げた。
 発掘されたアーマーはギルドの所属として整備され、開拓者によってその名を「彩雲」と名付けられた。
 それらは通常のアーマーよりも大型で、何より戦闘力に優れるロストテクノロジーであることから、「オリジナル・アーマー」と称され、かつてジルベリアに起こった内乱において、反乱軍によって運営されたこともあった。もっとも、それとはまた外見なども違い、内部の機構には天儀との関連を示すと思しき名などが記されてもいた曰くありげな品である。
 三体揃えられたそれらは、うち二体が八咫烏に積載されて空へ上がっている。
「となると、残る一体は?」
「ああ、それでしたら……」
 と、ひょっこりと司空が身を乗り出した。


●十々戸里

「あらかじめ十々戸里に……ですか?」
「そうだ」
 真田悠が、司空亜祈(iz0234)と中戸採蔵(iz0233)を前に告げる。
「現地からの要請だ。流石に、不安を抑え切れないのは仕方ないな」
 十々戸里は、冥越でも最大の人里である。
 とはいえ、それでも人口は数千、精々三千人かそこらである。丘の上に拠を構え、土塁と防壁で周囲をぐるりと囲った要塞のような里であるが、間近に迫る魔の森とアヤカシの脅威から身を守るにはこれでも十分とは言い難い。
 実のところ彼らの里が放置されてきたのは、そこが、アヤカシにとって手ごろな「餌場」であるからなのは、里長たちも解っていた。いかに周囲が危険であろうと、誰一人里から出ずに暮らすことなどできはしないからだ。
「となると、冥越への解放作戦が起こるとなると……」
「そうだ。餌場だなんて悦には浸ってられねえ。奴等は何か仕掛けてくる。人里に紛れ込むアヤカシや賊への対処に慣れた俺らの出番というわけだ」
 解りました、と口々に頷く隊士を前に、真田は襖の外へ声を掛けた。
 戸が開いて姿を現したのは、ジルベリアのハインリヒ・マイセン(iz0104)と狩野柚子平(iz0216)である。
「今回新たに発掘されたアーマーの運用に、ジルベリアからの援軍が当たる。それから、人里を内側から撹乱するアヤカシたちが相手になる可能性が高い。そこで五行国だ」
「我々五行国も、陰陽寮の出身者らを中心に精鋭を派遣します。アヤカシの特性については、我々の専門知識を活かせる筈です」
 狩野の言葉に、どよめきが起こる。
「数は少ないが戦力は精鋭だ。早速里へ飛んで警戒態勢を整えてくれ。頼んだぜ」

(執筆:御神楽)

●空舞う翼

 コクリ・コクル(iz0150)が、大きく腕を振りながら駆け回る。
「ふー……」
 肩で息をしながら、頬に風を受けた。
 眼下には山岳が連なり、月明かりを受けた白い雲が流れていく。
 彼女が今立っているのは、八咫烏船首部。備え付けられた主砲が大きな孔を穿っており、いざ決戦となればその咆哮がアヤカシを薙ぎ払うだろう。
 八咫烏は東房で遺跡と誤解され、寺院として利用され続けてきただけに、その全長は大きく、280メートル近いと聞く。そのような巨体が、三つの宝珠を動力源として浮上し、重力に逆らって飛ぶのである。
 周囲には多数の飛空船が船団を構成しており、中には、超大型飛空船「赤光」の姿も見える。
 飛空船の任務は東西両軍の連携の橋渡しをして柔軟性を維持することで、当面は石伏山に展開するアヤカシを撃退することである。
 進む先は冥越国――アヤカシの手に落ちた国だ。


●襲撃

 十々戸里を訪れた援軍は、大きな歓迎を受けた。
 それは当然だろう。これまで冥越は殆ど見捨てられた土地に等しかったのだ。この十々戸里を作り、守ってきた人々は、たとえそれがアヤカシのお情けであったとしても、信じたのだ。いつの日か、やがて広大な土地に種を撒き育てる日が戻ることを。
 生まれた時から魔の森に囲まれて生きてきた若者たちは、祖父やそのもっと以前から語り継がれてきた、冥越の美しい大地を夢に見て生きてきたのである。
「お疲れさん、こちらの見回りは完了だ」
「こっちには小物が一匹……武器庫の近くだった。狙いはそっちかな」
 兵士たちが番所の前で確認しあう。
「やはりアヤカシが潜り込んでるらしいな」
 浪志組の隊士が、番所の奥へと声を掛ける。呼ばれて姿を現したのは、五行国より派遣されてきた陰陽師たちだ。
「悪いが、お前さんたちも同行してくれ。警戒を強めたほうが良いだろう」
「そうだな……」
「ジルベリア軍の兵舎にも誰か使いに走ってくれ」
 命じられて、伝令が一人走り去った。


