シナリオ形態 | 合戦 |
難易度 | 様々 |
参加費 | 様々 |
参加人数 | 様々 |
報酬 |
12000文〜 |
血叛トップ |
合戦とは? |
【叛】概要 |
合戦参加表明所 |
合戦作戦相談所 |
小隊参加者募集・応募 |
依頼(開拓者ギルドへ) |
味方(関係する人物) |
OMC発注 |
■もくじ |
■詳細な経緯(これまでのOP) オープニング1(10月11日) ●世をしのぶ 天儀西に位置する国、泰。 絶対不可侵の天帝が支配し、大勢の大臣と強力な官僚機構がこれを支える国――というのは建前の話。しかして実際のところは―― 「すいませんが、大伴様に取次ぎを願います」 裏口の掃除をしていたちんまい見習い職員が、声の主を見上げた。 ぐぐぐっと見上げた先に、影になるような姿勢で、男がこちらを覗き込んでいる。 「こっちは裏口です」 「ええ、それは存じております」 「でしたらちゃんと表へ廻ってくださいっ」 つんと口を尖らせる見習いに、男が何か言いかけた時、それを制するようにして声が割り込んだ。 「申し訳ありませんが、内密の訪問でして……」 声の主は、すらりとした優男だ。 泰風のゆったりとした服を着こなした、商家の若旦那というような風体で、にこりと微笑み、書簡をひとつ差し出した。書簡には、泰に置かれている開拓者ギルドの印が捺されていた。 見習いは書簡を受け取って、じいっと二人を見やる。 「取り次ぎますけれど、お会いになれるとは限りませんよ。おじい……大伴様は今、お忙しいので」 「ふむ?」 「天儀に、泰の王様が遊びに来てるんです。噂だとお嫁様探しとかなんとかって」 「ああ……そういえば、そんな話がありましたね」 首を傾げ、若旦那が困ったように笑う。 小さな見習い職員は、やれやれとでも言いたげな様子で肩をすくめていた。 「王様のお嫁さんって言ったら魅力的ですけど、そんな理由で外国まで遊びに来るなんて、春華王って、よっぽどのスケベか、世間知らずのボンボンに違いないですよ!」 小さな身体でまくしたてられたその言葉に、来訪者二人はきょとんと顔を見合わせた。 ややして、ギルド総長の部屋にて。 「こちらでは、お初にお目にかかります。茶問屋の常春と申します」 先ほど裏口から取次ぎを頼んだ二人のうちのひとり、若旦那風の少年が微笑んだ。 しかし、服装や装飾品こそ商家の若旦那と言った風であるが、その正体は、誰であろう春華王そのひとである。 「相談とは他でもありません」 泰では、近年「曾頭全」と呼ばれる組織が暗躍している。そこではもう一人の春華王が民の歓心を買い、今の春王朝に君臨する天帝春華王を正統なる王ではない、偽の王であると吹聴して廻っていた。 さて、では当の泰国はと言えば、宮廷の重臣らは危機感が薄く、会議会議と額をつき合わせてああでもないこうでもないと唸っては、今後も彼らの動きを注視していく、などと言うあたりでお茶を濁している。 春華王が珍しく「もう少し積極的に動いたほうがよいのではないか」と問いかけても、長々と口上を述べてはのらりくらりとした態度を崩さない。 結局彼は、こうして姿を変えては、宮廷の重臣らにさえ黙ったまま、時折開拓者らの協力を得て密かに曾頭全の動きを探っていたのである。だが、いよいよ曾頭全の動きが本格化してきた。そろそろ、密かに動きを追っているだけでは済まなくなってきたのだ。 開拓者ギルドの総長である大伴定家が小さく頷く。 「ふうむ。なるほど……」 「是非とも、開拓者ギルドの力をお貸しください」 ●自然なるもの この世に生を受けたその時より、誰もがそれと共に育ってきた。 誰もがそれの存在を疑わなかった。それは、存在があまりにも当然のものであったから。 人々は生まれ、生き、やがて死んでいく。 ならば、死者はどこへ行くのか。ある人は永劫不変の幽世を示し、またある人は天国と地獄の審判を説く。あるいはより根源的な存在を想起する者もあれば、虚無を見出す峻烈なる者もいた。 一方で、誰もが知っている。 人は、死ねば土に還る。魂の行方は知れずとも、その身体はやがてやがて崩れ、大地へ、儀へと還るのである。しかしだ。ならば、その先は。この身がやがて儀に還るならば、儀はいずこへ還るのか。 