 やがて、月が空に上がった深夜。
「もし。司空殿か中戸殿はいませんか」
 里長らとの打ち合わせを済ませたばかりの司空の下に、一人の怪しげな人影が現れた。彼は、おそらく男性だとは思うが、目深にローブをかぶって顔なども隠した様子で、周囲の隊士らは露骨に怪しむ態度を隠そうともしなかった。
「誰だお前は。名くらい名乗れ」
「里の者か?」
「……」
 問い詰める隊士らに、男はじっと押し黙る。
 やがて苛立った隊士らの荒っぽい声が響き始める。
「私がそうですが……」
 その声を聞きつけて、司空が姿を現した。
 男はそれでも黙っていたが、隊士らが再び痺れをきらそうとした頃、ぼそぼそと口を開いた。
「今宵、アヤカシが里を襲う」
「……え?」
 聞き取りにくかったものの、彼は今、確かにアヤカシがくると言った。その怪訝な言葉に、彼女は眉をひそめた。何から問うべきか。身元や名はいい。まずは、それが確かな話しなのかどうか――事の真偽を質そうとして手を伸ばす彼女の背後で、爆音と共に炎が上がった。
「!?」
 咄嗟に振り返った。
「……遅かったか」
 彼女の背に、男が呟く。再び男のほうへと振り返った時、既に彼は忽然と姿を消していた。


 火事だ――どこからか、そんな叫び声が聞こえてきた。
「どうした!」
 番所で見回りの指揮を取っていたジルベリアの騎士が、急いで表へ飛び出す。
「隊長、里の南に火の手が」
「……あれか?」
 里の南方を見やると、空を照らす赤い光の中に灰が舞い、周囲には火消しに駆け付けた住民らが大声を張り上げているのだろう。その喧騒は遠く離れた彼らの下にまで響いてきていた。
「くっ、伝令! 隊長殿はいずこか!」
 誰かが叫んだ。
「東口の門が内側より開け放たれて御座います!」
「何だとッ」
 振り返ると、東口の門近くにもごうごうと赤いものが巻き上がり始めている。おそらくは、あちこちに火を放って里を混乱させつつ、火災に人々の注意が向いた隙を狙ったのであろう。
「まずいぞ……ハインリヒ殿に連絡を! 俺はオリジナル・アーマーで出撃する! 直ちに迎撃態勢を整えるのだ!」
 マントを翻し、騎士は床を蹴って駆け出した。
 だが、駆け出した彼は、ぴたりと足を止める。彼の胸からは長々と刃が突き出ていて、刃はぬらぬらと赤く輝いていた。
 驚き振り返ると、先ほど伝令に駆け込んできた筈の兵士の姿がぐにゃりと歪み、そこには白い髪をたたえた人ならざるものの姿があった。
『おまえさまがあれの搭乗員だったか。これは僥倖』
「貴様!」
 周囲の騎士らが剣を抜き、アヤカシに襲い掛かる。当のアヤカシはひらりと空に舞い上がると、屋根の上に降り立ってくすくすと笑った。
神楽の都では失敗したが……この程度の小さな里ならば、火を放つくらい訳ないわえ。あがくなあがくな、餌ならば、餌らしく食われてしまえばええ!』


「里が攻撃を受けているだと」
 真田が、悔しそうに拳を打ち付ける。
「しまったッ、先手を取られたぞ!」
「その里も、どこかと同じように俺らを罠に嵌めたんじゃねえのか」
 ハインリヒの言葉に、真田は眉をひそめる。
「そんな言い方は無いだろう」
「ふん。人間、誰だって我が身が一番可愛いものだ。悪口じゃねえぞ、人間瀕すれば、自分でも思わぬことをやっちまうもんだ!」
「くっ、余計な詮索は後だ!」
 話を半ば一方的に打ち切って、真田は向き直る。
「どうしようってんだ」
「直ちに救援に向かう。それしかねえ」
「確証はあんのか?」
「ねえッ! だがこいつを見過ごせるか!」
 真田の言葉に、ハインリヒが首を傾げる。
「何ィ、敵の背後を突けって任務はどうすんだ」
「もし敵の攻撃が確かなら、友軍だけじゃねえ、里の住民は皆殺しだ! 三千近い住民が殺されるのを、黙って見ていられるか!?」
 言い切って肩で息をする真田。
 ハインリッヒは暫く首を傾げて何か考えていたらしいが、やがて、後ろの騎士が何か良いかけたのを手で制し、口元を大きく歪めて言った。
「仕方ねえ。あっちにゃオリジナルアーマーもある。放っておくわけにゃいかねえな……いいか! てめえの言うことを信じた訳じゃねえぞ!」