蟻は象を知らず、人は自らを知らない。 あまりにも当然に存在するもの。生まれた時から共にあるもの。 声がする。 遠くから聞こえているのか。心のうちから聞こえているのか。それは、解らないけれど。 (執筆:御神楽) オープニング2(10月23日) ●決起 一人の男性が、人々の前に姿を現した。 春華王。その姿を知る者が見れば、それと気付くであろう。だが、ここは梁山湖。泰にてその勢力を伸ばす反乱組織「曾頭全」の根拠地である。春華王そのひとが居よう筈もない。 春華王を名乗る男が顔を上げる。 「諸君」 高台にしつらえられた舞台から群集を見下ろして、彼は厳かに口を開いた。 「今の王朝は、偽りの系譜である」 静かに落ち着いた声は、決して張りのある声ではないにも関わらず、広場の隅々にまで響き渡る。 「思い起こすがよい。年々拡大するアヤカシの被害と魔の森を。あふれ出た瘴気は大地と人心を蝕み、春王朝を僭称する彼らは、これを鎮めることができないでいる。 彼らは泰の正統なる後継者ではない。かつての梁山時代、正統なる春王朝より至尊の冠を簒奪し、愚かにも泰を僭称しているに過ぎぬ。今、この世が乱れておるは、彼らが王権が天意を授かっておらず、そこに威徳が備わっておらぬからだ」 一息追いて、彼は手を掲げた。 「我こそが真なる春華王である」 彼の見下ろす広場の中央に、黒い影が立ち上る。 群集の中から、どよめきがあがった。 黒い影はやがてその輪郭を確かなものと変えていく――アヤカシ。誰もが見知った、災厄そのものの代名詞である。 黒い影はおぞましい怪物のような輪郭を生じると共に、くぐもった唸り声を上げた。口から黒い汁をぼたぼたとたらすアヤカシが、狂ったように咆哮を挙げ、その数を増していく。 群集の顔に恐怖の色が浮かぶ中、 「静まれ」 上がりかけた悲鳴の機先を制するように、彼の言葉が響いた。しんと、アヤカシまでもが静まり返る。 「恐れることはない。見よ」 掲げていた手を振り下ろす。 その直後だ。 今まで怪物の姿を見せていた黒い影が一斉に崩れ落ち、再び立ち上る。 しかしその姿は、まるで人のそれに似ていた。煙のようなものが漂うと、それらは人影にまとわりつき、やがて古の甲冑へとその姿を変え、煙を掴むと、それは戈や槍と化してその手に握られた。 影に紋様が浮かんだ。 「これが我が威徳の顕れである」 その言葉に、息を呑む群集。 影たちは整然と隊列を組み、物音ひとつ立てずに直立不動の姿勢を取り、彼の号令一下、一糸乱れぬ動きでその下知に従って動いた。 「真に天意を受けたる者は、アヤカシをも鎮め、大地の命さえも我が意のままとするのだ。既に聞き及んでいよう、龍骸の名を。そこに出現した山に飲み込まれた街の名を……彼らは欺瞞の王朝に付き従い、我らを拒んだのである。故に、天意は我に、かの街に罰を下すよう命じたのだ」 腕を小さく振るった。 影の軍団が一斉に武器を掲げ、規律を正す。 「我は春華王」 精悍そうな武官文官がかしずく中、彼は天を仰ぐ。 「天の代理人にして、至尊の冠を頂き泰を統べる者。天帝である」 歓声が空気を震わせる。 群集たちの間から上がるのは、どよめきや戸惑いではなく、歓声であった。 ●反応 「遂にか」 彼は、その報告を帰りの船中において受け取った。 その報告の中には、先代春華王の子――つまり彼の兄飛鳥の子、甥っ子にあたる「高檜」が誘拐されたことも含まれていた。 「あす兄の……」 「賊どもは、不遜にも高檜様のお命と引き換えに、鍵を引き渡すように迫っておる次第。今は、回答を引き延ばして今後の対応を十分に協議している次第でございます」 侍従は長々と口上を述べ、彼ら賊軍を極めて不遜であると十分に言い募っておいてから、うやうやしく頭を垂れた。 「陛下におかれましては、な、何卒お気を確かにお持ち下さいますよう……」 落ち着かせようとするその言葉が、震えている。寝台の春華王は、侍従の言葉に、溜息混じりに小さく首を振った。今頃王宮は大騒ぎであろう。二、三の信頼に値する大臣たちが、必死に周囲を落ち着かせて廻っているような状況に違いあるまい。 だがそれでも、彼が用いることのできる言葉に変わりはないのである。 「うむ。よきにはからえ」 曾頭全が全面決起したとの報告に、開拓者ギルドも大騒ぎになっていた。 職員たちはひっきりなしに舞い込んで来る依頼書を次々とさばき、王宮に使者を度々やっては対応を協議すべしと働きかけている。 「様子はどうか」 泰ギルドのギルド長が頭を抱えた。 「それが、王宮はどうやら大混乱のようで、とてもではありませんが、大臣の方々にお会いできるような状況ではありません」 「さよう」 野太い声がギルド長室に入ってきて、二人は、声の主を見やった。 そこには、見慣れぬ戦装束の人物の他に、見慣れた人物の顔があった。 「大伴さま!」 「よい、そのままで」 立ち上がりかけたギルド長を、大伴が制した。 「何故こちらに……あっ」 ギルド長の声に小さく頷く。 「うむ。さようじゃ。実は、茶問屋の常春殿より重大な警告を受けとっておってな。先んじてこちらに参っておったのだ。しかし、曾頭全の素早さも想像以上じゃ。ギルドに顔を出す時間も無かったゆえ、旧知を先に訪ねて参ってな……こちらは四将軍のお一人、朱韓景殿じゃ」 「戦装束のままで失礼致しますぞ」 白髪の老人が小さく頭を下げた。彼は、春華王の名は伏せつつも、彼から命ぜられて備えを進めてきたことを暗に示しながら、泰軍の状況が芳しくないことを隠すことなく口にした。 「泰は、宮廷も軍団も戦慣れしておらぬのです。何しろ、泰ではここ百年以上、戦乱らしい戦乱もなく過ごしてきましたからな。宮廷は今すぐには動けず、我々現場が動かせる戦力もあまり多くはありません。 何より、兵士たちの多くにとって、戦などというのは遠い昔のおとぎ話か、遠く離れた天儀以遠からの伝聞に限られておりました。装備も練度も決して十分とは言えませぬ」 「ム……」 ギルド長は唸った。 ギルドを通じて天儀やジルベリア、アル=カマルなどの最新情報に触れていると忘れがちになる事実が、否応なしに浮かび上がる。泰が養う兵馬の多くには、戦の経験などまるでないのだ。 「しかも、曾頭全が擁する軍の先頭にはアヤカシの姿もあると報告があった。とても我々だけでは抗しえませぬ。是非とも、ギルドの力をお借りしたい」 「無論じゃ。どういったからくりかは解らぬが、かの偽王の背後には、アヤカシの影がちらついておる。それだけではなく、彼らは『鍵』を要求しておるとのことじゃ」 「鍵……?」 ギルド長の問いに、大伴が頷く。 「うむ。龍骸の街で起こった事件は既に存じておろう……鍵とは他でもない。大地を隆起させたかの力を開放するための鍵なのじゃよ」 (執筆:御神楽) オープニング3(10月29日) ●出陣 陣幕の中央に置かれた机の上に、大きな地図が広げられている。 これを囲むのは大伴ら開拓者ギルドの面々だ。 「泰の軍はいかほど集まったのかの」 「千二百ほどとのこと。数の面でも、質の面でも、開拓者が主力にならざるをえぬでしょう」 「ふうむ……」 職員の報告に大伴定家は首をかしげた。 「うち二百は後方の警備に廻しました。残る一千のうち、正規兵を中心に六百ほどを春華王のおられる方面に。四百ほどをこちらに廻して頂いております」 「うむ。彼らは後方支援に廻すのじゃ。最前線に出せば多大な損害が出るであろう」 先ほど整列していた兵士たちの様子を思い浮かべる。 正規兵中心の先の六百はともかく、こちらの四百ほどの兵士たちの多くは、志体こそ持ってはいても戦の経験を欠いている。昨日まで鍬を手に畑を耕していたか、街道筋の警備をしていた程度の者が殆どで、腕に覚えがある者は少数である。戦力的には過度な期待は禁物であろう。 だが、それ以上に重要なのは、彼らの多くは志願兵だということだ。 知皆の街は曾頭全の拠点である。周辺にもその影響力は強い筈であるが、そうした土地からも、現王朝に味方する者が少なからず自ら手を挙げた。 (このような状況で、全国的な反乱が上手く行くものであろうか?) 大伴は再び首を傾げた。 単に彼らの目算が甘く見込み違いであっただけならば、それでもよい。 だが、あるいは何か別の目論見や奥の手が控えているのであればそうもいかないであろう。 「地方反乱の対処にも何かかの協力が必要であろうな。