●罠

 声が遠く響いてくる。
「現地は晴天。アヤカシらは前線付近に移動中であり、こちらに気付いた様子はありません」
『了解だ。もうすぐ精霊門が開く……引き続き警戒を頼んだぞ』
 声が途切れた。
 数名の見張りが、周囲に意識を走らせていた。
 開拓者たちは、魔の森内部で精霊門の他に、ひっそりと隠されていた風信機を幾つか発見し、機能を回復させていた。両者は距離も近く、現地の様子を確認する為にはうってつけであったのだ。
 精霊門は深夜の僅かな時間しかその門を開かない。
 魔の森内部への奇襲は、魅力的ではあるが、退路を絶たれる危険と隣り合わせでもある。彼らの任務は重要であった。


 深夜、開かれた精霊門から次々と軍勢や開拓者たちが現れる。
 一度に行き来できる人数は、時間の関係もあって限られている。自然、主力は精鋭ぞろいである開拓者たちとなった。
 彼らの任務は、理穴軍が前線の敵と戦うに当たって、その後背を脅かして撹乱し、その戦いを支援することにあった。上手く行けば、退路を断ってこれを一挙に殲滅することも可能だろう。
「予定通りだな……急ごう」
 アル=カマルの砂迅騎が空を見上げ、星から位置と時刻を確かめ、告げた。
 魔の森の中は不気味なほどにしんと静まり返っていた。おそらく多くのアヤカシは最前線の側に出払っていたのだと思われた。当然であるが、そこに気配があるとすればそれはアヤカシに他ならないのだが……
(妙だな、静か過ぎる)
 それにしても静かであった。
 天元は周囲を見回してみるが、やはり自分たちの他にものが動く気配は無い。
 やはり、根こそぎ前線に動員されている、ということなのだろうか。
(それだけ末端に至るまで統制が利いている、ということか?)
 しかしだ。もし仮に、彼らの軍勢にそのように統制が利いているとすると――
「おぉーいー……ここだぁー……」
「ようやくか」
 彼の思考はそこで中断された。
 声に顔を上げると、先頭を歩いていた砂迅騎が、小さく駆け出して人影のほうへと近づいていく。人影は、風信機の周辺で警戒態勢を取り、こちらと合流する手はずになっていた先遣隊であるらしかった。
 だが。
「離れろ!」
 はっとして声を荒げる。
「どうした?」
「いいから離れるんだ!」
 怪訝な顔の砂迅騎が、人影へと再び顔を向け、目を凝らしてじっと見つめた。
 それはやはり、予め面通ししていた先遣隊に違いない。違いなかった、のだが。
「こいつら、まさか」
 はっとして身構える彼の前で、人影の腹からずるりと臓物が滑り落ちた。血と土に汚れた腕で折れた武器だけを強く握り締め、生気の欠けた顔の真ん中で、落ち窪んだ目元だけが爛々と輝いている。
「おぉーいー……ここだぁー……」
 喋る口元からごぼごぼと毒が滴った。
 唖然とする開拓者たちの頭上から、声が投げ掛けられる。
「私を取り逃がしたのはまずかったですねえ……!」
 小男が、木の上で笑っていた。
 刀の柄に手を掛ける征四郎を見やって、小男が闇に溶けていく。
「どこへいく……!」
「おっと、君たちの相手をするのは私じゃありませんよ。私は忙しいんでね」
 声と共に掻き消える姿。彼が消えると共に、不死者となった元開拓者が空に向かって吠え猛る。
 一瞬の静寂。
 そして、魔の森が鳴動した。

(執筆:御神楽)