反乱を思いとどまった太守が、アヤカシの手で殺されたりしておるようだからの……天帝宮地下の調査は、変わらず続行すると申したかな」 「はい。それは朱春のギルドにて滞りなく」 「うむ」 彼は小さく頷き、顎に手をやる。 「我らは眼前の敵に注力せねばならぬが、そちらも手を抜いてはならぬぞ」 ●展開 この地方は、東西を山脈に区切られている。 戦場はまさにその山脈が途切れる梁山湖周辺を巡って争われる格好だ。 知街という大きな都市の他にも、多数の集落もあれば、一軒屋や田畑なども点在する豊かな土地だ。 梁山湖は非常に大きな湖で、ここと繋がる三楽河も放楽河も川幅の広い大河である。土地そのものはなだらかな丘陵と森林が生い茂る平野部であるが、先述の通り、山脈で東西を隔たれていた。 元々、曾頭全そのものがこの梁山湖の豊かな水源とそれを利用した水運を資本としたあくどい商組織であったほどである。 その河向こうに、アヤカシの軍勢が姿を現した。 いや。アヤカシの軍勢、ではない。中にはアヤカシではない、人間の姿もちらほら見られる。配置からすると、アヤカシこそが先鋒を担っていて、彼らは主力ではないが、指揮官らしき男性の様子も、アヤカシを見る目は強力な味方を見るそれである。 「本当にアヤカシを操るなんてことが可能なのか?」 「報告を聞く限りだと……そう思えますが」 偵察に訪れた開拓者と翠嵐がひそひそと囁きあう。開拓者が顔をしかめる。 「アヤカシを支配下に置いたと思いきや……」 「利用されてたのは自分だった?」 「そうだ」 「確かにそういった事例は見たことがあります。けれど、仮にこれがそうだったとしても、ここまで大規模な事例はちょっと……それに、それならば一体どんなアヤカシが?」 「うーん」 彼は砂迅騎なのであろう。 裸眼で遠くアヤカシの様子を眺めていた彼は、やがてまぶたを閉じた。 鎧を纏った黒い兵士たちが大地を踏み鳴らし、整然と行進する。 その他のアヤカシたちも、共に行軍する兵らを食い散らかすような様子はなく、隊列を組んで予定地に向かっていた。 指揮官が声を張り上げる。 「よいか。このようなことが可能なのも、我らの王こそが本物の天帝であるからこそだ。アヤカシは元々、このように鎮め統べることが可能な存在だったのである。それがあのように暴れておったのは、欺瞞の天帝の下に人心が乱れ、天意に背いておったからだ。 アヤカシの恐ろしさはみな知っていよう。かの脅威が、これよりは我らの味方となる何一つ畏れることはない、進め!」 将軍は剣を掲げ宣言する。 付き従う兵士たちが歓声を上げる中、将軍が飛び乗ったのは鵺に似たアヤカシであった。 (執筆:御神楽) オープニング4(11月5日) ●戦況 緒戦は、総論としては開拓者たちの勝利に終わった。 多くの戦線で敵は後退し、味方はその目標を概ね達成することに成功している。 「潜入に向かっていた者たちはどうか」 「彼らもそろそろ戻る頃でしょう」 大伴の問いに頷き、彼は手元の報告書をめくった。夜明け前から午前くらいを主として戦われた各地の詳細な報告が、夕方を前にして次々と届けられていた。 潜入調査はその性質上もう少し時間を食ったが、こちらも少しずつ開拓者たちが帰還し始めており、報告書が順次作成され始めているという。 ただ、中でも目を引く戦果は、伊騎の森方面において敵の指揮官を捕えたことであろう。 「捕虜の身柄は、春華王がおられる本陣へと送られたとのよし」 大伴は小さく頷いた。 戦全体の指揮はこちらで執っているが、捕えられた指揮官らは泰の人間である。これを引見するならば、春華王らのもとでというのが道理である。今、春華王は泰国の王として、天帝として立派にその責務を果たさんとしている。 その後は、厳重な警戒を敷いて後方へ連行されるという。 そちらの面では、まず手抜かりはあるまい。 ●尋問 捕虜となった敵将は、忌々しげな様子で周囲を見回した。 「余計な動きをするなよ」 彼のつれてこられた陣幕には開拓者が立ち、目を光らせている。と、そこへ、しずしずと数名の文官が姿を現した。 「彼がそうか」 護衛の開拓者たちを伴って顕れた春華王は、戦陣着をひるがえし、ゆったりとした足取りで陣幕をくぐった。 開拓者たちが背を伸ばし、改めて周囲と敵将の動きを警戒する。 