●包囲の中

「はぁっ……はぁっ……」
 肩で息をして、天元征四郎は明るくなり始めた空を見上げた。
「ほらよ! 選手交代だ、暫く休んどけ!」
 たたたと駆けて来たカジャ・ハイダル(ia9018)が、水の入った竹筒を投げた。そのまま、彼の脇を駆け抜けて前線へと向かっていく。
「すまない!」
 その背に声を投げ掛けて、彼はどっと腰を降ろした。
「援軍が来ている以上、あと一息だと思いたいですね……」
 エリーセ(ib5117)がアーマーから顔を出し、呟く。相棒もだいぶ無理が来ている。敵中に放置する訳にもいかず一度後退してきたのだが、前線でやりあっていた頃に考えていたより、負傷者は大勢いるようだった。
 天元が水筒を投げ、援軍が来ている筈の方角へと顔を向ける。
「ただ突破する、というだけだと損害が大きくなる」
「離脱のタイミングが重要、という訳か?」
 小さく頷く征四郎。
 敵は二度、浮き足立つ筈だ。一度は、背後に援軍が攻撃を開始した時。そして、その攻撃によって一角が突き崩された時。包囲を突破して援軍と合流するには、その時こそが最大の端緒になるだろう。
「敵だってこちらを逃したくない筈だ」
 だから、その機会を逃す訳にはいかないのだと。
 彼らの推測は、結論から言えば当たっていたのだ。その時、芳崖は、遂に阿久津山をゆっくりと折り始めていたのだから。


●里から

 荷を積み上げて、鴻池 青霞(ic0073)が手を掲げる。
「必需品はこんなところだろう」
 上空から舞い降りた岩宿 太郎(ib0852)が甲龍の背に括り付けていた薬などを降ろし、十々戸里の様子を眺める。あちこちで焼け落ちた建物が目立つが、人的被害についていえば、思っていたよりも軽いように思われた。
「誘導が上手く効いた。奴等のやり口には、神楽の都などで手馴れている者も多かったからな」
「なるほどな」
 運び入れた物資を整理する彼らのもとに、召集の声が飛んできた。

「オリジナルアーマーを勝手に動かしたバカはどこのどいつだ?」
 ハインリヒの不機嫌そうな顔が開拓者らを見回す。
 思わず、レイラン(ia9966)がむっと頬を膨らますと、ハインリヒも負けじと睨み返した。思わず間に真田が割り込む。
「状況が状況だろう。引き続き任せたほうがいい」
「フン。ま、打って出るとなれば、責任問題は後回しにするしかねえか」
 口をへの字に曲げたハインリヒが、鼻を鳴らす。
「攻撃に出るんですか?」
「そうだ」
 隊士の問いに、真田が頷く。
「ここの防衛はどうするのでしょうか」
「そこなんだが、敵は於裂狐だ」
 開拓者が一人、ずいと進み出た。於裂狐と干戈を交えたことがあるつわものだ。それとどう関係があるのか、油断ならない相手ではないか。そう問われて、彼は小さく頷く。
「その通りだが、於裂狐は搦め手を好むやつだ。正攻法の力押しを嫌い、相手を内側から突き崩そうとする。そして俺たちは、一旦敵の攻撃を撃退した」
「ん、そうか」
 小野宮 環(ic0908)が顔を上げた。
「ということは、この里にすぐさま攻撃を仕掛けてくることは……」
 内側から突き崩すことに失敗したからと言って、むきになって正面攻撃を繰り返すことはない。ならば一部を攻撃に向かわせることも可能、ということだ。それに、於裂狐が言い捨てていった言葉も気になる。
 その意味を確かめるには、ここでじっとしている訳に行かないだろう。


●蟻の女王を討て

 人ならざる声。
 人ならざる声。
金阿剛はおるか』
『は、ここに』
 蟻の群れが道を明ける。仮にこの場に人間がいたとて、その会話のうちは伺い知れようがない。彼らアヤカシは時に、その仲間内でしか通じぬ言葉を用いると言う。
『上大蛇山脈を降り、迎撃の任に当たれ』
『仰せのままに……山喰さまは、いかがなさいますか』
 彼がそれを問うのは、彼が柔軟な思考を持つが故である。山喰の意を汲み、臨機応変に戦術を変化させられる優れた部下であり、それ故に許される問いかけであった。
『戦力を失い過ぎた。数を、増やさねばならぬ』
 歯がこすりあわされる度、ぎちぎちと不快な音が響いた。


「ふうむ、これが件の宝珠じゃな……」 机の上に置かれた宝珠は、どことなく禍々しい雰囲気を纏っている。大伴がまじまじと宝珠を見つめていると、何人かの開拓者が待ってましたとばかり拳を打ち合わせる。
「この宝珠には、山喰の眷属に対する誘引効果があります」
 翠嵐(iz0044)が手元の資料をめくっていく。
「力を発揮するには、開拓者の皆さんが練力を込める必要があります」
 この宝珠を利用することで、山喰の眷属と呼ばれる、山喰配下の下級アヤカシの大部分を引き寄せることができるという。山喰の配下に多く見られるアヤカシは、蟲アヤカシの中でも、特に群れる傾向が強いものだ。この宝珠が発するのは、一種のフェロモンに似ているのかもしれない。
「集中攻撃を受ける点もそうですが、起動による注意点もありますから、使用はお気をつけください」
「しかしこれを使う、ということは」
 陣幕の中で説明を聞いていた開拓者の中から、羅喉丸(ia0347)が顔を向けた。
「うむ」
 大伴が頷き、ゆっくりと立ち上がる。
「山喰の戦力もかなり削られておる。この好機を逃さず、山喰を討つのじゃ」
 作戦はこうだ。
 山喰は現在、上大蛇山脈と呼ばれる山地に後退し、改めて眷属をかき集めている。それでも、これまでの戦闘で討たれた数を回復するには長い時間が掛かるだろう。そこで、友軍は部隊を二つに分けて山喰への攻撃を行うのだ。
 ひとつは陸上から。
 東房方面の連合軍がこれに当たり、宝珠なども利用して山喰の眷属を可能な限り引きずり出す。
 続けて、八咫烏を旗艦とする飛空船団だ。
 幸い、現在山脈の上空には低い雲が立ち込めている。これを遮蔽物として上空から近寄り、奇襲を仕掛けて一挙に山喰を討つのだ。作戦としては単純だが、奇襲部隊はその動きを気取られぬよう細心の注意を払わねばならない。
 そして何より、山喰は大アヤカシである。
 悔しそうな様子で、樊 瑞希(ic1369)は腕を組む。
「空気を振動させる衝撃波には、十分注意したほうがいい」
 彼女の傷は重いようだった。その強さは、決して侮ることはできない。
「だが、一戦交えたには違いないんだ、次は逃さんさ」
 鬼灯 仄(ia1257)が首をもたげた。

(執筆:御神楽)

●古きものたち

 死霊の群れが部屋の中に整列する。
 その中央を歩くのは、アヤカシたちに同心する者。開拓者たちが古代人と呼ぶ人々のひとりたる女性であった。
「神々しきことだ……」
 彼女は薄らと目を閉じ、ゆっくりと深呼吸をした。
「我が身に陰が満ちるかのよう」
 部屋の中にぼうっと紋様が浮かび上がる。
 死霊兵の一体が進み出て囁いた。
『準備整いてございます、狗奴禍さま』
「……ご苦労」
 狗奴禍と呼ばれた彼女は、小さく頷き、ゆっくりと歩を進めていく。
 壁にそっと触れると、脈打つようにして壁に紋様が走る。光り輝く数多の文字が浮かんでは沈んでいく。朧げな脈動の中に、ここが『まどろんでいる』のだと感じられる。心静かに落ち着ければ、やがて聞こえてくる。遠き声。猛き歌。瞳が怪しく輝く。
 死の、再起動だ。