一方の縄を打たれた敵将は、春華王の姿などまるで目に入らぬと言わんばかりにふてぶてしい態度で、彼を出迎えた。 「春華王のご前である。姿勢を正されよ」 文官の言葉にも態度を崩さぬ敵将。 続けてこれを咎めようとする文官の言葉に割り込んで、春華王が口を開く。 「降るならば命までは奪いませんが、どうですか」 「……」 敵将は口を開かず、じろりと春華王を睨む。 「春華王と天帝の名を騙るかの者は、明らかにアヤカシと誼を通じています。彼に味方することは、真なる春華王に味方することでも何でもない。ただアヤカシに手を貸すだけだと解りませんか」 「ふん」 春華王の言葉に、彼が口を持ち上げる。 「偽りの王が何をほざくのだ」 「貴様っ!」 激昂した文官を、春華王が手で制する。 「やはり、かの者を真なる王と思うのか」 「見れば解る。その手を掲げて命ずるや否や、大地は隆起し、アヤカシはひざまずいた。あのお方は神にも等しい力をお持ちだ。これこそがあのお方の威徳の顕れである!」 「……その大地が隆起した龍骸の街は、曾頭全への協力を拒否した街だった筈。それ以外の街も、曾頭全を拒否するや否やアヤカシに襲われもしている。それを威徳と言われますか」 「ふん、あのお方の下に世が統一されれば、アヤカシの災厄も、何もかも必ずや収束しよう。いわば、この世の平穏を取り戻すための戦さだ。天意がアヤカシを遣わしたのだ。これに逆らう愚か者どもが死んだところで、当然のこと。何ほどのことがあろう」 春華王が、じっと敵将を睨んだ。 「……」 「貴様らの抵抗など羽虫が飛び交うにも等しい。貴様こそ偽りの王位を返上し、許しを乞うがいい!」 叫ぶうちに、男の目がぎらぎらと異様な輝きを覗かせる。 春華王は小さく首を振った。 「どうした! 言葉に窮したか!」 わめく敵将の言葉を背に、春華王は静かに陣幕を後にした。 護衛の開拓者たちが、連れ立って背を向ける。 重苦しい空気が流れる中、ぽつりと、春華王が言葉を漏らす。 「自らに逆らう者たちを貶めて平然とする彼らに、王とその軍勢たる資格はない」 開拓者たちが顔を上げた。 「彼は、王ではない」 (執筆:御神楽) オープニング5(11月8日) ●死の軍団 知皆の街にその巨体が姿を現した時、人々の間からどよめきが沸き上がった。 上級アヤカシ「煌筆龍」――泰に古くから確認されており、各地で被害をもたらし続けてきた龍型のアヤカシである。それは一種季節風のようでもあり、泰の人々は、煌筆龍が現れればそれが過ぎ去るのをじっと待つのみであったのだ。 その煌筆龍が、偽春華王の下知に従って動く――それは彼らに大きな衝撃を与えたのであるが、その衝撃は、煌筆龍の撃退という更に大きな衝撃によって押し流された。 「あの煌筆龍が負けたのか?」 「化け物だ……」 将軍たちがひそひそと言葉をかわす。 そうでなくとも、緒戦は敗退だ。各地でアヤカシも兵も討たれ、曾頭全は大きく後退するしかなかったのだ。士気が上がろう筈もない。 「……」 であるにも関わらず、偽春華王は余裕の表情を崩す気配もなく、並み居る将やアヤカシらに悠然と向き直る。 その背後に、傷ついた煌筆龍がずずずと舞い降りる。 「我々は多くの戦力を失った。諸君らの中には、既に敗北の予感を抱いている者もいよう」 その言葉に、ぎくりとした表情を浮かべる者もいた。 だが、彼はそれを咎めようとしたのではないのだ。 「しかし見よ」 凛とした声が、広間の空気を震わせる。 「我が力を」 ふいに、手を掲げた。 ごうと光が巻き起こる。それは視界を奪いながら煌筆龍を包み込んでいく。だが、うろたえた彼らがそっと目を開くと、そこには、先ほどまで傷つき角欠けていた煌筆龍が、傷ひとつ無い姿で天に昇っていくではないか。 「天帝の威光を知らぬ者たちは実に哀れだ」 偽春華王が笑う。 「だが、安心するがいい。私がある限り、全ての者は永遠である」 そうして、掲げた手を振り下ろす。 次は、地から沸き上がった影の中から、兵士らの影が現れる。それらはやはり、整然と隊列を整え、偽春華王の命ずるままに隊形を整えると、高々と武器を掲げた。 住民の間からどよめきがあがった。 ●作戦会議 開拓者たちの報告する知皆の街の様子は、異様なものであった。 住民らは単なる警戒とは程遠いむき出しの猜疑心を振り回し、異常なまでに神経を尖らせている。 「戦が間近に迫ってるんだ。そりゃ仕方ないだろ」 「そんなものじゃねえよっ」 開拓者の問いに、潜入したフォルカ(ib4243)が答える。 「『黄熟香』というものがあったな。それではないのか?」 「どうだろうな。黄熟香には確かに洗脳効果があるが、それだけであんな症状は出ない」 「何らかのアヤカシの影響を受けていると考えるべきであろうかのう」 大伴がふむと首を傾げる。 だが、ならば、そのアヤカシとは何者か。偽春華王は、おそらくアヤカシではない。報告書こそまだであるが、彼は知皆の街の寺子屋に在籍していたらしい、という情報が入っている。もちろん、その身を乗っ取られているであるとか、そういった可能性も無いではないのだが。 「知皆の制圧は延期すべきでしょうか?」 春華王が問う。 「……ふうむ」 大伴はじっと考え込んだ。 「ある意味、アヤカシが曾頭全に回った人々を人質にしていますね」 汐劉(ib6135)が溜息をついた。 セレネー・アルジェント(ib7040)は街での住民の様子を思い起こす。 「アヤカシに協力してるのはごく一部じゃないかしら」 確かに街には異様な雰囲気が漂っていたが、それは、自発的なものに思えないのはもちろん、何か統一された意志の現れであるように思えなかった。まるで無茶苦茶なのだ。 大伴があごひげを撫でる。 「やはり、攻略そのものは必要であろうな。街を攻略して、曾頭全と住民を切り離さねばならぬ」 春華王が立ち上がり、頷いた。 「やりましょう。やるからには一挙に、迅速に。彼らに何らかの行動を起こさせる前に、です」 ●害意 軍の進撃を前にして、春華王は敵将の引見を望んだ。 捕虜にされた将軍は二人いる。いずれも、アヤカシを相手に指揮を執っていた者たちである。一人は既に済んだ。ふてぶてしい態度を崩さず、得られるところは少なかった。 では、もう一人はどうか。 春華王が問う。 「は。別の陣幕にて身柄を拘束してございます」 「では、彼からも話を――」 「申し上げます!」 突然、駆け込む者があった。衛兵隊長である。彼は血相を変えた様子で二人の前にひざまずくと、顔を伏せて手を合わせた。 「かの虜将が死にましてございます」 陣幕に駆けつけた春華王の前に、死体がひとつ転がっている。 隣には、血まみれの槍を抱えた兵士が、真青な顔でぶるぶると震えていた。 「……殺してはならぬとあれほど」 「お待ち下さい陛下!」 思わず兵を叱りかけた春華王の言葉を、衛兵隊長が遮った。 「それが、かの兵士が殺したとは言い難く……」 「どういうことか?」 隊長は今一度頭を垂れると、兵士と死体を見やりながら、状況を説明した。 衛兵たちは春華王の意を受けて、敵将を陣幕へと連れて来たのであるが、隊長によれば、この敵将は捕縛されてより後、時の経つごとに平静さを失い、まるで何者かの姿に怯えるかのように辺りを見回し、睨みつけ、ぶつぶつと聞き取れぬ独り言を繰り返した。 彼らは迷った。 たとえ彼が敵の将の位にあったとしても、春華王の命令通りこのまま引見させてよいものだろうかと。 「やはり、この事をお耳に入れ、考え直して頂こう」 隊長が副官に告げ、手配を指示した、まさにその時だった。 「うわあああああっ」 喚き散らして、虜将が飛び上がった。 「何だ!?」 「止まれ!」 衛兵の一人が、槍を構えた。彼は、槍を突き出してはいない。あるいは脱走と見えて、それを押し留める為に身構えただけである。 しかし―― 「そのまま槍目掛けて自ら飛び込み、命を絶ちまして御座います」 「……」 隊長の言葉に息を呑む春華王。彼は険しい表情で今は冷たくなった敵将の元へと歩み寄ろうとするが、隊長が、慌てて前に立つ。 「お目汚しに御座います」 「構いません」 「しかし」 言い淀む隊長を押しのけて、死体へと視線を落とす。その死体の様子に、いや、その死体が浮かべている表情に、春華王は己が目を疑った。呻き、搾り出すように呟く。 「笑っている……」 引き吊り歪んだ笑顔が、太陽を見上げて固まっていた。 (執筆:御神楽) オープニング6(11月22日) ●知皆の街 怪物が襲い掛かってきた。精霊様の声が聞こえた。天帝の意にかなうと思って。自分でもよく解らない――住民らの答えは支離滅裂だった。 リュートリア(ic1209)の淹れた紅茶で身体を温めながら、住民らは深くうなだれる。 「街の様子が変わったのはいつ頃からかわかりませんか?」 花藍(ic0822)の問いに答える住民たち。 正確なところは解らない。最近治安がよくない、という話題は前々からあったという。だが、著しく空気が悪くなったのは、偽王が知皆の街に姿を現して現王朝に宣戦を布告した前後らしい。 最初は皆、戦が近いせいでピリピリしているだけだろうと考えていた。 だが、ある日、とある民家で強盗殺人がおこった。犯人は隣の住人だった。 それからは、すすき野に炎が燃え広がるようだったという。隣人が挨拶を無視するようになる。市中で疑いの眼差しを感じる。些細な行き違いが暴力沙汰になる。恐怖心が背後に迫りはじめた。家に篭る。酒に浸る。夜、落ち着いて眠れない。 流れの商人その他が蜘蛛の子を散らすように逃げ出したのは、開拓者たちも現に遭遇したとおりだ。 そこへ、ジャスミン・ミンター(ic0795)が現れた。 「どうでしたか」 花藍の問いに、ジャスミンは小さく首を振った。 「あの状態では、確かな情報は引き出せそうにありません」 彼女は、アヤカシに積極的に従う立場にあったであろう敵将ならば、あるいは何か聞きだせるのではないかと考えたのだがその結果は決して芳しくなかった。敵将は錯乱状態にあり、抵抗力が激しく、術を用いて解除することも困難なようであった。 「まるで狂気に憑かれたかのよう」 ●身中の毒 「これは……」 山の斜面の木々の合間で、腰まで届こうかという金髪がふわりと揺れた。 此花 咲(ia9853)はひょいと後ろを振り返り、他の開拓者たちを手招きする。それに気付いた数人の開拓者が素早く駆け寄り、そっと様子を伺う。 眼下を進むのは、敵の軍勢であった。方角は要塞正門。 ちらと目を空へ向け、北條 黯羽(ia0072)は頷く。 「……なるほど。そういえば、もうそんな時間だな」 潜入作戦前に展開されていた陽動作戦は、あくまで本命である潜入部隊を補佐する為のもの。十分に敵を引き付け、所定の時間を稼いだことで後退している筈だ。敵軍も、こちらが退いたと見て要塞へ戻るところなのだろう。 「このまま黙って見送る、というのも芸がないね」 大淀 悠志郎(ia8787)が、視線を下に落とす。そこにあるのは、内部で奪った敵の装備だ。 「幾つある?」 「そう数は無いな」 北條の問いに、後ろを振り返った。 「合言葉や伝達の合図などは、特に定められていませんでした。今なら、行けなくはありません」 要塞内で観察した敵兵の様子を思い出し、此花が頷く。仮に、今回の一件で新たにそれらが定められるとしても、それは「今から」だ。つまり、今はまだ、敵の備えは十分ではない。 装備の数は少なく、要塞内の異様な雰囲気に対する懸念もある。 だが、このチャンスを逃せばもう一度は無いかもしれないのだ。 ●悪意 部下から届いた報告に、偽王は小さく首を振る。 「そうか。高檜を彼らの手に奪われたと」 「……」 報告に現れた部下は、真青な表情で畏まり、じっと床を見つめている。 前春華王の子、つまり現春華王の甥にあたる少年、高檜を開拓者たちに奪われ、移送任務を指揮していた彼は、もはや気が気ではなかった。 「おもてを上げよ」 真青な顔をゆっくりと持ち上げる部下。 「ご苦労であった」 彼と視線があうと、偽王は憔悴しきった様子の部下ににっこりと微笑みかけた。 「汚名はそそげば良い。将の将たる者、不明なる者を向かぬ任に就けた己自身をまずは戒めなくてはね。貴様は別の任に就けるとしよう」 「も、勿体無き御言葉」 部下もまた、その微笑と優しい言葉にほだされて心中でほっと胸を撫で下ろし、思わず頬がほころぶ。 「貴様はアヤカシの餌だ」 ほころんだ頬が引きつった。 「彼らはよく働いてくれている。たまには、彼らにも褒美をくれてやりたい。どうかな。適任であろうと思うが」 その問いに、居並ぶ臣下らはゆらゆらと頷く。 「お、お待ち下さい! 私めはただ!」 