『グアァァァ……』
『グルルル……』

 廊下の奥から悲鳴が響き渡る。
「始まったな」
 彼女はにやりと笑うと、身を翻し死霊兵らに告げる。
「古僵尸たちが目覚める! みな、直ちに所定の場所へ撤収せよ!」


●老兵

 神無帰の魔の森の奥、しとしとと蜘蛛の巣が張り巡らされたその最深部に、それはじっと眠っていた。
 霧の中から、於裂狐が姿を現した。
『山喰の眷属たちはダメだな。主を失って統率が効かぬ』
 芳崖の腹がぶうと大きく膨らむ。
 その答えに、於裂狐は肩をすくめた。
『……女性は子を支配したがるもの、か。我が子となると、死んでもなお手放せぬものだからな』
 そういえば生成姫もそうだな、と言葉を漏らして於裂狐は笑う。芳崖がつられて笑い声を上げたように見えた。
『聞いたぞ芳崖、阿久津山へさっさと来い、とか何とか。と人間どもを煽ったそうではないか』
 不思議そうな様子で問いかける於裂狐。
 芳崖の数ある目のひとつがぎょろりと開かれ、於裂狐へと向けられてにたりと笑う。
『珍しいこともある……何百年ぶりだ。人間どもと口を効いたのは』
『さて……時の流れなど、どうでもよいことだ……』
 芳崖のくぐもった声がかすかに響く。
『長生きし過ぎだな』
 於裂狐が口端を持ち上げる。
『若造め』
 不気味な笑い声が響く。怒りはしない。事実だからだ。於裂狐とて既に数百年は生きているが、物心ついた頃には、芳崖は既に芳崖であった。森の奥でひたすらじっと獲物を待って動かぬ、まるで存在しないかのようなアヤカシであったのだ。
 おそらくは己も知らぬことを、芳崖は薄々感付いて放ったらかしにしている。
 もっとも、儀の寿命などという程度の話ならば、己とてとうに知っている。大アヤカシであれば知らぬ者はなく、仮におってもそれは、昨日今日護大を取り込んだばかりの者であるまでのこと。
(まあいい)
 己には預かり知らぬことだ。
 於裂狐はゆらりと立ち上がると、どろどろと真赤な液体になって溶けていく。
『ではなご老体。慣れぬ言葉を操りすぎて、余計な隙を作るなよ』
『……』
 芳崖の口元がにいっと細められた。


●奇襲

 八咫烏はその翼を大きく広げ、船団共々一路阿久津山へ向かって進んでいた。
 ごんごんと響く風力宝珠の共鳴の中、廊下を一人の男が歩いていた。赤髪の男だった。反対側からはもう一人別の男が通りがかって、狭い廊下を互いに融通してすれ違う。すれ違いぎわ、赤髪の男は小さくまぶたを伏せた。
 相手もすれ違いざまに会釈する。赤髪の男はそのまま、今は機関室となっている祭儀の間へと足を踏み入れた。
 数名の機関担当者らが振り返る。
「お疲れさまです」
「もう交代の時間でしたか」
 彼らが口々に立ち上がろうとしたその時だ。赤髪の口元が引き裂かれたように広がり、笑みをこぼした。
 引き裂かれた口元からがぼがぼと血が滴ったかと思えば、その肉はどろりと溶け始める。流れ落ちた肉の裏にぽっかりと空いた眼孔。その奥にはただ闇が広がっている。引きずり込まれるような落下感に体が浮き上がって、そうして――
「ふふふ」
 笑う赤髪の前で、数名が倒れている。
 皆、恐怖に広がりきった瞳孔のまま、あらぬ方角を見つめて息絶えていた。
「次は貴様の番だ」
 男がゆらりと歩み寄る。赤い霧と共に肉体は霧散していき、本体たる美貌が顔を覗かせる。その名を、大アヤカシに呼ばう。於裂狐と。
「悪夢が良いか? それとも無限の快楽か?」
 さあ、お前はどんな夢を見たい――
「八咫烏よ」


 八咫烏が揺れた。
「どうした!」
 船長が肘掛に取り付く。航海士が伝令管に状況報告を求め声を上げる。宝珠の制御を行っていた兵が出力の大幅な低下に気付いて振り返る。
「風力、浮力共に出力低下中! 休眠時並にまで低下しつつあります!」
「操舵が……出力が足りません、姿勢維持が精一杯です!」
「機関室はどうした!?」
「ダメです、応答がありません!」
 航海士が叫んで振り返った時だ。その機関室から嘲るような笑みが漏れ聞こえてきた。その返答が異常なることは、場の全員が直ちに理解する。間違っても、連絡が回復したなどと考えはしなかった。
『船自身に意志がある、というのも考え物だな?』
 息を呑む。
『お陰で私の術がよう効く……中々抵抗が激しいが、それもまた一興よ』
「貴様ッ、何をした!」
 船長が叫ぶ。
『夢を見ているのだよ。死に至る夢をな』
「なに……」
『八咫烏は今に我が術中に落ちる。永遠の夢の中で、私を主人と思い羽を広げ、尾を振るだけの鴉に成り下がる』
 言いかけておいて、於裂狐はついと首をもたげた。微妙な空気の変化に、彼は、船長らの意を察する。風信術で何らかの連絡を取り合ったのは解った。と同時に、八咫烏は進むことを止めて、その高度維持に残された意識の全てを振り向け始めた。
『ふふ。なかなか剛毅なことだ』
「何のことだ?」
『とぼけずともいい。他の船に、八咫烏は無視して阿久津山へ向かえとでも伝えたのであろう? 決断が早いのは良いことだ。美しく、見苦しさを感じさせぬ』
 だがな、と彼は言って立ち上がる。
『私を討ち取ろう、などというのは――』
 指をぱちんと鳴らす。
『少し蛮勇が過ぎようさ』
 ドアの先で、兵の砕ける音がした。