上ずった声を上げる部下。 「私の御心を汲むがよい」 冷たい声が凛と響いた。死霊兵が両脇を抱え上げ、わめく部下を引きずっていった。しんと静まり返った謁見の間で、ゆらりと偽王が立ち上がる。口端が持ち上がり、瞳に暗い情念が揺らめく。 「鍵ひとつでも構わないさ。贄無しでも、な。もはや、熟しきった柿だ。枝を揺らせば落ちて潰れよう……」 ●決戦 春華王らの本陣には、春華王自身の他に、ギルド総長大伴定家以下、翠嵐などのギルド職員と幹部に、司空亜祈、穂邑、複数名の開拓者に、それから代理のぬいぐるみが顔を揃えていた。 「それでは、まずはこちらの報告から」 立ち上がった翠嵐が、戦さの経過、知皆の異様などを一通り説明していき、促され、続けて亜祈が依頼について報告する。 「天帝宮の地下には、羌大師が待っていました」 他の列席者が驚きに顔を見合わせる。春華王自身も、呆気に取られた様子で首をかしげ、思わず聞き返した。当然である。羌大師は、泰においては様々な伝承に彩られた歴史上の人物だ。それが確かならば、彼は既に千数百歳であったということになる。 彼は、訪れた開拓者たちに幾つかの重要な足掛かりを示唆した。曰く、遺跡を守護する美狐龍に、それが守護する、守護されている筈だったモノと、狂気<フェンケゥアン>の関係。そして「空」なる概念を。 それらを語り終えた大師は、やがて砂楼のように静かに崩れ去った。 続けて、穂邑が口を開いた。 彼女たちが出合った「声」の主は、神霊「盤境」。 名をバン・ジゥンという。片手を掲げ、顔を覆い隠す髪が四方へ伸びた、猫族のような人物だった。穂邑の神代があってか、抽象的で曖昧ながらも辛うじて成立した会話からは、要約すれば以下のことが解った。 彼――神霊に精霊の別があるかは解らないが――は、境界を司り、泰儀を支えていると言った。穂邑らを呼んだのは、彼の支える泰儀に陰――狂気<フェンケゥアン>が迫っていることを警告せんとした為だ。地上の争いを収める為には、狂気を切り離せ。そこまでで、穂邑は限界に達した。 「フェンケゥアン……奴も、偽春華王も、そんなことを語っていたな」 朱華(ib1944)が告げる。 彼は、潜入した要塞で退治した偽王の言葉を聞いている。何より、現場に居合わせた開拓者らにとってすれば、そこに狂気の気配があったことは確かな実感である。しかし同時に、彼らの頭をよぎるのは、ただかの偽王を討つだけではダメなのではないか、という直感めいた疑念であった。 蓮 神音(ib2662)が、ばっと立ち上がった。 「昔二人の王様がケンカしてたこと、それも、フェンケゥアンが動いていたって言ってたよ」 彼女が言っているのは、梁山時代のことだ。春王朝が並び立ち、覇を競った。現在泰を統治する春王朝は、この時代の東春王朝を母体としている。この時、西春王朝の兄王は、決戦の最中で命を落としている。だが今、フェンケゥアンは再び戦乱を引き起こしている。ただ討つだけであれば、この時に一度討たれている筈であるにも関わらず。 「それに、詳細な報告書はまだですが、偽春華王は確かに人間であることが報告されています。彼自身にアヤカシが後から取り付いた様子はなく、むしろ彼の周囲にこそ豹変や狂い死んだ人が確認されています」 ぬいぐるみに代わって、翠嵐が報告書をめくり、読み上げた。 春華王が、浅く顔を伏せる。 「偽王を討っただけでは、やがてまたこのようなことが繰り返されるということか……」 大伴が頷いた。 「神霊盤境の言葉を借りれば、争いを収めるには、フェンケゥアンを切り離せとのこと……偽王を討つだけでは、いずれ再び同じようなことが起こりましょう。 天帝宮地下に、軍を入れさせていただけませぬかな。羌大師の言葉が確かならば、フェンケゥアンは、何らかの依り代と共に、天帝宮地下にて、美狐龍と申す者に守られております。地上の争いに留まらず、地下遺跡に隠された真実にも辿り着かねばならぬのです」 「……」 押し黙り、じっと考える春華王。 彼は目を閉じると、ややして顔を上げた。確かな決意を秘めた瞳の奥に、静かな炎が燃えている。彼は微笑み、幾度と無く繰り返してきたその言葉を口にした。 「よきにはからえ」 (執筆:御神楽) |