●攻撃

 陣に、伝令が駆け込んできた。
「飛空船団より連絡! 八咫烏が大アヤカシ於裂狐による奇襲を受けたとのこと!」
 その報告に、重臣たちが腰を浮かせる。
「何と!?」
「して八咫烏は!」
「はっ、船団は阿久津山への到達を優先することと致して先行。八咫烏は現在於裂狐と交戦中にございます!」
「むう、まさか八咫烏を直接奇襲してこようとは」
 僧貌の重臣が、八咫烏が飛んでいるであろう方角を思わず見上げた。
「なんと歯がゆい事だ、我等では援軍にも向かえぬ!」
「……」
 大伴は腕を組み、じっと黙り込んだ。
 彼らの戦力は大半が陸上部隊である。飛空戦力はギリギリまで船団に組み込んでいるが、その八咫烏が船団には先行を命じている。事実上、八咫烏に援軍を送る手立ては無いに等しい。逸る気持ちがふつふつと湧き上がってくるのを、彼はぐっと奥歯をかみ締める。
「うろたえてはならぬ」
 静かな一言に、みなの視線が集まった。
「これを好機と捉えよ!」
「老公、これは異なことを!」
「いいやこれは好機じゃ」
 反論を遮り、大伴はばしりと膝を叩く。
「眼前数千の敵アヤカシの将は誰か」
 その問いに彼らは顔を見合わせた。彼ら東房方面を北上する第一軍の眼前に展開しているのは、かくいう大アヤカシ「於裂狐」の軍勢である。その於裂狐は今、八咫烏に単騎で奇襲するという策に打って出ている。
「於裂狐は不在か……!」
 誰かが呟いた。
 大伴が頷く。
「我等は当初の予定を繰り上げる。眼前の敵を一挙に殲滅するのじゃ。我等は我等のできることを致そう。友軍を信じるのじゃ」


●逃亡者

 男は、魔の森の中を疾風のごとく駆けていた。
 放たれる雷撃が身を掠め、爆炎が木々を薙ぎ払い、降り注ぐ氷柱は地を穿つ。
 先ほど開始された連合軍の攻撃に、アヤカシ側も忙殺されている今ならば、あるいはとも思ったが、それはとんだ見込み違いだったのだ。
(しかし……)
 駆けながら己の手をじっと見る。
 自分でも、自分が何をしているのかはよく解らなかった。
 護大は善か悪か、ではない。護大こそがこの世の真理であった。故に、我等は護大とともにあるのだと。
 しかし、しかしだ。ならばあの時自分が差し出された一杯の碗は、何であったのだろうか。滅びに抗い、常に死と隣り合わせの中にあって、見ず知らずの誰かに一杯の碗を差し出すこと。それを愛と呼ぶのではなかったのか。故に我々は全てを受け容れたのではなかったのか……?
(俺のやっていることは何だ)
 狐たちの影が彼の後を追ってくる。
(護大の敵ならば、我等の敵だ。真理は我等と共にあるのだ)
 繰り返し、問いかける。
 彼は爆炎を転げるようにしてかわすと、牽制の術を放たんと印を結んだ。が、それがいけなかった。
「ちぃっ!」
 肩を刺し貫いた氷が、真赤な血に染まる。
 バランスを崩して転倒したところへ、一直線に落雷が迫る。展開した結界が雷撃に耐え切れず消滅する。僅かに稼いだ時間で地を蹴り、再び駆け出した。

「あれは……?」
 東側の戦場で、司空亜祈は、比良坂降津の方角へアヤカシの群れが駆け抜けていくのを見た。そして気付いたのだ。その先頭を追われるようにして走る人影が、十々戸里に警告に現れた者であることを。


(執筆:御神楽)




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